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第九話「魔道具の検証」

 昨日、色々とあった街外れに到着した僕は、一先ず朱里の座る場所を確保した後に昨日のリア様から聞いた情報を説明していく。そして2つの魔道具を取り出し、ローブを朱里に、自分は短杖を手にする。


「ヴィーさん、良い人でしたね」

「変な人でもあったけどな」

「ここで出合い頭に襲われていたらひとたまりもなかったでしょうに」


 最初に背後を取られていた事を思い出し、冷や汗が流れるのを自覚する。あのまま刃物で刺されでもしていたらその時点で終わっていた事だろう。本当に運が良かった。


「その辺りは宿を取ってから改めて話し合うとして、今は魔道具の検証をするんですよね?」

「ついでに、ウィンドカッターの魔術を会得しておきたい。あと、ライティングも」


 昨日まではかなり呑気にかまえて居たのだが、さすがに今日は真面目に習得訓練をしなければと短杖を振るう。が、詠唱をしても何も起こらなかった。


「おかしいな」

「あの女神に騙されたのでは? やはり改宗しましょう。今すぐ棄教を。そうすればヴィーさんとも敵対しなくて済みます」

「いやいや待って。えーっと確か。そうだ、魔力が空なのかも」


 短杖に魔力を込める。イメージはバッテリーの充電だ。しばらくそうした後「<ウィンドカッター>」と唱えると、リア様の言葉通り、杖の先端に風の刃が発生した。


「お、出来た。魔力の残量もなんとなくわかるけど、減り早いな」

「燃費が悪い魔術なのかもしれませんね。もしくは、その杖の性能があまりよくないのか」


 しばらくすると魔力が無くなり、風の刃が消失する。今度は飛ばす方をと魔力を再充填し、魔術名と共に杖を振るう。標的は昨日も的にしていた木だ。何度か使用し、検証を繰り返す。


「振った幅で刃の幅が決まる感じかな。最大値が1メートル――いや、80センチくらいかな。これだと多分消費は2割くらい。小さく振ると消費が減る気がする」

「あの、先輩。私も試してみたいです」

「恩恵持ちは魔術が、ってこれ、魔術行使じゃないからもしかして使えるかも?」


 魔力を最大まで充填し、朱里に手渡す。結果、使用可能。朱里が一番振りやすい幅で6か7回発動したので、使用魔力の目安も大きくは間違っていないようだ。


「でも、私にはあと何回撃てるのかわかりません」

「僕はなんとなくに把握出来るんだけど。魔術的な何かで計測している感じなのかな」


 魔力の充填と残量管理は僕がする必要があるとは言え、朱里が射程のある武器を使える様になるのはありがたい。話合いの結果、ウィンドカッターの魔術を会得するまでは練習用に僕が持ち、習得後は朱里が持つ事に決まる。


「詠唱後、一定時間以内に動作をしないと刃として固定される。刃は魔力が尽きるか再度詠唱をして魔術を放つまで消えない、と」


 朱里がノートに風刃の短杖の使用方法を書いている横で、僕は次の魔道具、認識阻害のローブをに魔力を充填していた。既に朱里が着ているので、背中に触れる形で。


「あれ、結構持ってかれる。満タンにするのは止めとこう。さっき結構使ったし」

「風刃の短杖を使い過ぎましたね。反省が必要ですね。反省します。調子に乗りました。ごめんなさい」


 この娘、魔道具でとは言え魔術が使えるのが嬉しくて複数回の充填を僕に強請った悪女である。対価の回収がとても楽しみだ。

 とは言っても、検証の為でもあったので普段の内容に少し色を付けてもらう程度なのだが。


「じゃあ、さっき食事をした店あたりで」

「わかりました」


 僕が先行し、店の付近で待機する。道行く人を意識しすぎない程度に確認しながら待っていると、目の前を通過した小柄な人物が足を止め、振り返る。


「成功でしょうか、先輩」

「多分。目の前を通ったのにただの通行人にしか感じなかった」


 続いてフードなしでの実験を行った結果、こちらはなんとなく朱里っぽい人と認識出来た。基本的にフード被って運用すべき、と言う結果を得た時点で本日の検証は終了。稼働時間は後日計測すると決め、宿を探す為に移動を開始する。

