表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

続・この世界の主役たち

スキル多かったりレベル高い人たちは、その数に応じて耐性があるので何とか気合いで頑張れる場合があります。でも、近距離だとノックアウトします。気を抜いたり緩めたりしてもすぐにノックアウトします。

~side マール王国の人々~


私は門番という仕事に誇りを持っているつもりだった。

過去に魔王軍や魔物の大群が攻めてきたときも、民を守るために門の前から動くことはなかった。

多くの場合ここまで魔物が近づくことがなかったということもあるが、時に包囲網を抜けた魔物がやって来ることもあった。

もちろん、包囲網を抜ける魔物など雑魚なはずもなく。

時にはBランクの一角狼、時にはAランクのサイクロプスなど。

そんな魔物が来ても、応援が来るまでの間時間を稼ぐのが門番の役割であり、私と相棒はこれまで致命的な大怪我をすることなくその任務を果たしてきた。

正直、少し調子に乗っていたといわれても仕方がないかもしれない。

だがその誇りこそが魔物の前へと突き進むための原動力なのだから、少しは大目に見てほしいものだ。


しかし。


その誇りは今やかけらも存在しない。


少し前から、前方の平原からすごい威圧が届いている。

この威圧は、前に騎士団長の秘蔵の酒をくすねた罰として鬼の形相をした騎士団長にボコボコにされた時より恐怖を感じる。

おかしいな。鬼の形相をした騎士団長を見た魔王軍の幹部、ガン泣きして逃げて行ったくらい怖かったのに、今思い出したら何も怖くない。

更に言うと数年前の魔物大襲来の時の、時間稼ぎのために少数の兵士で平原のど真ん中で足止めをした時より生き延びられる気がしない。


否、はっきり言おう。


今すぐこの場から逃げたい。


民のことなどいい。誇りなどいい。

逃げたい。

これ以外、どんどん思い浮かばなくなる。

だが、逃げれない。

門番だから? 


否。


足が動かないのだ!


これまで多くの凶悪な魔物に対峙した時でさえ私の思うように動いてくれていた足が!

騎士団長からも逃げおおせた私の足が!

まったく動こうとしないのだ!!

まだ相手の姿は見えない。

だからだろう、すり足くらいなら何とか動く。

だが、歩けない。

このままではいけない!

すり足で何とか体を壁のほうへ向ける。

急げ! 急げ! 間に合え!

よし! 壁のほうを向けた! あとはこのまま動かずにいるだけだ!

ドラゴンの群れがいる山の中に放り込まれ、一晩中身動ぎ一つせずに過ごしたあの特訓キャンプを思い出せ!

