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第十一話「波乱の戦線」

 街外れに到着すると、予想を外さない光景が広がっていた。


「後ろに通すなっ。一匹でも通せば街に被害が出るぞ!」

「迎撃を優先! 後衛は敵の数を減らせっ。怪我をしたものは下がれ! 戦線復帰出来そうな者を最優先で治療しろっ」


 現場には怒号が飛び交っていた。いきなりこの状況に放り込まれていたら冷静でいられた自信はない。これだけでも経験しに来た価値がある。


「後ろに居て敵が囲みを抜けたら攻撃する? それとも、魔術師組と合流して敵の数を減らす?」

「私が決めるんですか? 先輩は優柔不断ですね。決断出来ない男は嫌われますよ。私は嫌いませんが」

「僕が判断すると、今回は見学だけで参加は見合わせよう、になるけど?」

「予備戦力として後方に待機しつつ、囲みを抜けた敵を狙い撃ちましょう」


 参加はしたいらしい朱里が即座に下した判断をもとに、辺りを見渡す。逃走ルートを考えて街寄りの位置で後方に障害物がなく、逃げ込める場所にも近い場所は、っと。


「陣形は包囲するような半円形。壁にあてないように少し角度をつけて、あの辺でどう?」

「お任せします」


 怪我人の治療をしている場所のやや前方に位置取り、状況を見守る。

 魔物は狼型。群れでやってきているようだ。牽制と囲みの内側に突出した冒険者を攻撃する以外は防戦一方で、人間側も突出してやられた誰かの担当箇所を突破しようとする魔物を追い返すのが精いっぱいのようだ。


「頭いいな、魔物」

「こんな組織立った魔物は珍しいみたいですね」


 横目で金髪のお姉さんが行使する治療魔法を観察している僕と違い、朱里は周りの声に耳を傾けて情報収集中のようだ。

 組織的行動をとる魔物。狼型の特性かな。もしくは。


「統率力の高い、頭の良い個体が居る?」

「物語にもいましたねキングとかリーダーとか、そう言いう名前の上級種が。私が読んだお話ではゴブリンとかオークでしたけど」

「誰だよ朱里にそんなの読ませたの。あ、僕か」


 まだ精神的に余裕があるからなのか、その精神的余裕を得る為なのか、少しふざけ気味に会話を交わしあう。


「実は同郷が空気も読まずに特攻するなり恩恵をぶっ放して敵が混乱する、と言う展開を予想してた」

「私も似たようなものです。

 先輩が代わりにやりますか?」

「んー。一回だけ狙ってみようかな。同郷がいないなら多少目立っても逃げ切れるだろうし。魔物相手にどの程度通じるのかも知りたいし」

「私もこれを試したいので、お付き合いします」


 前に出るにしても下がるにしても、朱里と別行動する気はないのだが、どうやら彼女はそう思わなかったようだ。

 状況の推移を観察しつつ、静かに一歩、また一歩と囲みを作る冒険者たちへと近づいて行く。そう言えば弓使いとか見ないな、と思いながら囲みの一番外側に居る魔術師組のところまで来ると足を止め、声をかける。


「魔術が使えるので手伝わせてください」

「増援か、助かる」

「こう言った戦いは不慣れなのでアドバイスを頂けるとありがたいです」

「魔力が節約したいからな。代わりに撃ってくれるなら協力は惜しまん。何が使える?」

「風の刃を飛ばす魔術と、石を飛ばす魔術が使えます」


 僕の言葉を聞きながらも、冒険者の人の視線は前に固定されている。僕もそれに倣い、囲みの中に視線を向ける。


「威力と射程が知りたい。届かないとは思うが、あいつらを狙って打ってみろ」

「わかりました。ウィンドカッター」


 囲みを作る冒険者に当てないよう、縦向きに腕を振るう。隣の冒険者――魔術師の人、でいいか。その魔術師の人の言った通り、僕の魔術は魔物の手前で消失する。次いで、同じく短杖を振った朱里の攻撃も同様の結果となる。


