第十三話「黒金の道連れ」
かなり美味しかったお茶をお替りし、ついでにオリジナルブレンドだと言う茶葉を購入した頃、スライさんは5人の冒険者を引き連れてお店に戻って来た。
「待たせたな」
「いえ、お茶、美味しかったです。それにしてもたくさん連れてきましたね」
「全員雇えって話じゃないから安心してくれ」
そう言いながら5人を横に並べると、順番に紹介が始まった。
「こいつとこいつは防御重視の盾剣士だ。攻撃力不足で伸び悩んじゃいるが、堅実で良い動きをする。前衛が欲しいなら悪く無い逸材だ」
「トロストです。お願いします」
「始めまして、サリーズです。遠当の魔術師様とお会い出来て光栄です」
その呼び名、本当に街中に流れてるのか、と少しゲンナリとしながら「どうも」と返答を返す。あと、サリーズくん減点ね。
「どう?」
「盾を使う、と言うのは良いと思います」
こそこそと朱里と感想を交わす。確かに動きを観察したりコツを聞いたり出来れば後々助かりそうだ。
「問題はまぁ、重装備な分、機動力が低いってのと、若い男だから嬢ちゃんが口説かれないか心配なくらいか?」
笑い飛ばすスライさんに目を細めて視線を投げておくが、気にする気配もなく次の紹介が始まる。
「こいつは行商人の護衛で、明日か明後日に神都に向けて出発する予定なんだと。商人の方も女だからある意味安心だと思って声をかけてみた。魔物と遭遇したら戦うより逃げるのを優先するコンビだな」
「無理に戦いたい訳でもないですし、良いかもしれません」
朱里に視線を向けると、微妙な表情で首肯してくれた。何が言いたいのかはなんとなくわかるが、今は無視。そして何故か本人による自己紹介はなく、次の紹介が始まる。
「で、残りの2人は護衛依頼とはちょっとズレるんだが、神都への同行者を探してるらしい。理由はお前らと同じだ」
「アレッシオ。剣士」
「魔術師のルアーナです。魔術での治療を得意としています。アレス、ちゃんと挨拶して。すいません、不愛想で」
最後に挨拶をしてくれた声には聞き覚えがあった。そう、この人は確か。
「そう、金髪さん」
「え? 確かに私の髪は金ですけど……」
「先輩、失礼ですよ。
すいません。昨日の襲撃で怪我人の治療をしていた方ですよね?」
「確かにしていましたけど……」
「そして勇敢にも魔物を杖でボコにしていた。前衛剣士と殴り魔術師のコンビですか?」
「いえいえいえいえ、違いますよ。あの時は緊急事態で、倒せたのも私の力じゃないですし」
「先輩、少し黙りましょうか」
これ以上怒らせないうちに黙る事にした。
アレッシオの方に視線を向けると何故か、お互い大変だな、的な視線を返されてしまう。女性優位のパーティー的な意味でかな。
「帰り際に怪我人を1人預けて行ったんですが、覚えていませんか?」
「あ、あぁ、あの時の。え? 私、群れのボスを倒した英雄に手伝えって言ったの?」
そう言えば言われたな、と思いながら笑顔で首肯。アレッシオが溜息を1つ。
「その、なんと言っていいのかわかりませんが」
「何も言わなくて良いですよ、ルアーナさん。この人は可愛い女の子にちょっかいかけるのが趣味なので、放置でいいです」
失礼な、と思ったがのだが口には出さない。代わりに、思いっきり表情には出しておく。
「ちなみに、移動手段は何を予定しているのですか?」
「馬を二頭、神都に返しに行くところなので徒歩と馬上が半々になる予定です」
馬での移動か。多分無理かな。乗馬経験とかないし。
「先輩、私はこの2人にお願いしたいと思うのですが」
「朱里に任せる。スライさん、そういう事でいいですか?」
「おう、構わんぞ。お前らすまんな。また別の仕事があったら声をかけるから頼むぞ」