 3件ほど回って2件目に入った宿に泊まる事を決めると、2泊分の料金を払って部屋へと向かう。資金的にも安全面にも不安があるので2人部屋だ。交代で部屋に入り旅装を解く。ちなみに一昨日は疲れが限界だった為、同室で同時に着替え、と言うか寝るのに邪魔な服を脱ぎ捨てていた記憶がある。ごちそうさまでした。


「とりあえずお風呂?」

「勿論です。先輩はどうしますか? 一緒に入りますかと言う意味ではないですよ」

「朱里の後、時間が残ってたら頂く事にするよ」


 風呂は宿に1つだけ。時間で貸切となっている。鍵はかけられるが、念のため脱衣所前で見張りとして待機している予定だ。宿の人に聞かれたら、次に入る予定だと答えれば怪しまれる事はないだろう。揶揄われる可能性はあるが。


「なるべく早く出るようにします」

「今日はゆっくりでいいよ。明日は先に入らせて貰うから」


 2泊の予定であるし、別にもう1日くらいは問題ない。汚れは万能ブラシでどうにでもなる。


「シャンプーとトリートメントが無いのが悔やまれる」

「あのブラシでお手入れするんだから、いいじゃないですか」


 お風呂上りの髪、と言うのは流石に初体験なのできちんと手入れした状態を見たいと思うのは仕方のない事だろう。そう考えると上がりたてを堪能する為に今日の入浴はむしろない方が良いのでは。


「朱里、僕は今日、お風呂に入らない事に決めた。ゆっくり入って来て」

「……? よくわかりませんがわかりました。お言葉に甘えさせて頂きます」


 首をかしげる朱里を送り出し、鍵をかけた音を確認すると、扉を背にしてどこかの衛兵の様に肩幅に両足を開き、直立する。

 1時間弱、女将さんに「一緒に入らないのかい」と揶揄われた以外は特に何事もなく貸切時間は終了する。


「気持ちよかったです。ありがとうございます」

「とりあえず部屋に戻ろうか」


 長めの髪をドライヤーなしで乾かすには時間がかかるので、万能ブラシをドライヤー代わりにする事は事前に決めていた事もあり、朱里の頭にはタオルが巻かれている。

 部屋に戻り、鍵をかけてタオルを解くと濡れ髪が零れ落ちる。髪に触れた手と服が濡れるのも気にせずブラシを当てていく。朱里の方は濡れ透け対策で肩から別のタオルがかけられている。


「ふぅ」

「大丈夫?」


 疲れのにじむ溜息。手は止めずに発した言葉に、朱里は少しだけ申し訳なさを滲ませた声でそれに答えてくれた。


「入浴は気持ち良いですけど、疲れますね。長風呂しておいて何を言っているのでしょうか、私は」

「綺麗になった髪に触らせて貰えるし、気にしなくて良い、と言うか役得、役得」

「先輩は相変わらずですね」


 こちらに来てからは心も身体も休まらない日々が続いている。先日は殺し合いの場にも居た。そんな中でようやく得る事が出来た日常の残滓。いつも通りのやり取りをして、楽しみを見つけて。けれど変わってしまった日常は、朱里の心を少しずつ削っていたのだろう。この前は軽く爆発したりもしていたし。


