第二十九話「双華の賑わい」
そして気が付けばモノトーンの世界に居た。
「上手くいったみたいね」
「はい。見てたんですか?」
「えぇ、見てたわよ」
「うん、見てたよー」
リア様に続いて聞こえた聞き覚えのない声。顔を上げると、そこには見覚えのない顔。だが恐らく誰だか解る。
「ルーテシアさん、ですか?」
「いえっす。マイネームはルーテシア。魔界の女神だよん」
軽いな、と思いながら視線を向ける。
ラベンダーの髪にアメジストのような紫紺の瞳。バランスの良いリア様と比べると自己主張の強いスタイルの持ち主だ。
「はじめましてー、リアの使徒さん」
「どうもはじめまして、ルーテシアさん。
それでリア様、なんで敵の女神がここに?」
「敵って酷いなー。そんでリアは様付けなんだね」
「ルー、アラタと話をしたいから少し黙ってて」
疲れた様子のリア様。ルーテシアさんの相手は疲労感が凄そうなので、きっとそう言う事なのだろう。
「ルーがここにいるのは決着が付いたから。私が降参を受け入れてね」
「それはおめでとうございます」
「そんな訳で、もう魔玉はいらないから」
それは助かるな、と思いながらも1つの懸念を抱く。それはリア様も予想していたのだろう。続けて説明がされる。
「ちゃんと約束は守るから安心して。この後、アラタと、シュリちゃんと、リーリアの3人を向こうに送るから」
「え、リーリアもですか?」
置いて行くつもりだったんですが、と口にしようとしたのだが、リア様に睨まれて止める。どうしようかと視線をさ迷わせると、ルーテシアさんと目が合った。そして何故か僕の前に座る。
「暇だし、リアみたいに髪やって」
「いいですけど」
「良くないわよ!」
女神様の言葉に逆らう訳にもいかないので仕方なく、本当に仕方なくラベンダー色の髪に櫛を通して行く。リア様は何が良くないんだろうね。僕にはわからない。
「それで、なんでリーリアまで?」
「引き受けてくれるって約束でしょ?」
「そう言えばそうでした」
逆に言えば本人を説得して置いて行くのは良いと言う事ではないだろうか。むしろ着いてこれると言わなければ諦めさせる事も出来るのではないだろうか。
「一応言っておくと、納得させずに放って来たら怒るから」
「説得さえすれば置いて来るのは別に良い、と?」
「そうね。あの子の意志なら尊重してあげないとね」
「あー、きもちいー」
ルーテシアさんは自由だな、と思いながら髪を梳る。短めの髪もこれはこれで良いかもしれない。良い感触だな、と思いながら思考の半分はリーリアの事を考える。なんとかして説得しなければ朱里が怖い。
「お手伝い、と言うかメイドさんにでもすればよくないー?」
「便利でしょうけど、うちの奥さんが嫉妬するので」
「いやいや、シュリちゃんはまだ奥さんじゃないでしょ」
すかさずつっこむリア様。慣れてる感が凄いのが、ルーテシアさんとの付き合いは長さを物語っているようでちょっと面白い。
「リーリアを連れて行く場合は、やっぱり能力付与なしですか?」
「そうね。アラタの分を没収しておくわ」
「リア様のケチ」
「リアのけちー」
「ルー、煩いわよ」
世界を渡ればリーリアは完全に寄る辺がなくなってしまう。渡る前なら少なくともリア様の信徒と言う仲間がいる。だから置いて行きたい。折角朱里に受け入れて貰えたのに火種はいらないし、責任を取る相手が増えるのも困る。
「なんとか説得するので移動は僕と朱里だけでお願いします」
「もし説得出来てなかったら、無理やり追いかけさせるからね?」
「解りました」
約束が良い形で履行されそうな事に安堵しながら、ルーテシアさんの前髪をピンで留めていく。ついでに頭の天辺を一房括り、アンテナを作ってみる。完成だ。その勢いで頭を撫で、手櫛で髪を梳く。
「おー、あー。撫でられるのもたまにはいいなー」
「喜んで頂けてなによりです」
「うむ、くるしゅーない」
「あぁ、もう、アラタ。次は私よ」
「承りました、リア様」
リア様から頼まれるのは初めての事なので張り切って行かなければ。何時も通り髪先から順に丁寧に梳り、手を動かしながらどんな髪型にするか考える。
「そう言えば、付与する能力はどんなものが良い?」
「選ばせて貰えるんですか?」
「限度はあるけどね。それとも私のお勧めにしておく?」
女神様のお勧めか。少し惹かれるものがあるが、リア様はちょっとドジっ娘の気があるので不安もある。
「お、じゃあ私もえらぶー」
「じゃあ、シュリちゃんのはルーに任せようかしら。本人には聞けないし」
「不安しかない人選。そうすると自分だけ選んだと責められそうなので僕はリア様のお勧めでお願いします」
梳り終わった髪を集め、後ろで捻る。そして簪を差し込めば出来上がり。和装ではないのが少し残念だが、うなじが色っぽく、良い感じに仕上がった。
「どうですか?」
「おー、リア、似合ってる」
「中々いい感じね。さすが私の使徒」
女神に軽々しく触れるのはとか言っていたのに、それ気にしていないどころか自慢げだ。僕的に凄く嬉しいが。
「さて、そろそろお別れね。あっちの世界でも、がんばって」
「次も髪やってねー」
「ルー、次もついて来るつもり?」
「うん。すごい気持ちよかったし」
「もう、ルーは。そんな訳だからアラタ、次もまたよろしくね」
今後もまた会えると聞いて、少し安堵している自分にちょっと自己嫌悪。そして朱里の顔が浮かんで罪悪感を覚えながら、意識を手放した。




