第二十五話「教会の探索」
未だに名称不明な元クラスメイトに連れられ、僕達は教会へと向かった。内部に入る際に登録を求められたら、忘れたと言って日を改めてお願いして帰る、と決めていたのだがあっさりと通される。まぁ、住居に帰るのに一々登録出せと言われたら使徒である同郷組の印象が悪いし、そんなものかな。
「ボス、ちょっといいかな?」
「はいはい、ボスは止めろって何回言わせんの」
叩いた扉から聞こえる女性の声。体育館によく響くと噂のボス、女マネの声だろう。
「こっちに合流したいってヤツらが居たから連れてきた」
「戦力は欲しいけど、そろそろ男ばっかも、って、あれ。女子?」
「はじめまして、2年の日野です。こっちはクラスメイトの坂と斎藤で、そっちは」
「保護者です。すいません、3年の古井です」
「ふぅん。いいわね」
それは何に対してでしょうか、と告げる前に立ち話も何だからと部屋に招かれる。中には少女が1人。その頭には角が1つ。
「――っ」
「抑えて」
フードが外れない様に気を付けながらヴィオレに耳打ちする。これで捕虜の位置が確定。念の為、マーキングして置く事にする。
「あ、これお土産と言うか御守です。ボスと、そっちの魔族さんもどうぞ」
「ボスっていうな」
「……」
無反応の魔族娘。僕が朱里に視線を向けると、特製の4本編みミサンガをその腕に巻く。引きちぎられたらどうしようと少し不安だったのだが、魔族娘はされるがままだ。
「攫って来ちゃった相手だし、仕方ないんだけど元気が無くてね」
「そうですか。後でお話しても?」
「構わない、と言うか是非お願い」
「俺はもう戻るから」
「あ、そう」
結局名前も聞けなかったクラスメイトが退室。そしてここはボスの為の個室らしい。これは好機なのでは?
「ボス、じゃない。すいません、名前を聞いても?」
「あぁ、自己紹介してなかったわね。荒木よ」
「荒木さん。ちょっと内緒話があるんですが、良いですか?」
「内緒話、ねぇ」
他の3人に視線を向ける荒木さん。メンバーの繋がりとかも謎だろうし、恐らく乗ってくれるんじゃないかなー。
「誰か同席させても良い? さすがに男の子と2人きりは、ねぇ?」
「身の危険を感じますか?」
「貴方は紳士的だと信じたいけど、一応ね」
「じゃあ、坂も一緒ならいいですか?」
「ふむ。そうね」
許可が出た。どうやら本当にそれが気がかりだっただけらしい。荒木さん先に部屋から出し、僕と坂ことリーリアで扉前を固める。これで事故率がぐんと下がる、はずだ。
「実は、女子3人を引き取って欲しいんです」
「それはもちろん構わないけど、貴方は?」
「人界軍に参加しようかなと」
話を長引かせる為の嘘だったのだが、荒木さんはとても嫌そうに顔をしかめる。これで話に熱が入るといいな。
「戦争したいの?」
「いえ、3人を守りたいんです。危険に晒したくないんです」
「そう。だったら戦争じゃなくて和平交渉をしない? 実はあの子、お姫様みたいなの」
姫様かーい、と脳内で突っ込み入れながら顔は最上級に驚いておく。いや、実際驚いてますけどね。
「戦争って、殺し合いもそうだけどその後の略奪が、ね。あんな風になるなんて思わなくて……」
略奪かぁ。物資や宝飾品の類もそうだけど、青くなっている様子からして女の方かな。そこまで考えがいかなかったのは何も考えてなかったのか、神様の精神干渉のせいなのか。後者だと厄介だな。
「略奪ですか。ちなみにお姫様と言うからには、何か重要そうなアイテム、宝玉とか持ってたりしませんでした?」
「ふふ。貴方も同じなのね」
何がだろう、と考えるが思い浮かばない。魔玉の在りかを聞ければと思ったのだが、話をつなぐのは難しいかな?
