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第十五話「装備の新調」

 午前中の情報収集を早めに切り上げた僕は、朱里と合流した後、お昼ご飯を調達して宿に戻っていた。


「正直、異世界を侮ってた」

「確かに色々と発展していないイメージがありますね。情報管理も杜撰なイメージです」

「残念だったな朱里くん。現実は非情なのだよ」


 ふざけているが結構真面目にピンチである。

 住処の候補を探しに行ったら、賃貸契約には登録が必要ですと言われた。仕事の斡旋を頼んだら、登録してない人は無理ですと言われた。総じて、田舎者扱い。


「神様の不思議パワーは凄いですね」

「意地でも使徒を炙りだすつもりだな、これ」


 登録、とは正式名称を教会登録と言う。民は須らくこれを受け、その為の費用は全て教会が負担する。そしてその情報は教会内部はもちろん、各国の役場等でも利用出来る、この大陸におけるもっとも基本的な身分証明証だった。


「経済活動の基本と生活基盤が教会、と言うか神様に牛耳られてる感じでかなりマズい」

「物語ですとこういう時、身分証明が出来ないから冒険者になるしかない! とかなるんですよね。そして大活躍」

「僕達は冒険者になった時点で、と言うかなる前の登録で躓いてるんだけどね」


 噂に聞いた話では、使徒としてやって来た同郷の中にも冒険者をやっている者はいるらしい。そしてすぐに頭角を現し、高ランクになっている。そして高ランク冒険者には人界連合軍への参加義務がある。人族を守る為と言う名目で。


「どうやっても管理される事になるなら、私だけ登録すると言う手もありますよ」

「それで朱里だけが働くと言う訳にもいかないし、朱里を窓口に冒険者をやるとしても多分、適当な理由で高ランクに押し上げられる気がする」

「商売を始める、と言うのは?」

「有事の際に使徒だからと朱里が呼び出されるのは変わらない」


 一応、抜け道はそれなりにある。

 例えば、狩りをして獲物を商店へ直接売る。これなら登録を要求して来ないところもあるだろう。買い叩かれる可能性はあるが。田舎に移住するのも良い。登録による身分証明を求められない土地と仕事を探すのだ。スローライフと言えば聞こえは良いが、不便でキツイ田舎暮らしをする事になる。


「では、自給自足で生活をしますか?」

「身体能力的には余裕だろうけど」


 出来れば遠慮したい、と言うのは朱里も同じ様で、少し苦笑気味の表情をしている。

 詰んだ、とまでは言わないが面倒事が増えた。いっそ、ヴィオレに着いて行って魔界に移住すべきだったかもしれない。リア様とはお別れになるけど。


「一先ず全部保留。正規の方法で働けないなら最悪、モグリの仕事を探す事になる。武器と防具を先にそろえよう」

「しばらく街中の予定なので後回しにしていましたが、そうですね。出来る事からやっていきましょう」


 迷うより動け、の精神で宿を出る。

 まず向かったのは武器屋。鍛冶場の付近にある店を適当にチョイスして入店する。


「すいません、投げナイフとか置いてないですか」

「あるぞ。ケースかベルトは持ってるのか?」

「ないですね」


 間に合わせで買った投げナイフは布に包んで持ち歩いていた。不便だなーとは思っていたのだが、気づいたのは街を出発した後だったので買える場所がなかったのだ。


「なら、先にナイフの大きさを決めてくれ。それに合わせてベルトなりケースなりを出してくる」

「あ、一応ナイフは持ってるんですけどこれ、どうでしょう?」


 手に合うとか考えずに買ったので、使いにくい気がする。朱里にそう言ったらただの訓練不足だと言い切られてしまったが。


「ふむ、これと同じ大きさでいいのか?」

「おすすめがあったら買い替えようかなと。あ、こっちの子と共用するつもりなんですけど」

「あ? まぁ、無理ではないだろうが、嬢ちゃんの細腕で使えるのか?」


 この子、たぶん店主さんより力持ちです、などとは言えず曖昧な返答を返す。

 色々と握らせて貰った結果、朱里が気に入った物を12本、微妙にグリップの色違いで6本ずつ購入を決め、手持ちの分は下取りをお願いする事にした。


「次はベルトか。お前ら、どんな装備だ?」

「どんなって、武器は投げナイフですけど」

「ちげぇよ、防具だよ。ベルトの位置とかサイズとか決めなきゃならんだろ」

「あぁ、盾持ちの軽装にする予定です」

「私はこのローブで、同じく盾持ちです」

「お前ら舐めてんのか?」


 側頭部をかきながら店主が声を張り上げる。そうは言われても、これで今まで魔物狩りをしていたのだから仕方がない。


「お前ら駆け出しの冒険者だろ? 盾持つって事は武器は剣か?」

「いえ、魔術です」

「まだ決めてません」

「なんで最初に投げナイフなんか買いに来るんだよ。まず主武器を決めろよ! あと、魔術師がなんで盾持つんだよ! 下がれよ!」


 まさか武器屋で武器を買って怒られるとは。異世界とはかくも難しいモノだ。


「嬢ちゃん、とりあえず武器を決めろっ。

 坊主、紹介してやるから金の許す範囲で具足か丈夫なブーツと、あと革鎧を買え!」

「それはありがたいですけど……」

「武器ですか。実はまだ決めかねてまして」

「もうこうなったらとことん付き合ってやるから来い!」


 怒れる店主に呼びつけられた下っ端らしい店員に店番を任せ、武器屋の店主さんは店を出ると細い道を進んでいく。着いた先は防具屋、ではなく防具の制作をしている工房だった。


