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第二十二話「突然の好機」

 目を覚ますと目の前にリア様の顔があった。


「アラタ、良い知らせがあるわ」

「とりあえず座りません?」


 今回は間隔が短いなと思いながら、視線がついついリア様のスカートへ向いてしまう。床に寝ている僕を立ったまま見下ろしているリア様が悪い、と言うか無防備すぎる。


「魔玉が神都まで来てるらしいの」

「えぇ……」


 テンションが急落する。現在の状況から鑑みるに、これ絶対同郷のせいだ。


「説明してなかったけど、魔玉を送還すれば私の元へやって来るから。髪紐とかブラシみたいに」


 目標が自分からやって来たから、と言うか勝負に勝てそうだからかな。リア様のテンションは僕と真逆で高い。僕の様子に気づかないくらいには。


「そうそう、前の神託は一旦保留でいいわ、と言うか魔玉が手に入ったらもう必要ないから」


 そんな上機嫌なリア様に、それを告げるのはとても心苦しいのだが、黙っている訳にもいかないので、しぶしぶ口を開く。


「リア様、ちょっと懺悔したい事があるのですが」

「え? 何? 今、気分がいいから大抵の事は許してあげるけど?」


 機嫌がいいにも程があるだろうと思いながら、それ故に揺り戻しが恐ろしい。


「実は僕、魔玉をお渡しする気がありません」

「……はぁ?」


 睨まれた。凄い眼力でこっちを見てるんですが、逃げ出しても良いだろうか。まぁ、女神から逃げられる訳がないのだけれど。


「だって、魔玉を手に入れたらリア様の勝ちなんでしょう?」

「そうよ。私の使徒なんだからそれを手伝うのは当たり前でしょ。はっ、まさかアラタ、スパイだったの!?」

「違いますよ?」


 リア様が勝利するのは喜ばしい事だ。だが、その前に確認しておかなければいけない事がある。


「勝負が終わったら、リア様はどうするんですか?」

「どうするって?」

「すいません、わかりにくかったですね。この世界、どうなるんですか?」


 今、僕たちが生きている世界は、恐らくリア様と魔界の女神――確かルーテシア――様が勝負をする為に何某かの手が入っているはずだ。信仰勝負をしている他の神々が僕たちを呼び出したように。


「勝負が終わった世界って、放置されたりましません?」

「ど、どうかしらね?」


 目に見えて動揺している。この人、って言うか女神様は本当に正直で、腹芸とか苦手そうだ。他の神々の横やりが入ったのもそのあたりが原因なのかもしれない。


「神に見捨てられた世界って、字面だけ見ても恐ろしいのですが。実際のところどうなんでしょう?」


 僕達で例えるなら、遊び終わったゲームとかだろうか。売られたり、仕舞い込まれたり、捨てられたり。最悪、壊されたり。


「正直に告白しますと、魔玉が手に入ったら誰かに預けて、死ぬ直前くらいまで渡さないつもりでした」

「な、なんですって」

「もしくは魔玉を対価に身の安全を要求するか」


 全て話したのはある意味で予定通りの行動だ。実際、魔玉が入手出来そうならその時点でリア様に相談するつもりだった。それがかなり早まっただけの話である。


「身の安全って、例えば?」

「色々ですね。例えば、魔玉って神都のいわゆる中かその中の教会にあるんですよね?」

「詳しい事は言えない。ただ、間違いなく神都にあると聞いているわ」」


 聞いた、と言う事はどこからかリークでもあったんだろうかと思いながら、続きを口にしていく。


「仮に中の教会にあるとして、そこに侵入して手に入れたとして、あの国、と言うか人界では犯罪者になる訳じゃないですか」

「確かにそうかもしれないわね」

「そうなったら生きていくのが大変困難になってしまう訳ですよ、リア様」


 ただの戦利品として売りにでもだされれば別だが、恐らく厳重に保管されていたであろう魔玉がそうなるとは考えにくい。ならば教会で安置され続ける可能性が高い。


「と、言うかあの神々が両方確保しておけば勝敗が付かないから、自分たちが遊び続けるために奪いに行った可能性も」

「それはありそうね」


 リア様、その発言アウトです。暗に魔玉を手に入れたら世界が信仰勝負を続けられない状況になるって言ってますよね。それがどんな状態かは、ちょっと聞くのが怖い。


「そんな訳で、僕としては手に入れるのは難しい上に手に入れても利益がない訳です」

「ちょっと待って。それって利益があれば引き受けてくれるって事?」

「もちろんです」


 とは言え、勝負後も世界を維持し続けてくれると口約束を交わしたところで、どこまで信用出来るのかと言う問題もある。その辺りはこちらの立場が弱いので仕方がない、と割り切って交渉するしかない。

