第十六話「火食鳥の討伐」
製鉄炉は思ったよりも近くにあった為、暗くなる前に到着した。
「あの飛んでるのがファイアイーターかな」
「そうみたいですね。まさか鳥自体も燃えているとは」
正確には翼だけが燃えているらしいのだが、熱くないのだろうか。
最低限の予備知識と訪問者用らしい部屋を与えられた後、荷物を下ろして装備を整える。と、言っても買い物直後なので一式装備済で、鞄から水袋を取り出して水を補給する程度だ。
「飛んでいるところを銃撃ですか?」
「炉の上に落ちたら困るし、どうするかはちょっと検討中」
炉に近づき過ぎると暑いと言うか熱いらしいので、どこまで近づけるかわからない。狙える位置から狙撃するしかないだろう。
「そう言えば狙撃の魔術とか出来ないかな」
「どうしたんですか急に」
「ロックが同時使用出来ないなら、ロック+銃撃の魔術を作ればどうかなと思って」
魔術の同時発動が難しいのは、魔力を2種類分準備して動かすとお互いに干渉してしまうから、のような気がする。ならば1つの魔術として再構成し、行使すれば或いは。
「新魔術も良いですけど、仕事はちゃんとしてくださいね。浮気性は先輩の悪い癖です。今は甲斐性を見せる時です」
「失敗したら甲斐性なしか。へこむなぁ」
準備を整えると移動を開始する。
炉は丘にある、と言うか丘を利用して作られているようだ。製鉄には詳しくないが、ファイアイーターは火の近くによく居るとの事なので熱い方に向かう。
「空に3羽。普通の魔術だと射程外だけど、銃撃なら届きそうかな」
「狙ってみますか? 炉の上に落ちないように」
「んー。折角フリーで撃てるし、狙撃の実験も兼ねて牽制してみようかな」
牽制で炉の上から動かしてから撃ち抜ければ理想的だな、と思いながらイメージを固める。
銃撃を放つときと同じ動作をしながら片目を瞑る。なんとなく狙撃と言えばそう狙うイメージだ。このままでは成功しない感覚。息を整え、膝をつき、左手を右腕に添える。魔力は何時もより多めに。あ、いけそう。
「<狙撃>」
「おー、って、当たりましたね。あ、落ちた」
「マズっ」
牽制のつもりで当てる気はなかった。一発で落とせると思わなかった。
心の中で言い訳しながら、落下するファイアイーターに向けて祈る。どうか炉の上には落ちないで、と。
「先輩、ラッキーですね。風に流されたようです」
「おー、かなり遠くへ落ちたけど、どうしよう。拾いに行く?」
「素材は高値で売れるそうですよ。炉にくべると温度を上げられる部位もあるそうですし」
「しまった、素材の売却交渉もしておくべきだった」
どうやら詰めはかなり甘かったらしい、と考えていると後ろから声が聞こえた。距離は遠いが、段々とこちらに近づいて来ている。
「さっきのは!」
「えぇ、1匹落としました。多分ファイアイーターだと思うのですがまだ確認は――」
「すぐに確認にいかせます! その調子でどんどんお願いします! あ、素材はちゃんと買い取りますますので、割増で!」
至れり尽くせりだな。テンション高いな。よっぽど困ってたんだな。
寄ってきた名も知らぬ担当者に圧倒された僕に出来るのは、次の獲物に狙いを付ける事くらいだ。
「私はどうしましょうか」
「スポッターしてくれるか、本でも読んで待ってるか」
「スポッターってなんですか? 何か私に出来る事があるなら手伝いますが」
「鳥を探して位置を報告して欲しい。狙いやすいヤツから狙っていくから」
「なるほど。わかりました」
その後、朱里のナビゲートで1匹を落としたが、暗くなって来たので終了。翌日に持ち越しとなった。担当者の人が気を使ってくれたのか、やる気を出させる為になのか、本日分の日当1万と討伐2匹分の10万が即支払われた。素材分はまだ値段交渉をしていないので未払いだ。
「食事は提供して貰えるそうですよ」
「それはありがたい」
「これでお風呂があれば完璧でしたね。蒸し風呂はあるらしいですけど。先輩、行っても良いんですよ?」
この製鉄施設、働き手は全て男性だ。そんな中に朱里1人を放置するのはさすがに憚れる。蒸し風呂も1つしかないらしいので朱里はさすがに利用出来ない。だから自分だけ、と言うのはどうかなと言う気持ちもある。
「それより髪触らせて」
「そうですよね。先輩はそういう人ですよね。お手入れ、お願いします」
身づくろいを終えたら食事を摂り、やる事もないので床に入る。明日の早い時間にもひと狩りする予定だ。
「何か、同室で寝るのが普通になってますね」
「節約もあるし慣れて来たし」
「慣れですか。良くない傾向ですね。これが噂に聞く倦怠期と言うやつなんでしょうか」
「倦怠期ーか。鳥肉が食べたくなった」
「色気より食い気ですか。私を食べられても困るのですが、乙女心は複雑です。そして先輩は落第で」」
何に落第だよ、と思いながら会話を続けていると、段々と言葉も少なくなり、就寝。
起床後、朝食までの時間潰しに朱里と散歩していたら低空を飛んでいるファイアイーターを発見。
「<銃撃>」
「外れましたね」
