脇役は頑張る。彼らはこの世界の主役なのだから。
~side 狼~
ソレはいつの間にか群れの中にいた。
そして、ボスが攻撃を受けるまで誰も認識できていなかった。
ボスが声を漏らしていなければ、最後まで誰も気づかなかったかもしれない。
否、気づくべきでななかったのかもしれない。
我々が気づいた直後、ソレからとんでもない威圧感が噴出した。
恐らく、気づかれたから隠密から威圧に変えたのだろう。
そして、ソレはいつの間にかどこかへ消えていた。
匂いは残っていたので何匹かの同胞が追いかけたが、そいつらも途中で追うのを諦めて戻ってきた。
見失ったのではない。
ただ、どんどん増していく圧に負けただけなのだ。
群れで戦うのなら、最近調子に乗っている魔王軍とかいう群れも蹴散らせる。
さすがに幹部と呼ばれる輩が何匹もいると多少は苦戦するが、しかし倒せないことはない。
そんな誇りなど、ソレの前では命を捨てる行為でしかない。
あれは触れてはならないものだ。
近づいてはならないものだ。
幸い、ボスは気を失っているだけだった。
状況からして、わざわざ俺たちの群れを襲ったというよりは、転移系のトラップで飛ばされてきただけなのだろう。
そして、我らのような雑魚など戦うに値しない、ただ時間の無駄と判断したのだろう。
我らにとって、その判断は幸いだった。
願わくば、ソレと二度と会わないことを。
そう願い、我らはソレが去っていった方向と反対側へと向かうことにした。
そう。
ソレと再び出会うくらいなら、魔王とかいう若造と領地争いするほうがはるかにマシなのだから。
~side マーチ王国 王宮~
「陛下、物凄い圧を放つ何者かがこの都に向かっております。未だ外壁上から目視できない距離にもかかわらず、すでにこの圧…」
「うむ、余にも感じるぞ。まるで近くにいるかのようだ。騎士団長よ、そなたが全軍を率いればアレを止められるか?」
「申し訳ございません、ここまで力の差を感じる相手となると、全軍を用いても民の避難時間すら稼げないかと…」
「そうか、魔王軍の幹部ですら一騎打ちで討ち果たしてきたお主でも、無理か…」
「はっ、申し訳ございません。…ただ、ここまでに多くの村や町があったはずですが、そこからは何も報告が届いておりません」
「む、それは気になるな」
「はっ、これは勝手な憶測になりますが、おそらくは敵対ではなく何か交渉があり、この都近くでようやく圧を開放したのかもしれません」
「なるほど。しかし、もはや避難が間に合わぬのなら会ってみるしかないな。騎士団長よ、全ての兵に伝えよ。民の避難とアレへの敵対禁止をな」
「はっ、直ちに」
~side マーチ王国 大通り~
「な、なんだ、なんなんだ!? このプレッシャーは!?!?」
「おい、何かがこの都に近づいているらしいぞ!!」
「ま、まさか魔王軍か!? それとも神狼の群れか!? だが、それらが近づいてきたという情報は全くなかったぞ!」
「お前ら! 軍から避難命令がでたぞ! すぐに荷物をまとめて北門から逃げろだと!」
「な、なに!? 都にあの騎士団長がいるにもかかわらず、避難命令だと!?」
「となると魔王軍が全軍で攻めてきたのか!!」
「な、なんだんだだだ!?!?」
「お、おおぉぉ、この威圧感は!?!?」
「だ、だめだだめだだめだ、もう間に合わない! 戸を閉めて」
「隠れろ! 隠れろ!」
「逃げろーーー!!!」
これまでに何度も魔王軍に攻められたが、気にせず大通りは人であふれていた。
しかし、おそらくは建国史上初めてであろう、大通りから人が消えつつあった。
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