「親父、いるか」

「おう、どうした珍しい」

「こいつらの装備を一式見繕ってくれ」


 色々と相談した結果、僕は頑丈な魔物革のブーツと戦闘服を一式に裏に投げナイフの仕込める丸い小盾を購入。戦闘服は投げナイフを納めるベルト付きで、素材は魔力を込めると防御力があがる特性がある。人的な付与ではなく、使用している魔物の革が元々そういう性質らしい。

 朱里の方は金属補強されたブーツと僕の物よりも重くて丈夫な盾を購入。服は魔力による強化が可能な素材ではなく、普通に頑丈で快適な素材のものを選択。ナイフベルトは別で購入した事もあり、こっちの方がかなり高かった。


「あとは嬢ちゃんの武器だな。次行くぞ」


 支払いを済ませると次は鍛冶屋に移動。場所は近く、すぐに到着する。


「親方、邪魔するぞ、って、どうした?」

「あぁ、てめぇか。ちょっとな」

「厄介な客が来たんで武器の見立てを頼みに来たんだが、出直すか?」

「いや、気分転換も必要だ。客人、待たせてすまんな」

「問題ありません。初めまして、朱里と言います」

「俺の事は親方とでも呼んでくれ。嬢ちゃんの武器を見たてりゃいいのか? そっちの坊主のもか?」


 まだ扉の外に居たのだが、声をかけれたので中に入る。

 中は武器が山ほど並べられていた。客を呼ぶ場所と言うには乱雑過ぎるので、検品か納品の為のスペースなのかもしれない。


「アラタと言います。僕は魔術師なので武器はいらないのですが、良いナイフがあれば買い替えたいなと思っています」

「俺の腕が良ければ買う、ってか?」

「神都には腕の良い鍛冶師も多いと聞いていたので楽しみです」」

「言ってくれるじゃねぇか。

 ん? 女連れで黒髪の魔術師。神都に来たばかり。一応聞いておくが、坊主。お前、遠当か?」


 なんですかそれ、と惚けたかったのだが、思考を挟んだ分、反応が遅れてしまった。それは朱里の先行を許すのに十分な、そして致命的な遅れだった。


「ご存じなんですか?」

「あぁ、一部ではそこそこ有名だぞ。

 魔族の先兵、コマンドウルフを倒して街を救い、その後も冒険者と協力して町や村を魔物の脅威から守った英雄。その魔術はどんなに遠くとも敵を捉える。故に、遠当、ってな」


 楽しそうな朱里と、得意げな親方、感心している店主さんの視線に晒され、むず痒い。いや、まだ否定出来るはずだと口を開こうとしたのだが、また朱里に先を越されてしまう。


「その名前で仕事を探したら、見つかると思いますか?」

「冒険者になりゃあ指名依頼が来たりするくらいはあるかもしれねぇな」

「ならなければどうでしょうか」


 身分証が無ければ正規のルートで仕事を探す事は出来ない。フリーランスでやるには伝手も地盤もない。逆に言えばある程度の名声があれば仕事を探せるのではないだろうか。恐らく朱里はそう考えているのだろう。


「なんだ訳アリか?」

「さぁ、どうでしょうか」

「でなけりゃ異信仰者か、だな」


 異信仰者とは何だろう。自分が矢面に立っていないせいか、精神的なダメージのせいか、その疑問が表情に出てしまっていたらしく、親方が楽しそうに笑う。


「はっはっは。やっぱり訳アリの方か。

 噂ではこっちの嬢ちゃんがどっかの姫さんだとか実は魔族だとか言われてたが。どれが正解だ?」

「どれも外れですね。ところで、異信仰者とは?」

「あん? そりゃあ、教会の定めた神以外を信仰するやつらの事だ」


 あ、それ僕の事ですとは言えず、神妙な顔を作っておく。ダメージから大分復活したので、僕も会話に参戦しようと口を開く。その隙に朱里がカバーストリーを考えてくれる事に期待して。自分では作りたくないし。