私は石、私は石、私は石、………

そうして私は、いや、”私たちは”こうして直立不動の置物となったのだ。






















商業大国マーチ王国。


そこでトップを争う商会というのは、この大陸においてもトップを争う商会ということ。

合併工作に敗れ、商会規模1位の座は明け渡したものの、各地との連携力ではまだまだトップだ。

また、他の商会があまり進出できていない帝国において、進出している大商会は私のところだけだ。

合併の連携が深まるのが先か、その前にすでにある商会を発展させて根を張りきるのが先か。

そんなことを考えている時だった。


「な、なんだ、この威圧感は!?」


突如、物凄い威圧感が私を、否、私たちを襲ったのだ。


「な、こ、これは…!?」


「会長、すぐにお逃げください!」


「会頭は支度を! 私は情報を少しでも集め、ぐっ、」


だ、だめだ。この威圧ではろくに動けない。逃げるのは無理だろう、なら、せめて。


「この圧では馬は動けん! 町の外は無理だ! 何とか動けるものを集めて、せめて従業員を非難させろ!」


「「「は、はい!」」」


「私は他の店を見て回る! 少しでも多く生き残れるよう、何とか気力を振り絞ってくれ!」


「「「は、はい!」」」


外に出てみれば、やはり恐慌が始まりかけていた。

ライバルのアイツも丁度外に出たとこだったのだろう、同じように周りを見渡しては私と目が合い、


「「……」」


互いに無言でうなずき、奴は北側、私は南側の店々に声をかけて回った。

途中から、何人かの見回り兵士も合流してくれた。

そして全く動けなくなるまでの数分で、何とか大通りすべての店を閉めさせることができた。

店の中から逃げ損ねた人も多いだろうが、扉が開いているよりはマシと思いたい。


私は今、門の近くで石像と化している。

あの勇敢な門番達とともに、壁を向いて身じろ気一つしないまま直立不動。

まだ姿は見えていない。だから間に合った。

物凄く気配が強くなってきている。

まもなく私は意識を失うだろう。

だが、やれることはやった。

















「こ、この威圧感は…、これほど、とは…」


「陛下、まもなくヤツが城門にたどり着きます。私はそこから誘導を行いたいと思います」


「さ、さすがは、騎士団長、だな…、頼む、ぞ」


「は、気力の続く限り…、それでは!」


そうして騎士団長が”姿を見せずに”声かけを行った結果、何とかこの王の間まで誘導できた。


さて、ここからは私の仕事だ。


入り口近くで完全に気を失って置物になっている騎士団長に報いるためにも、なんとしても交渉を成功させねば!

まずは、敵意の無さをアピールせねば!


「わ、我が国はそなたと敵対する意思はない。希望があればできるだけ全て聞こう! 我々は何をさせてもらえばよいのか?」


要望は全て聞く! だから、なんとしても民の虐殺だけは阻止せねば!


「いや、敵対とかないです! ただ、どこか休める場所と、魔王軍の動きを教えてもらえればと…」


え、本当?? いや、まだ始まったばかりだ。安心して少しでも気を抜けば一瞬で気絶してしまう!

…はっ、まさかそれが狙いか!?


「そ、それだけですか? 宰相! すぐに屋敷の手配と魔王軍に関する調査報告を準備せよ!」


「は、はっ!」


屋敷は最上級。丁度、話の分かる侯爵の屋敷がすぐ近くにある。そこで持て成すことで少しでも心証をよくしよう!

調査報告は、それこそよく行われる魔王軍の編成とか本拠地くらいしかないが、これほどの人だ。これで十分だろう。

さて、あとは如何にして気分を損ねることなく少しでも早く、王都から出発していただけるかだが…


「あ、いや、今晩だけ休めれば。情報をいただければすぐに次の町へ向かいますので…」


まじか!? あっ、あのあほ大臣、安心して気を失いやがった! おかげで儂は気を失わずに済んだが、腹が立つからあいつ後で減俸処分だ!

そうこうしながら、次の話題を考えていると、


「あ、えっと、非常に頼みにくいのですが、手持ちがありませんでして、少しでも貸してもらえないかな~って、無理ですよね?」


何と、お金がない!? いや、これほどの実力者がお金を持っていないなどありえない!

そうか! 支援金の額で、我々の誠意を図ろうというのだな!?


「おい! すぐに支度金を用意しろ、財務大臣!」


分かっているな? 最高の白金コインだぞ!?


「は、はい! すぐに!!」


よし、あれはたぶん理解したな。

金貨100枚あれば王都に豪邸が建てられる。そして白金コインは1枚で金貨1万枚の価値。

ぶっちゃけ白金コイン1枚で王都内の貴族邸すべて購入できる、それほどの価値。

それを100枚渡せばさすがに少ないとは思われないだろう。

だって、我が国全体の年間予算だからな!!!

来年からは借金地獄が待っているだろう。

だが、国が亡ぶよりはマシなはずだ!


「え、えっと、本当によろしいので、しょうか…?」


おや、この態度はどういう意味なのだろう? なるほど、「お前たちは納得のできる理由を用意できるか!?」という問いかけか!

確かにこの威圧の前では考えをまとめきれずに自爆する奴もいるだろう!

だが、私は長年武力のみで脅しをかける相手に死に物狂いで交渉してきたのだ!!

死ぬほど怖い思いをしていても、ちょっぴりどころかかなりちびっている状況でも、それぐらいは答えられる!

その前に、威厳、威厳、…


「魔王軍は我が国ならず、多くの国にとって非常に脅威なのだ。少しでもその脅威を払っていただけるのならば、いくらでも援助させていただきます!!」


ど、どうかな? 声に威厳を出せたかな…? 


「お気持ちはわかりました。必ずや魔王軍を止めて見せましょう」


やった! 通じた! これは成功だろう!! というか成功であってくれ(´;ω;`)


「お、おお、まことでございますか! ありがとうございます……」


あ、ああ、あまりの嬉しさに涙が……、儂よ、まだ終わっていないぞ、気合じゃ!!

って、あれ?? いきなり威圧感増したんだけど、どういうこと?? え、もしかして交渉失敗?? どこでやらかしたんだーーー!!!