 冷静に交渉をする為には落ち着かなければならない。だから僕はリア様の後ろに回り込み、いつも通りに髪の手入れを始める。


「……私が世界中に2人が人界を救った英雄だと神託を与える、とかどう?」

「リア様の信徒じゃない人がそれを信じてくれますかね? 特に戦利品を奪われた教会上層部とか」


 世界を動かしている重要人物のほとんどが別の神の信徒なのだ。正直効果は当てに出来ない、と言うかそれを信じて行動するのは無理だ。


「あの神々と同じ事をするのは癪だけど、特殊能力と別の管理世界への移動、とかどう?」

「んー。何人まで連れて行ってもいいですか?」


 そうなるとしたら朱里はもちろん巻き込む予定だが、他の人間、主に潜入した際に発見されるかもしれない僕と朱里の狭い交友関係の誰かも連れて行きたくなるかもしれない。僕はたぶんならないけど。


「アラタとシュリちゃん、それとお友達を各1人づつまで、でどう?

 ただし誰か連れていく場合は能力の付与はなしで」

「2人ですか。ん、あれ? もしかして朱里も能力付与の対象ですか?」

「もちろんよ」


 それはありがたいな、と思いながら1つ気づく。朱里の恩恵と寿命の事だ。


「朱里の棄教で寿命半減にひっかかったりしませんか?」

「あれはこの世界限定の制限よ。気になるなら棄教しないでおけばいいし」

「他の同郷から離れられるのは魅力的ですけど、行先の世界に関して聞いても?」

「いいわよ」


 リア様の説明によると、行先はリア様の管理する世界で、そこはこの世界の元になった世界であり、様々な法則も同じだと言う事だ。魔術が引き続き使える様にそこをチョイスしてくれたらしい。ちなみに僕達の出身世界に戻すのは無理だと言われた。それが可能なら魔玉の奪取に全力を尽くしたのに残念だ。


「わかりました。その案で行くか朱里と相談します」

「ダメよ。準備も必要だから今決めて」


 予想外の言葉に迷う。もしかしたら穏便に魔玉が手に入り、この世界に残る方が良い可能性もある。その場合、しばらくの維持管理とさっき言っていた神託を別内容で依頼するつもりだった。文言は朱里と相談して。


「即決しろとか、リア様は意地が悪いですね」

「私が嫌だって言った可愛いリボンとか髪留めを山ほど付けてくるアラタ程じゃないわ」


 ノリで髪にラメとかピンで飾り付けていたのだが、お気に召さないらしい。クリスマスツリーでも飾る気分で実は結構楽しかった。


「それじゃあ、移動の方向で準備をお願いします。さすがに人数は後決めでも?」

「そのくらいの融通は利かせてあげるわ。感謝しなさい」

「さすが偉大なる女神、リア様。ありがとうございます」


 わざとらしい賛辞に、リア様ちょっとジト目気味だ。髪に盛りまくった飾りのせいであまり威圧感は感じないけど。


「ついでに、神都付近の教徒に救援依頼とか出せませんか? ほら、まだリーリアの迷惑料貰ってませんし」

「まともに合流しそうにないのに要求するつもりなの? まぁ、神託を下すくらいならいいけど、なんて伝えるの?」

「そうですね。

 宿願の時は来た、使徒がその為に動いている、リーリアと共に協力せよ、って感じでどうでしょう」

「わかったわ。そんな感じで今日中には神託を出しておくから」


 神託の扱い軽いな、と思いながら1つ思い出す。これを確認しておかないと面倒が発生しかねない。


「協力者に別の神の使徒や魔族が居る事も伝えておいた方が良いですか? 隠した方が良いなら隠して動きますけど」

「アラタがやりやすい方でいいけど、伝えると意思統一に時間がかかるかもしれないわね」

「じゃあ、隠す方向で。リーリアにだけは別途、伝えておいてもらえると嬉しいです」


 神都へ内部潜入して魔玉の確保、ついでに捕虜の奪還。魔玉さえ手に入ればその時点でこの世界から離脱が可能との事なので、手段はあまり選ばなくとも良いだろう。連れていく人間は接触していないといけないそうなので、朱里との別行動はなるべく避けないと、かな。


「作戦会議をして、なるべく早く潜入するようにします」

「別にそこまで急ぐ必要はないわよ? しばらく待って人界連合軍が出払った隙を狙うとか」


 リア様って別にずっと見てる訳じゃないし、把握もしてないんだなと思いながら笑みを返す。魔玉がついでだと誤解されたら面倒だ。話題を変えよう。


「決行前にもう1度くらい会えますか?」

「あら、そんなに私に会いたいの?」

「そりゃあ、もう。毎日でも」


 そう言って髪先を掬う。調子に乗ってゴテゴテにし過ぎたせいで撫でられないし触り辛い。


「髪に触りたいならリーリアので我慢なさい」

「いえ、僕は神に触りたいので」

「意味がわからないけど、もうこの辺にしましょう。またね」


 そう言った直後、僕の意識が薄れ始める。

 そう言えば今回は最後の神託ないんだな、と思いながら僕の思考は深く沈んでいった。


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