「昨日は遠くて油断しててくれたから、かな<銃撃>」
翼にあたり、ファイアイーターがよろめく。すぐに体制を立て直して飛び去ろうとしているが、もちろんそのまま逃がす気はない」
「<銃撃><銃撃>」
「翼はダメージが低いような? 燃えてるからでしょうか」
「あー、だから矢で落とし辛いとかなのかも? <銃撃>」
「おぉ、容赦のない連続攻撃。あ、頭に」
朱里の言う通り、頭に直撃した事でファイアイーターの動きが止まる。そして落下。
さすがに早朝なので担当者の方もおらず、2人でファイアイーターを拾いに行き、後で引き渡そうと食堂へと移動する。
「おはようございます、遠当様。おぉ、さっそくまた1羽落として頂けたのですね」
「朝の散歩をしていたら飛んでいたので」
「さすがでございます。この調子でよろしくお願い致します」
最初と比べると凄い下手だな、とは思うが成果を出した結果だと思えば悪い事ではない。もしかするとこの縁で他の仕事も得られるかもしれない。ずっと続けるには不安定過ぎるフリーランスの仕事だが、初期資金と伝手を集める為だと思えば短期的・中期的にやる価値はあるだろう。
「食事を頂いてから、作業員の方の話を聞かせて頂いてもよろしいですか?」
「手の空いている者であればかまいませんが……」
忙しいんだから邪魔はしないで欲しい、と言ったところかなと思いながら考えている風に人差し指をこめかみに。主目的はコネと言うか面識の確保なので、現場作業員でもそれなりの立ち位置に居る人物に接触したい。もちろん、ファイアイーターの動向も聞いておきたいのだが。
「そちらの都合の良いタイミングで構いません。ファイアイーターの出やすい場所、見た事のある場所をここの方から直接聞かせて貰えませんか?」
「なるほど。では、昼までに話をまとめますので、昼食時にお知らせします」
「よろしくお願いします」
あの担当者の人が聞いて報告してくる、となれば失敗かなと思いながら朝食を摂る。男ばかりの環境で緊張しているのか、まったくしゃべらない朱里と共に朝食を終えると一度部屋に戻り、朱里の髪をお団子にすると狩りに出かける。
「フードが被りにくいです」
「でも、可愛い」
そんな会話を交わしながら午前中は張り込みを続け、狙撃で2羽を撃墜。やはりある程度近いと回避されるようで、一匹は銃撃で仕留めようとして逃げられ、狙撃で仕留めている。
昼食後に現場責任者と言う男性からファイアイーター発見報告のあったポイントを聞きく事が出来、ついでに顔と名前を売っておく。何かあれば遠当に依頼を、困っている人がいたら是非紹介を、と言った具合だ。
「宣伝ですか?」
「口コミしか頼れるものがないからね、今のところ」
現場責任者と別れてからポイントを回る。
モグリの冒険者的な仕事をこれからもやるのか、他に仕事を見つけるのかわからないが、選択肢は多い方が良い。
「あんなところに」
「っとと、<狙撃>」
近距離での発見だったがロックの恩恵を得る為に狙撃の魔術を行使する。銃撃より準備時間も消費も大きいが、こちらの方が命中率が段違いに高い。
「あ」
「外した?」
追加で銃撃の弾幕を張り、撃墜する。問題は魔術の種類ではなく、距離の問題のようだ。もしかするとファイアイーターは魔術の発動なり射出武器の飛来なりを感知出来るのかもしれない。いや、後者なら遠くても当たらないか。
「拾ってきますので先輩はあっちを」
「仲間が撃たれたのに気づいて逃げたのかな」
飛び去ろうとするファイアイーターに狙撃を一発。撃ち落とした方向から声がかかり、回収はお任せする事になる。
午後からは追加で2羽、合計4羽を撃墜。10羽まで残り1羽だ。
「明日で終わるといいですね」
「良く考えると本当に10匹なのかはわからない訳だし、多かったり少なかったりする可能性もあるかも」
「明日の朝、担当の方に相談しては?」
「そうする事にしよう」
髪を梳きながらそんな会話を交わし、翌日に相談。結果、今日一日待機してファイアイーターが姿を現さなければ依頼終了とし、明日の朝一番で神都に戻れるように手配してくれる事になった。どちらであっても全滅ボーナスも出るらしい。明日で終わりとは言え、日課の早朝散歩兼ファイアイーター探しはする予定だ。
「暇ですね」
「読書してるのに?」
「バレてましたか」
脳内読書が可能になった朱里は、暇さえあればどこに居ても読書が可能だ。今日は妙に静かだったのでカマを掛けたのだが、正解だったようだ。そして今日の髪型はおさげの三つ編みだ。
「発見報告もないし、このまま終わりかな」
「鳥の素材の値段交渉でもします?」
「あぁ、やっとこうか」
早めに切り上げ、担当者に確認をすると即座に買取値が返ってきた為、交渉をする必要はなかった。相場より高いらしい上に戻って相場を確認して安ければ上乗せすると一筆書かれては交渉のしようもない。太っ腹過ぎるな、鍛冶協会。
結局、鍛冶協会からは最終的に100万近い報酬を得る事になり、素材の方は一部は紹介料として親方に流した。