「異信仰者だと何故冒険者にならない、と?」

「登録出来ねぇからだよ、あいつらは」

「登録出来ない、ですか。それは色々と不便そうですね」


 親方は出来ないと言ったが、恐らくその理由は色々隠し事がバレるからだろう。教会登録、マジで厄介だな。


「登録が出せないって意味ではお前らも一緒だろ? 出したら身分もバレるからな」

「僕からはなんとも」


 ふと、服の裾が引かれている事に気づく。犯人は朱里で、どうやら考えがまとまったらしい。


「理由は話せませんが、訳あって登録を提示出来ません。ですが稼がなければいけないのです」

「そう言う事なら、お誂え向きの仕事があるぞ」


 この流れを見越して遠当の話題を出したのではないかと疑う程、親方は嬉しそうに説明を始める。


「ここから東に大きな製鉄炉があるんだが、そこにファイアイーターが出てな」

「ファイアイーター、ですか?」

「火を食う鳥で普段は人を襲ったりしない魔物だから放置されてるんだが、増えすぎて仕事に支障が出てるらしくてな」


 製鉄には当然火を使う。かなり高温が必要になるので、恐らく良い餌場なのだろう。しかし数が増えていると言う事は、普段から少数は居ると言う事なのだろうか。


「冒険者に依頼を出せば良いのでは?」

「出してるが、火の中へ飛び込めと言う訳にもいかんし、魔術で炉の火を消されでもしたら大損害だ。炉を壊されたらもっと困るとなると引き受け手がおらんのだ」

「あぁ、そういや親方がそのうち鉄の供給が減りそうだって言ってたな。他でも似たような事を聞いた気がするが」


 店主さんの言葉から察するに、結構広範囲に影響がありそうな話のようだ。魔族と戦争中だと考えれば、鉄の供給量が減るのは普通にマズいか。そうでなくとも魔物退治で消耗するだろうし。


「その解決を個人的に依頼して頂ける、と?」

「いや、俺はこの話を関係者に持ち込むだけだ。詮索しない代わりに面倒な仕事を引き受けてくれる当てがあるぞ、ってな」


 悪く無い話ではあるが、問題はその鳥を僕が倒せるかどうかだ。まぁ、成功報酬と言う事にでもして貰い、お試しくらいのつもりでやってみるのも手かな。そう考えて朱里の視線には首肯で返答する。


「詳しい話を聞いてみたいです」

「よし、じゃあすぐに向かうぞ」


 この辺の人は皆せっかちなのかな、と思いながら移動を開始する。店主さんの方は店に戻ると別れ、親方さんも鍛冶協会製鉄部門の受付に話を通すと後は任せたと帰って行った。結果、何故か鍛冶協会の応接間で立派な服装の男性と向かい合うことに。


「ファイアイーターを退治して頂けると聞きましたが、本当でしょうか」

「確約は出来ませんが、恐らくは。細かい詮索は無しと言う事でよろしければ、ですが」


 本格的な交渉の経験がない身としては、この状況には少し困っていた。しかしこれも異世界を生き残るのに必要な経験だ。朱里のフォローに期待しつつ出来る限りがんばるとしよう。


「そうですか。では、私も名乗らずにおきましょう。それで遠当さん」

「う、あ、はい。なんでしょう」


 いきなり先制で精神ダメージを貰ってしまう。さすが鍛冶協会の交渉を任される人は違うな。いや、冗談だけど。


「すぐに現地に向かって頂けるのであれば、移動の足と日当1万を確約させて頂きますが、如何でしょうか」

「宿から荷物を引き上げた後でよければ問題ありません」

「ありがとうございます。報酬額ですが、希望はありますか?」


 探るような言葉に己のミスに気づく。せめて冒険者への依頼額くらい調べてから来るべきだった。

 仕方がないので、誤魔化して相手から額を引き出す為の返答を考える。


「そうですね。日当以外は全額成功報酬でよろしいでしょうか」

「え、えぇ。構いませんが」

「では、1匹当たりの報酬を決める形でどうでしょうか。報酬額は冒険者に渡る分くらいでかまいません」


 協会に払う手数料や仲介料なしとなれば普通よりは安いはずだ。額面も後からこちらでも調査可能な範囲なので、この場で騙され、不当に安値を付けられる可能性が低い。


「それでは、1匹当たり5万でどうでしょうか」

「魔物の数はどの程度なのでしょうか?」

「10匹ほどかと思われます」


 それは冒険者に依頼すると50万かかると言う事なのだろう。情報収集を怠ったせいでこれを基準に交渉をするしかないので吹っ掛けられていない事を祈りつつ値上げ交渉へ移行して、いけるといいな。


「全て倒す必要はありますか?」

「出来れば全滅して頂きたい。全滅が確認されましたら更に10万程上乗せさせて頂きます」


 全滅なんて不可能だろうと言う見せ金なのか、元の依頼にもある内容なのかもわからない。うん、お手上げだ。


「どう思う?」

「最初の依頼者ですし、サービスしても良いかと」


 なるほど、この額じゃ安いけど今回は宣伝の為に引き受けますよ、と言うアピールか。次回以降の布石も考えれば悪く無い手ではないだろうか。


「それでお引き受けします」

「ありがとうございます。馬車を回しますので外にお願いします」


 お互いに名乗りもしないモグリの仕事らしく、契約書を交わす事もなく交渉は終了する。報酬の取り損ないとかないように少し考えるべきかな、と思いながら朱里とならんで鍛冶協会の外へと向かったのだった。


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