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第二十六話「脱走の下準備」

 地下牢はかなり暇だった。

 暇だったので食事を運んで来た神官の人を質問責めにした結果。祭壇は建国当時からある古い物で、世界を創造した神の祭壇なのだそうだ。今は狂って人を滅ぼそうとしている邪神、と言う設定らしい。創造神の祭壇を排して世界が保てなくなると困るので残されているのだとか。


「迂闊だったなぁ」


 独り言で愚痴りながらも余裕があるのは、朱里達が脱出済なのを知っているからだ。一定時間連絡とれなかったら一時離脱、と事前に決めていた。まぁ、朱里は最悪登録を知らなかったと言えば誤魔化せるだろうし、僕も棄教すれば同じ手を使えたかもしれない。捕まった時点で逃げ隠れ出来ないので、殺されていないなら登録して正面からやってくれば良い。救出出来るかは状況次第。


「よう、お前、邪神の使徒だったんだな」

「実は銀髪美女に口説かれてな」


 訪ねてきたのは、先日外で会った葛西だった。好戦的っぽかったし、もしかして敵認定されて攻撃仕掛けられたりするのかな。


「抵抗もしなかったらしいが、なんであっさり捕まった」

「いやぁ、土壇場で不味い事に気づいてさ」


 僕も自衛くらいは出来る、と自負していたのだが教会の兵と対峙して気づいた。僕の魔術、と言うか銃撃の魔術って手加減出来ないな、と。いや、がんばれば出来ると思うのだが調整ミスると相手は死ぬかもしれない。さすがにそれは怖いし申し訳ない。


「怖気づいた訳だ」

「魔物相手ならもう少しましにやれたと思うんだけどね」

「言い訳か?」

「そんなとこ」


 挑発され、それをのらりくらりと躱す。ここに来た同郷はこの葛西だけで、どうやら緘口令が引かれているらしい。だから僕が捕まった事を知っているのは彼と、護送中に会った恩恵封じの恩恵を持っていると言う女子だけだ。


「改宗、なんで拒否したんだ?」

「寿命半分とか改宗した瞬間に死ぬ可能性があるし」

「じゃあ、逃げる当てがある、って事か?」

「いや、改宗は最終手段だし、何とか説得出来ないかなと」


 リア様に棄教条件がない、なんて勿論正直に話してはいない。棄教すると、脱出手段である魔玉の回収でゲーム終了が出来なくなるので、する訳にはいかないのだ。


「これ、仕掛けだろ?」

「何のことかな?」


 葛西が指さしたのは、自分の腕に巻かれているミサンガだ。そこまで予想して身に着けているとか、実は自信家なのかもしれない。


「いやな。俺、結構強いと思うんだよ。魔族の連中も結構焼いたし」

「焼く、か。便利そうな恩恵だな」

「便利だぞ。それで、だ。同じ恩恵持ちとも殺し合ってみたいな思ってたところだ」


 こいつバトルジャンキーか。出来れば会いたくなかったな、と思いながら少し考える。しかし利用するにも危険度が高い。高いが、試してみるべきかな。


「脱走の手引きでもしてくれるのか?」

「何でそう思った?」

「恩恵持ちと戦いたいんだろ? こっちに来れば戦い放題だぞ」


 同郷を焼く同郷とか見たくないが、背に腹は代えられない。まぁ、実際に味方になったら脱出後即座に後ろから撃つけど。敵味方の被害を抑える為に、殺さない程度に。


「それに僕、恩恵封じ掛けられたし」

「知ってるよ。だがあれは離れりゃ無効化されるからな」


 それは良い事を聞いた、という風な表情を作っておく。実は困ってないけどそれを教える義理はないし、もしかすると戦えるならとここで襲い掛かって来る可能性もある。相手はバトルジャンキーだしね。