「あ、そうだ。3人にちょっとお聞きしたい事があるんですけど、時間があったら残って貰えませんか。依頼料はお昼ご飯、お替りありで」
それを呼び出した相手と自分への気遣いだとでも思ったのか、スライさんは少し意外そうな顔をした後、笑って席に着いた。残念ながら行商護衛の女の子は帰ってしまったが、残った盾剣士の2人から盾を使うコツや選び方を聞きく事が出来、ついでにスライさんからも助言を貰う。行商について話が聞けなかったのは残念ではあるが、昼食会は恙なく終了し、盾剣士2人とスライさんは帰って行った。
「朱里、そっちはどうなった?」
「先輩がいないので会話がスムーズに進みました」
2人の対応を任せていた朱里の隣に座り、会話に加わる。女性であるルアーナさんが交渉役のようだったので朱里に任せたのだが、問題はなかったようだ。
「それは僥倖。最終条件は?」
「昼食は各自携帯食を準備。朝夕は交代で作る。疲れたら馬に乗っても良い。出発は明日早朝」
「わかりやすい説明。さすが朱里。今から食材と必要な道具の買出し、終わったら2人と同じ宿に部屋を取りたいんだけど、付き合ってもらっても良いですか?」
「もちろんです」
「まだ旅に不慣れなので必要な物を教えてくれるとありがたいです。食材費はこちらで負担します、でいいかな、朱里」
「問題ありません」
先ほど受け取った封筒をポケットの上から押さえつつ、朱里が許可をだす。革袋に金貨、とかではなく封筒にお札なあたり、相変わらずファンタジー感が台無しだ。
その後、恐縮するルアーナさんに旅の準備に必要な品を教えて貰い、食料と幾つかの道具を追加で購入。資金に余裕があったので投げナイフも購入すると、男2人を荷物持ちに何故か服飾店にも寄った後、宿へ移動して部屋を取る。
「2人部屋なんですね」
「その方が経済的ですから」
「それはそうですけど、こう、色々と困りませんか?」
女2人の会話に耳を傾けつつ、宿の受付から鍵を受け取る。荷物持ち仲間のアレッシオは、その荷物を片づける為に一足先に部屋行ってしまった。
「慣れますよ」
「それ、慣れたらダメなんじゃあ……」
「追い出したり我儘言ったりするのに」
「そっちですか!? いえ、そっちも慣れちゃダメですよ!」
ルアーナさん、思ったよりも愉快な人だなと思いながら説明された部屋に向かって歩き出す。後ろから2人もついてきているようで、会話が同じ調子で聞こえてくる。
「でも実際、乙女として譲れない部分はきちんと言わないと、相手も困りますから」
「それはそうですけど」
「一度思いっきりやらかすのもおすすめです。細かい事が気にならなくなりますよ」
「それは体験談なのでしょうか。聞きたいような、聞きたくないような」
朱里から、連れ込み宿に連れ込まれて無理やり同衾させられた、とか聞いたら卒倒するかな、などと考えているうちに割り当てられた部屋に到着する。荷物を適当に下ろすと、旅装を解く。何故か部屋にルアーナさんも居るので、外に出られる程度に。
「この後の夕食はご一緒しますか?」
「是非、そうしましょう」
「あー、ところでアレッシオは放置で良いんですか?」
「アレスですか? 夕食に行く時に声をかければ良いかと」
アレッシオの扱い酷いな、と思いながら万能ブラシを取り出す。まだ食事に出かける予定なので、髪は解かずブラシだけ通して行く。
「あの、何故アラタさんは自然に朱里さんの髪を梳かしているのですか?」
「ん? ルアーナさんもして欲しい?」
「いえ、そうではなく」
「先輩、私以外の髪に触ろうとしちゃだめだと何回言えば覚えるんですか」
無暗に触ってはいけない、とは言われたなと思いながら髪を梳く。さすがにルアーナさんがいるので頭を撫でたり、髪に指を通したりはしないでおく。自重、自重。
「綺麗におめかしして、アレッシオをドキリとさせてみません?」