「一撃では倒せそうにないな。足を狙え」

「わかりました。あ、その前にもう1つの方も試していいですか?」

「あぁ、やってみろ」


 許可を得て「<銃撃>」と魔術を行使。運よく魔物の目にあたる。脳まで貫通して居れば倒せているかもしれないが、残念ながら草の中に倒れてしまったので確認出来ない。


「届くのか!? と言うか一撃で」

「みたいですね。倒せたのは偶然かと」

「何発打てる?」


 銃撃は使い切りに属する魔術だ。消費はさほど高くないので結構な数を使用する事が出来る。しかし直前にウィンドカッター、その前にはローブへの充填。ある程度回復時間があったとは言え、午前中は訓練で魔法力をかなり消費した。

「10発以上は保証出来ません」

「よし、強襲作戦を進言してくる。お前は魔力を温存。迎撃は相棒の方、任せていいか?」

「やってみます」

「任せる。いや、もしかしてお前もあの魔術が?」

「使えませんので、迎撃に参加します」


 女冒険者など珍しくもないのか、認識阻害ローブのおかげか、それ以上は何も言わず、魔術師はこの場を朱里と仲間の冒険者に任せると後方へと駆けていく。ついて行くべきかな、と少し思ったのだが朱里と離れる訳にはいかないのでこの場で待機しておく事にする。


「ウィンドカッター」

「お、あたった。凄い」


 朱里の攻撃、初ヒットである。魔術師の人が言っていた通り致命傷にはなっていないが、足止めには十分だったらしく、前衛の冒険者が切り伏せているのが見えた。切り捨て、即離脱する動きに淀みはなく、恐らくベテランの冒険者なのだろう。


「この距離でも結構アレだなぁ」

「そうですね。アレですね」


 そんな事を言っていると、魔術師の人が偉いさんっぽい人を引き連れて戻ってきた。恐らく指揮官かその補佐的な立場の人だろう。やはりついて行かなかったのは不味かったのだろうか。


「お前、冒険者ランクは?」

「ありません」

「なるほど。どこかの私兵がたまたま居合わせたと言ったところか。いや、いい。詮索はしない。だが、協力はして貰いたい。報酬は出す」


 何も言っていないのだが、勝手に納得してくれたようだ。冒険者でなくとも強い人は居て、個人的に雇っている人が居る、と言うのは重要な新情報と言えるだろう。貴族とか、大商人とかだろうか。もしくは有力な個人。


「精鋭による敵指揮個体の討伐を敢行する。それを援護する為に囲いを狭め、魔物の注意を惹きつつ間引きたい。お前

の射程範囲内に囮を出すから、出来る限り前に出て援護をしてくれ。もちろん、護衛は付ける」

「わかりました」


 後方から撃つだけ。しかも護衛付き。身元を詮索されず、報酬を得られるかもしれない。上手くいけば恩も売れる。これは破格の条件と言えるだろう。


「こちら、僕の相棒です。風の刃で援護が出来るので、一緒に連れていきたいのですが」

「ふむ。良いだろう。ただし、護衛はあくまで君を優先する。最悪、見捨てる事になるが良いか?」

「かまいません」


 朱里の返答に、指揮官らしい人物が少し驚いているように見えた。しかしすぐに行動を開始した為、その原因はわからない。


「魔物どもを一掃するぞ。

 お前ら、気合を入れろ!」


 おう、と響く野太い叫び。それを合図に作戦が開始する。

 攻める、と言う状況に置いて前に出る事を抑制するのは難しい。誰しも手柄は欲しいものだし、相手が一対一であれば問題なく倒せる程度の敵であればなおさらだ。

 そんな訳で現在、戦況は混沌を極め、乱戦に近い状態になっていた。


「<銃撃>、<銃撃>、<銃撃>」

「巻き込んだらすいません、<ウィンドカッター>」


 朱里さん、乱戦で横向きに打つのは如何なものか。怖いな、この後輩。

 僕の方はと言うと、近づいてきている敵を無視し、遠くに見える一際大きな指揮個体に向けて牽制の銃撃を放っているところだ。この戦線は既に崩壊しかかっているので、早く指揮個体倒して貰わないと間違いなく詰む。と、言うか取り巻きの魔物はサイズ的に冒険者が壁になって狙えないのだ。同士討ちが怖い。


「1匹抜けた!」

「誰か止めろっ」


 僕が増援に来たせいで街に被害が出た、とかそういう展開は止めてほしいんだけど。でもまぁ、消極戦法で囲みの冒険者集団が焦れていたのが今の状況の原因だろうし、たぶん時間の問題だっただろう。うん。そう思わないとやっていられない。