「そんな訳で、ほれ」

「どうも、って、鍵?」

「明日の昼、外で出陣式をやるからこっちが手薄になる」

「ほー」


 それを僕に教えてどうしようと言うのか。まぁ、予想はつくけど。


「全員相手にするより、俺だけの方がましだろ?」

「どっちもお断りしたいかな」

「出口で待っててやる」


 そう言って葛西は立ち去る。待っててくれて、案内でもしてくれるのかな。してくれるんだといいな。無理だろうけど。そんな事を考えながら、とりあえず寝る事にした。







 数日ぶりに訪れるモノトーンの世界。敵陣真っただ中でも出て来れるとかさすがリア様。いや、上にある祭壇はリア様のだったか。そう言えば。


「無茶をしましたね、アラタ」

「無茶と言うかドジを踏みました。ごめんなさい」

「いえ、そう言う事もあるでしょう」


 意外と冷静だな、と思いながらリア様と向かい合う。今日は2人とも立ったままの状態だ。


「ちなみに、魔玉は既に持ち去られました」

「朱里達が、と言う事ですか?」

「そのくらいはいいかな。その通りよ」

「見た目もわからないのに良く見つけたなぁ」


 魔玉の判別方法は、触れれば解る、以外の情報を教えるのはルール違反らしいので詳しい事は聞けていない。宝石っぽい物を片っ端から持ち去った可能性もあるが、脱出の事を考えればある程度目星を付けて持ち出したはずだ。さすが朱里、と思ったがあっちには魔玉を知っているヴィオレが居たんだった。


「もしかして、捕虜が持ってたとか」

「ノーコメントよ」

「神都にある、は言ってもよかったのにこれはダメなんですか?」

「魔玉に関する直接的な情報は渡せないの」


 ふむ、と一息吐いて考える。持っている人、は間接情報のはずだ。飲み込んでいるから一体扱いとかだろうか。そもそも飲み込んだり出来るサイズなのかわからない、ってそれかな。サイズ情報なら直接的と言えるし。


「答えられる範囲で魔玉の位置を教えて貰えませんか?」

「今も神都にあるわ」

「わー、大雑把ー」


 朱里かヴィオレか、もしくは姫様が持っていると思うので今は良いが、見失ったら面倒だなと思いながら気づく。僕が余計な事をしなければ、既にクリア済だったんじゃないかな、と。


「完全にやらかした」

「そう言う事もあります」

「でも、どうしようかな。脱出自体は難しくないけど」

「そうなの?」


 方法は幾つかある。

 例えば、似たような手で内部に戦力を送り込んで貰って陽動。その間に脱出する。教会の人、僕が異世界人だと知って恩恵封じの恩恵を施したのだが、残念ながら僕は魔術派だったので特に制限はない。


「はい。そう言えば髪留めの召喚と位置確認って恩恵じゃなかったんですね」

「そもそも、恩恵はあいつらが勝手に設定したもので、私とは関係ないから」


 系統違いだったようだ。まぁ、そんな訳で僕は銃撃もウィンドカッターも使えるので牢を出る事自体はそこまでの難易度ではない。問題は外に居る恩恵持ちの同郷なので、それを陽動なり誘導なりで動かせば脱出出来ると言う訳だ。緘口令のおかげでミサンガも捨てられてないようだし。


「人界軍が動くタイミングとかわかりませんか?」

「知らないわ」

「んー、じゃあリーリアに伝言お願いできますか?」

「……女神をメッセンジャーにしようだなんて、罰当たりな使徒ね」


 僕がのんびり牢に居た一番の理由がこれだ。殺されない限り、脱出には外との連携が重要になる。それを為す為にリア様を待っていた。朱里の方もミサンガや髪留めが消えない限り僕が無事だと解っているので無理をせず逃げたのだろう。ちなみに僕が死んだら本当にそれらが消えるのかは解らないのだが、消えると言う体で説明がしてある。


「明日の昼に脱走する。出来れば教会入口が見える位置で待機して。敵は葛西」

「手のかかる使徒だけど、魔玉が手に入るのなら仕方ないわ。協力してあげる」

「自分で言ってからなんですが、ルールに抵触したりしないんですか?」

「魔族相手にやり過ぎるとアレだけど、これは人間相手だから、ね?」


 悪戯っぽい笑みと共にウィンクを1つ。どうやら本来はダメな事らしい。僕は助かるからいいけど。


「じゃあ、すぐに伝えてくるから今日はこれで。次会う時は魔玉と一緒だと嬉しいわ」

「微力を尽くさせて頂きます」


 じゃあね、と言う声と共に意識が遠ざかる。相変わらず心地よい、鈴の様な声だった。


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