「ゲームみたいな感覚でこの世界を見てるでしょ?」
「いや、結構現実を見ましたよ。3人を守るのに魔物も、ついでに人も殺しましたし」
仕方ないので同情を引く作戦に変更。今すべき最優先事項は中の事情聴取と作戦会議の為の時間稼ぎだ。魔玉は他の方法で調査しても良いのだから。
「そう。苦労したのね、貴方も」
「守るべき相手がいましたからね。いなかったら荒木さんの言う通りだったかもしれません」
「そんな事ないわ。貴方は強い。うちの連中とは大違い」
中身のない会話だな、と思いながらもだらだら続けておく。これ、もしかしてもっと遠くへ連れ出してその隙に脱出とか出来そうかな? いや、焦りは禁物。荒木さんが眠っている間とかの方が安全な確率は高い。
「貴方の分の部屋も準備させるから、とりあえずうちの派閥に来ない?」
「派閥、ですか?」
「えぇ。恩恵で戦いたい戦争派と、私達和平派と、どっちでも良い自由派。後は貴方たちみたいな個人行動組ね」
「ありがたい申し出ですが、少し考える時間を貰っても?」
「別に構わないわ」
振り返り、扉を開けてリーリアを中へ。そして中途半端に身体を部屋に入れた状態で振り返ると、笑みを送る。荒木さんは少し驚いたような顔をしていたが、すぐに同じ様な笑みを返してくれた。もちろんただの時間稼ぎである。
「日野、今日は帰ろうと思うんだが」
「私はここに残ろうかなと思うんですが、どうでしょうか?」
「口下手2人を放り出すのは止めてくれ」
この会話は実際のところ、このまま夜にでも救出します?、今は止めとこう、と言った感じの内容だ。捕虜は結構安全っぽいし、一旦引いて人界軍が出立するのを待つのも手かもしれない。
「ちょっと話し合いたい事もあるしな」
これはヴィオレに向けての発言。今日は無事を確認出来ただけで我慢して欲しい。救出に来ている事も伝えられただろうし。
「あら、話合いなら部屋を貸すから今日はここに泊まっていけば?」
「……荷物の回収をしたい」
「じゃあ、一緒に行きましょ」
これは逃がして貰えないヤツだな、と確信する。一時拠点である倉庫がバレるのもマズイ。これは断る方がハイリスクかな。
「あー、わかりました、部屋をお借りします。
坂、僕は買出しに行くから荷物の回収をお願い。2人は待機で」
そう言ってリーリアと共に部屋を出ると、当たり前のように荒木さんもついて来た。朱里の視線が背中に刺さっているような気がする。その上でまた怒られそうな事をしなければならないのがちょっと嫌だ。
「それで、どこに行くの?」
「坂、ここで別れよう」
「はい」
そう言ってメモを手渡す。さて、上手くいくと良いんだけど。
「その前にお手洗いに」
「私も」
「私はここで待ってるわ」
荒木さんを残して公衆トイレへ。そう、公衆トイレがあるんですよ、中には。これは同郷向けの神様が設置させた物なのかな。少なくとも外では見た事が無い。
「どうぞ」
「あぁ。悪いが後詰を頼んだ」
「はい」
脱ぎたての認識阻害のローブを受け取り、リーリアと別れる。これがないと魔族娘の脱出の際に困る事になる。リーリアは無くてもそう目立たないのだが、日本人の坂が急に金髪少女になったらさすがに不自然が過ぎるので教会内での受け渡しは避けたのだ。
「お待たせしました。いきましょうか」
「坂さんは?」
「こっちで出来た彼氏に会いにいきました。今日はお泊りかな。あ、2人には内緒ですよ」
ささやかな秘密の共有でコミュニケーションを円滑にしつつ、戻らない事への布石を打つ。そのまま雑談を交わしながら幾つかの買い物を済ませると教会へ戻る。かなり心配していたのだが、朱里もヴィオレも無事にそこに居た為、戻るとすぐに部屋を1つ借りて作戦会議を行った。
「私と斎藤さんは荒木さんの部屋に泊めてくれるそうです」
そう言いながら朱里は、手元の紙に『どうしますか』と記入。
「そうか。そうすると僕はこの部屋を使わせて貰えるのかな?」