「ヴィーさんに煽られたとは言え、かなり恥ずかしい事を言ったじゃないですか」

「煽られる前からだいぶ酷かったけどな」


 まずは余分な水分を取り除くためにいつもの手順を無視して髪全体にブラシを通していく。その手は止めず、思考は朱里との会話に向ける。


「私は先輩の事、憎からず思っています。先輩だって、少なくとも嫌ってはいないですよね」

「この前にも言ったけど、この世界で一番好いているよ」

「は、恥ずかし気もなくそんな事を言わないでください」


 照れる朱里が顔を背けようとするが、髪の手入れ中だと思い留まったようだ。もごもごしている口元が可愛らしい。


「それは本当に私を、ですか? もし、この髪を切っても同じように一緒に居てくれますか?」

「もちろん」


 恋愛的な、と言う体で話している朱里だが、恐らく本当に気にしているのは別の事だろう。

 朱里は今、無力感に苛まれているのだと思う。自分は役に立っていない、迷惑ばかかけている。そして求められているのは身体で、女の部分だけなのだ、と。だから不安になり、不安定になった。そんな事はまったくないのだが、人間、どうしても目立つ部分に目が行ってしまうのは仕方がない。


「ここまで無事に旅が出来たのは朱里の恩恵で色々情報を得られたからだし、そうでなくとも朱里の知識量には助けられている。居てくれないと、困る」

「私の知っている事なんて、そんなに大した事じゃあ……」

「大した事だよ。知識もだけど、考える力とか、判断力とかも。

 僕たちは基本、平和的な思考の日本人だし。危機感が足りなさ過ぎたのはお互い様」


 幸い、戦闘力を得る目途は付いた。警戒心の薄さは意識してなおすしかない。後は慣れと訓練の繰り返しだ。


「でも、またあんな事があったら」

「それが怖いなら、教会に保護を求めると言う手もある。使徒だと名乗れば悪い扱いはされないと思う」


 僕はついていけないかもしれないけど、とは口にしない。理由はもちろん、リア様が教会でどう言う扱いなのかわからないからだ。現存するはずの信者の扱いも含めて、色々と調べる必要があるだろう。邪神扱いされていたりしたら、目も当てられない。


「先輩と別れる気はありません」

「僕が別れ話してるみたいな発言は止めない? この世界で唯一の知古なんだから、嫌がられるまで離れる気はないよ」


 その言葉を聞いて、朱里は長く息を吐きだす。吐息と一緒に色々なものを吐き出していそうな、重い一呼吸だった。


「では、これからもお互いに足りない部分を補いながら共に在る事にしましょう。先輩は足りない部分が多すぎて、補うのも大変ですが、優しい朱里ががんばって埋めてあげます」

「それはありがたい。とりあえず今は足りない朱里成分を補給する為に撫でまわさせて貰おうかな」

「ダメです。今日はここまで。またのお越しをお待ちしております」


 梳り終わった髪を緩く後ろで束ね、弄んでいたのだがするりと逃げられてしまう。少し元気も出たようなので、無念ではあるが今日のところは諦める事にする。


「じゃあ、魔術の練習でもしようかな」

「私は読書を、と言いたいところですが一冊読み終わったら疲れて寝てしまいそうなので止めておきます」


 書の神殿での共同生活で知った事だが、この後輩は読書中に寝落ちする事は少ないのだが、読み終わった瞬間に電池切れを起こす事がある。そうなると眠った朱里を寝室に運ぶ必要が出てくる訳で、さすがにそれはダメだと何度か注意している。そしてまた近い将来にもする事になる予感がする。


「それはライティングの魔術、でしたっけ?」

「これが出来るようになれば既存の基礎魔術は大体使えるようになりそうだし、何より危険度が低い」


 さすがに室内で火は出せないし、水も処理に困る。その点、光は出力をよほど上げない限り周りに迷惑をかけずに訓練が出来る。


「魔術と自分の間にパスをつなげ続けるイメージ、って何か代替え出来そうなモノ、ない?」

「そうですね。繋げる。繋ぎっぱなし。切れない。

 チェインドライブラリ、は何か違いますね。充電器も。電話とかどうですか」

「電話か。電波の方が魔力っぽいか? どっちも見えないし。無線。Wi-fi、も何か違うような」

「それが出来たら敵の魔法を操ったり出来そうですね。無断侵入された、とかニュースになっていましたし」

「パスワードかけてなくて、だっけ」

「そんな感じです。あ、マウスとかどうですか。パソコンの」


 マウス。線で繋がっていたりワイヤレスだったりするが、パソコンとは繋がっており、様々な動作で操作を行う事が出来る。そう言う類であれば他にリモコンやコントローラーもある。