「「「ひぃっ!?」」」


おい周りの奴ら! 泣きながら気絶しやがった!! ちょ、今起きているの儂だけ!? さすがに孤独感追加されたら耐えられないよ!!


「お、お待ち…ひぃっ!?」


あ、ナイスタイミング! 宰相~待ってたよ~~(´;ω;`)


「お、おお、良いタイミングで戻ってきたな(泣)、早くこの方にお渡ししなさい! 早く!!」


「ひゃ、ひゃい・・・(大泣)」


よし、ほんの少しだが威圧感が減ったぞ。


「ご、ごれぼ…」


あ、このおっさん泣き顔ドアップはだめだわ。

これはオワタ


「あ、ありがとうございます」


「どぼいだじまじで!!」


え、まじ? スルーしてくれたの?? 実はいい人? あ、宰相気絶した。許さん!


「お、お待ち…ひぃっ!?」


おお、財務大臣、お主こそ救世主じゃ~


「早くお渡ししなさい!」


「ひゃ、ひゃい・・・(大泣)」


よし、これで少しは印象が良く…

あ、だめだ。おっさん泣き顔ドアップの罰ゲーム再びだ。あかん!!!!!


「え、ちょっと、これって、結構入っていませんか!?」


お、よし! これはキタ━(゜∀゜)━!


「旅にはお金がとてもかかるでしょう、どうぞお持ちくださいませ!!」


どうぞどうぞ! 我が国全体の年間予算程度で国の滅亡を回避できるなら安いものです!!


「そ、そう言われるのであれば、お言葉に甘えて…」


よしよし! 中を見て少し驚いているぞ!

お、考えている振り! これは印象アップ間違いない!!


「で、では、情報やお金の支援など、ありがとうございました。えっと、こちらの宿? に今日は泊めさせていただきます。明日朝一で出発しようと思うのですが、よろしいで」


え、明日出て行ってくれるの!? マジ!?!? よっしゃー!


「ぜひ、そのようにお願いします!!」


興奮しすぎて喰い気味だった気もするが、ま、まぁ大丈夫だろう。

……大丈夫だよね?

あ、威圧感が少しだけ薄れたからか、何人か気絶から復活した! よし、あいつらには特別支給をしてやろう!! ほかの奴らはしばらく無給だがな!!!


「ではこれで失礼します。いろいろとありがとうございました。」


「「「お気になさらずに!」」」


よっしゃー! 乗り切ったぞ! この国難を!! あとは侯爵に任せて、いや、不安だから騎士団長をたたき起こして向かわせよう。

あやつにはあとで十分な手当てをしてやらんとな。


じゃあ、もういいよね?

それではみなさま、ごきげんよう

パタン















え、この人をもてなすの? 無理ですよ? だって、意識があるの、メイド長と執事長と侯爵家当主の儂だけじゃよ?

今、ようやく気絶した皆を空き部屋に押し込んだんだよ? 時間も人手も無いから屋敷内の扉がほとんど開けたままなんだよ?

夜飯は儂の分を回すけど、朝は? メイド長が調理して、執事長が給仕するの? なるほど、それなら何とか。


・・・ちょっと待て、じゃあ誰が接客案内するの? え、適材適所? あ、ちょっとまって、一人にしないで!!

あ、騎士団長! 応援か! ありがとう、たのむ、接客案内を…? あれ? どうして動かないの? ちょっと!!


















ようやく出立された。

まだ多くの人が気を失っているのだろうが、もう出立から半日経っている。これからどんどん目を覚ましていくことだろう。


情報収集のため王都に潜入していれば、とんだ災難にあった。

俺は命が惜しい。

確かにこの計画を発動すれば王都は大混乱。

そうなれば騎士団長は王都にとどまり続けることになり、周辺は攻め放題だ。

あとはこの筒に火をともして合図を送るだけだった。


だが、もはやどうでもいいことだ。


俺は逃げる。


あんなのと敵対するとかありえない!

何だあれ! 遠目でちらっと見ただけで気絶するとか、魔王さまより怖いんだけど!!!

恐らく潜入している同胞たちも同じ気持ちだろう。

アレと敵対したら死しかない。

いや、無残な死、だろう。

意識を取り戻したら同胞をまとめ、どこか地方へ落ち延びよう。

命があるだけましだ。


いや、生きている、という実感があるのであれば、命だって惜しくない。

さようなら、今までお世話になりました。

私は今を持って魔王軍を抜けます。




お読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