「先輩、怪我人の方にっ」

「……っ、<銃撃>!」


 一発だけ後方に向けて魔術行使。当てられたのは、先ほど治癒魔法を使っていた金髪のお姉さんが勇敢にも前に出て杖で魔物の動きを留めてくれていたおかげだ。あ、杖でボコり始めた。強いな、金髪さん。


「朱里、大きめの石とかない?」

「どうぞ」


 間髪おかず手頃な石が手渡される。僕の魔力残量から先読みしていたのかと思ったのだが、どうやら朱里自身が投げる用だったようだ。朱里さん、怪力ですもんね。


「何か失礼な事を考えていませんか?」

「気のせい気のせい」


 味方と合流しようとでも考えたのか、指揮個体は精鋭チームから逃げるようにこちらに向かってきている。そして迂闊にも僕の手札の中で最大の火力を持つ攻撃の射程範囲へと踏み込んでしまう。そう、質量は武器なのだ。


 ロックの魔術を行使。振りかぶり、投げつける。

 決定打にならない威力とは言え、銃撃が飛んでくるこちらも警戒していたのだろう。頭を狙った攻撃はズラされ、胴体へと直撃する。狙いは外したが、足止めとしては十分。後は精鋭チームがなんとかするだろう。


「使え!」


 そう考えていた僕の手には、何故か立派な剣が一振り。

 これをどうしろと?


「その剣でぶっさしちまえっ」


 そう言って歯を食いしばって笑っているのは、護衛をしてくれていた一人。何頭かここまで到達していたのだろう。剣も、護衛さんも血まみれだ。


「はやくっ」

「は、はいっ」


 急かす声が恐ろしく、外したりしたらそれも怖い。仕事を終えた気になり気を抜いてしまったせいで匂いに、恐怖に気づき色々な感覚が麻痺しているのを感じながら、ロックの魔術を行使。残りのほぼ全魔力を込めて身体能力を強化し、投擲する。


「ははは……」

「当たったか?」

「綺麗に刺さりましたよ。さすがに頭から剣生やして生きてるとか、ないですよね?」

「ないな。ないぞ。ははははは」


 お互い、テンションおかしいですねと思いながら朱里を探す。石を投げて援護射撃をしているようだが、どうやら傷1つ、返り血1つ浴びていないらしい。もしかすると、認識阻害ローブが良い仕事をしてくれたのかもしれない。


「朱里、撤収しよう。

 魔力もないし色々限界だし、精鋭チームも戻ってくるだろうし」

「そうですね。手も痛いですし、鼻も曲がりそうです。慣れるんでしょうか、これ」


 そんな状況の中、お互いの無事を確認しあう。そして護衛の人達に下がる事を告げ、ついでに先ほど武器を貸してくれた護衛さんを引っ張って治療をしていた場所へと向かう。本人はまだ戦えると言っていたのだが、武器もなく、何度か腕も噛まれている様子だったので強制連行だ。


「この人、お願いします」

「はいはい、その辺においといて」


 軽い調子で返してきたのは、先ほどの金髪さんだった。先端が無残に破壊された杖を片手に、治癒魔術を行使している。気のせいかな。あの破壊痕、歯形じゃなくて銃撃っぽいのは。


「僕たちは下がりますので」

「ここを手伝ってくれてもいいのよ?」

「魔力も体力も空っぽです」


 ついでに精神力も。

 魔物との初陣をなんとか終えた素人擬きなのだ。これ以上の酷使は止めて頂きたい。


「何か甘い物でも買って、宿に戻ろうか」

「いいですね、と言いたいところですが開いてますかね、お店」

「あ」


 そう言えばこの街は現在進行形で魔物の襲撃に晒されているのだった。そう考えると、宿もやっているのか怪しい。いや、やっていなくても普通に部屋には入れるだろうけど。


「人っ子一人いない」

「教会あたりに避難しているのではないでしょうか」


 無人の街を歩き、宿へと到着する。こちらも無人だった。

 仕方なく、僕たち2人は水と万能ブラシで汚れを落とすと、どちらともなく床に就いた。

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