「いいかもしれない」

「さすがは朱里。先輩、崇めてもいいんですよ?」

「ゴメン。僕、無宗教だから」


 言葉選びを間違えた気がする。後でとても怒られそうな気がしたが、気がしただけなので無視してライティングと呟く。


「あ、いけそう、って消えた」

「ダメですか?」

「いや、さっきのは繋いだチャンネル、いや、パスか」

「先輩が想像しやすい方で良いのでは? イメージが重要ならむしろ間違っていてもそうすべきだと思います」

「じゃ、チャンネルで。

 繋いだチャンネルで命令だけ送ったせいですぐ魔力が切れたっぽいから、次は命令に魔力を乗せて送ってみる」


 言葉にする事で今から行う作業を明確にし、イメージを更に固める。魔術名と説明を交互に口にして、何度か失敗と短時間の維持成功を繰り返す事十数回。ほぼ成功するようになった。


「成功ですか?」

「かな。けど、攻撃魔術とか防御魔術の不発は文字通り命取りになりそうだし、日々訓練を続ける事にするよ」


 魔力も減ってきたし、それなりに時間も経過して居た為、魔術の訓練を切り上げて荷物の整理を始める。程なくして夕食が可能な時間になった為、僕が食堂へ食事を受け取りに行き、部屋で食べる。


「明日は食堂で食べましょう」

「朝食はそうするつもりだけど、夕食はその時次第かな」


 今日の様に風呂から上がりもう何時でも床に入れます、と言う状態の朱里を食堂に連れてく訳にはいかない。部屋で食事をする事に決めたのは、朱里がもう眠そうだったので食事の為に着替えて移動するのも億劫だろうと考えたからだ。提案にあっさり乗ったあたり、自覚はあるのだろう。


「ご馳走様でした」

「ご馳走様。

 そう言えば、万能ブラシに新機能が追加された」


 以前、成功しなかった変化が今なら出来るような気がして試した結果、出来てしまったのだ。朱里が恩恵の事で、なんとなく出来るのがわかる、と言っていた感覚はあんな感じなのかもしれない。


「それは、まさか」

「そう、歯ブラシ。

 この世界の歯科医療事情は分からないけど、虫歯は万病の元とも言うし清潔にするに越した事はないから」


 朱里は噛むの好きだしね、と思いながらにじり寄る

 実質的には1つの歯ブラシを共有する事になるが、そこは万能ブラシ。きちんと想像すれば色違い形状違いの歯ブラシに変化させる事が出来たので、毎回変えれば共有感もあまりないだろう。


「さすがに、それは」

「虫歯になったら治せるとは限らないし。恥ずかしがらず口を開けて」


 そう言って強引に迫った事を、僕は大いに後悔する事になる。


「先輩、さすがにそれはないです。軽蔑です。超えてはならない一線です」

「え、そこまで?」

「乙女の唇をなんだと思っているんですか。学校の先輩後輩がこんな事をしていたらドン引きです。異常です。犯罪行為です。やはり先輩は歩く非常識だった」


 初遭遇時並みの冷たい視線と罵倒に心を折られた僕は、その視線から逃げる為に食器を持って部屋を飛び出した。

 僕は部屋に戻るために多くの時間と精神力を使用する事となり、覚悟を決めて戻った部屋で既に朱里が眠っていた事に安堵する事になる。

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