『ヴィオレはしゃべらないで』と書いてヴィオレの前に置く。少し不満そうだが、仕方がない。盗聴器、とまではいかずとも盗み聞きの可能性はある。そう言う恩恵もあるし、何より恩恵もちは全員身体能力が高い。耳をすませば壁向こうの会話も聞けなくはない。
「そうらしいですよ」
「僕はもう諦めた。派閥に入れて貰おう。あと、教会を探検したい」
「子供ですか。いえ、私も教会の内装には興味がありますが」
うろついててもそう言う理由ですよー、というアピールだが、誰も聞いてなかったら虚しいな。いや、聞かれてない方が良いんだけど。文章の方は、魔玉を探しをしてみる、と書いて、ほどほどに、と返された。ヴィオレの方は機嫌でも損ねたのか、そっぽ向いている。
「じゃあ、ちょっと行ってくるから」
「お気をつけて」
認識阻害のローブを受け渡すと、朱里達は荒木さんの部屋に、僕は宣言通り教会内部を探検する為に移動を開始する。戦利品はやはり宝物庫とかだろうか。もしくは祭壇に祭られてるとか。
しばらく歩いていると、見知らぬ同郷とすれ違う。勢いで、戦利品ってどこだっけ、と聞いたら知らんと返って来た。残念だ。
「と、言うか存外普通に出歩けるな」
正直、拍子抜けである。同郷が自由に出入りしている場所に居るとは言え、あっさりと捕虜を見つける事が出来、脱出もそう難しくはなさそうだ。魔玉はまだ所在すら不明だが、見つかれば案外すんなり確保出来るかもしれない。そして朱里と一緒にたどり着きさえすれば、脱出方法を考える必要はない。
「あ、すいませーん」
教会を歩き回り、情報を収集する為に何人かに声をかけたのだが、結果は全滅。魔道具等の実用品を奪って来たと言う人は何人か居たのだが、宝石類は知らんとの事。まだ姿を見ていない女子グループとかなら持っているかもしれないが、彼女たちの住処に向かうのは女子寮に突入するような感じで抵抗がある。
「朱里の方に期待かな」
荒木さんへの確認と女子グループへの確認は朱里に一任してある。宝飾品の話は女子同士の方が不自然がないだろうし。こっちはむしろ、教会側が確保している可能性を考えて神官とかに聞込みをすべきかな。
「すいません、ちょっとお聞きしたい事が」
「はい、なんでしょうか」
神官らしき人に声をかけ、この前の戦利品とかどうなってます、と尋ねる。返答は、皆様の為に使わせて頂きます、だった。
「記念品代わりに1つくらい貰ったり出来ませんか?」
「それは神殿の方にお尋ねください」
一瞬、意味が解らなかったのだが少し考えて思い出す。各神様に神殿があって、ここは出張所的なものだったな、と。そう言えばリア様は神殿とかないのだろうか。
「そうしてみます。ありがとうございます」
「使徒様のお役に立てたのであれば、ありがたい事です」
「いえいえ。ところでこの教会で見て面白い場所とかありますか?」
僕の質問に、神官さんは少し考えてから美しい祭壇があると教えてくれた。荘厳で素晴らしい造りの祭壇は、一見の価値がある、との事だった。
神官さんと別れ、教えて貰った祭壇へと向かう。綺麗だったら後で朱里達も誘って見に行こうかなと思いながら歩いていた僕は、正直油断していた。とんとん拍子に事が進み、調子に乗ってもいたのだろう。だから、大きなミスを犯した。
「確かに荘厳で綺麗な場所、だけど」
光の差し込むステンドグラス。祭壇の上には玉座が1つ。そして青白く光を放つ床。天井にまで張られたステンドグラスは、リア様の姿が象られている。
「一緒に来てもらおうか、邪神の使徒」
「邪神って……いえ、同行はしますので話を聞いて貰えますか?」
「後でな。おい、こいつを連れていけ」
手に縄を巻かれる。巻いてくれたのはさっきの神官さん。どうやらあの時点で怪しまれていたらしい。いや、単純に使徒自体が監視対象だった可能性も。
「侵入経路を調べろ! お前、名前は?」
「えーっと、フルイ・シンと申します」
本名を名乗るのは久しぶりだな、と思いながら僕こと古井新は考える。教会に居る使徒に奇跡的に知り合いとか居て、助けてくれないかな、と。