「ルアーナさん、騙されてはいけません。この人は触りたいだけです」
「綺麗な金髪ですし、褒められた事くらいあるんじゃないですか? もっと綺麗になればもしかして」
「た、確かに朱里さんの髪は凄く綺麗ですけど」
「ツヤツヤのピカピカにしてあげるよ」
「先輩はこっちに来てから本当に言葉巧みに追い込むようになりましたよね。あっちではそうでもなかったのに」
そりゃあ、あっちではこんな事を言ったら即学校中に噂が流れて、変態のレッテルを張られるのだからやれる訳がない。情報の伝達が早すぎるし、共有の速度も凄い。そうなったら社会的に死んでしまう。
「あの、朱里さんに悪いですし、いいです」
「でも、興味はある、と?」
「それはもちろん。私だって女の子ですから」
残念な事にルアーナさんの金髪に触れる機会には恵まれぬまま、夕食に良い時間になったのでアレッシオと合流して食事に向かう。彼は部屋ではなく中庭で訓練をしていた。ルアーナさんが迷わず向かったので日課なのだろう。だから放置でよかったのか。
「毎日どのくらい訓練してるの?」
「空いた時間は、出来るだけ」
「うん。僕に前衛は無理だ」
汗で濡れた黒髪を拭いているアレッシオの言葉にそう答えると、微妙な顔をされてしまう。いや、適材適所、大事。
「ここの夕食はおいしいの?」
「そこそこ」
元々あまり口達者な性質でもないのだろう。言葉少なに会話をしながら、同じ様に話している女子2人に追従する。
夕食はアレッシオの言う通りそこそこ美味しく頂けた。とは言えこっちが日本人基準での感想だと考えると、アレッシオはそれなりに良いところの出身なのかもしれない。
「旅の間は保存食生活だから、ちゃんと味わいなさいよ、アレス。
そう言えば最近美味しい保存食が売られ始めたって噂が流れてたから、神都で探してみましょうか」
しゃべるルアーナさん。首肯するアレス。気のせいか彼女相手だと更に無口なような。いや、ルアーナさんがしゃべりすぎ? 何か言う前に先回りされているような。
「何か、弟の面倒を見る姉のようですね」
「出来の悪い、が頭に着いてそう。ルアーナさんの中では」
私がいないと何も出来ないんだから、もう。とか言ってそう。
それはそれとして気になる情報があったのだが。
「同郷かな」
「同郷でしょうね」
こちらにやって来てそれなりの時間が経っている。神殿や教会のバックアップを得て居れば新商品の開発をして、試作を売り出すくらいは可能だろう。
「そう言えば神都まで、どのくらいかけて移動する予定なんですか」
「ほらアレス、ってすいません。途中、幾つかの村や小さな町に寄りながら、5日くらいで到着出来ればいいかな、と」
「毎日村や町に泊まるルートとか、出来ませんか?」
どれだけ野宿したくないんだよ、と言うつっこみが浮かんだが自重。そこにファンタジーを求めていないのは僕も同じなので、むしろ嬉々として野宿される方が困る。髪も弄りたいし。
「徒歩だとちょっと厳しいかもしれません」
「馬ならどうでしょう」
「馬を人数分準備して、遠回りをすればいけるかもしれませんが、馬を買うのは難しいと思います」
それは資金的な意味での忠告ではなく、在庫や購入権利的な意味合いでの話だろうな、と思いながら朱里の方を見る。何かを問う視線。返答は、お好きにどうぞ。
「試してみたい事があるので、明日はまずお2人が馬で、私たちが徒歩で出発しましょう」
よくわからない、と言う表情をしながらもルアーナさんがそれを受け入れた頃には夕食も終わり、各自が部屋への戻っていく。とは言っても僕と朱里は同室なのだが。
明日は出発も早いので早めに眠る事になり、何時もより手早く朱里を整えるとすぐに床に入った。その前に一噛みされた事を、一応ここに記しておく。




