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僕はモテモテです。ジミ子限定ですが。  作者: さとみ・はやお
第一章
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第5話 ビバ!抜き打ち試験

「ちょっと話したいの。いいかしら」と尋ねてきた国貞くにさだ淑子(としこ)は、イエスノーの返事も待たずにいきなり僕の手を取り、教室の出入り口のほうへと歩き始めた。


予想外の強い力で、引きずられていく僕。


おいおい、こりゃ強引過ぎないか?


おまけに、みんながあっけに取られているじゃないかよ!


異変に気づいた仲真なかまが、僕と国貞に素っ頓狂な調子で声をかける。


「おやおや、おふたりさん。さっきの続きですかい?」


それに返事すら出来ず、僕は教室の外の廊下まで引っ張り出された。


そこでようやく国貞は手を緩め、僕は解放される。


「ずいぶんと手荒な真似をしてくれるなぁ、国貞さん。


しかも、みんなに見られちまったし。


いったい、何の話があるんだ?」


「ごめんなさい、またわたしの悪い癖が出て。


つい暴走してしまったわ」


昼休み、彼女が僕にいきなりハグしてきた時に「感極まると周りの状況をすっかり忘れて行動してしまう悪い癖があるみたいなの」と釈明してたけど、それだな。


「毎回、きみの性癖のせいにしないでくれ。


で、話はなんなんだ?」


すると国貞はすっと人差し指を立てて口元に持っていき、こう小声で言った。


「ここで立ち話じゃなんだから、校舎裏に行きましょ」


いたしかたなく僕は国貞の後に付いて、人気ひとけのない校舎裏に行くことになった。


「さっき相賀くん、隣りの席の屋敷さんといろいろやり取りしていたでしょ、筆談で」


あぁ、前の授業時間の様子、バッチリ見られていたのか。


まぁ、無理もない。国貞の席は少し離れているものの、僕や屋敷の席の斜め後方にあるからだ。


僕はこう答えた。


「昼休み、国貞さんと僕が手をつないで教室に帰って来ただろ。


あれを見とがめて、いつの間にそんなに仲良くなったのかと、屋敷さんが尋ねて来たのさ」


「それで、相賀くんはどう答えたの?」


「事情をちゃんと屋敷さんに説明したさ。


僕が国貞さんとまともに会話をしたのもきょうの昼休みが初めてだし、手を握っていたのも急にめまいを覚えた国貞さんに頼まれてのことだったって」


「そう。それで屋敷さんは何と?」


「国貞さんと特に親しくなったわけじゃないのならいいわって、一応納得していたよ。


でも…」


「でも、何?」


「誤解を招くような行動はやめてちょうだいって、釘を刺された。


僕、屋敷さんと特に親しい訳でもないのに、なんでそんなこと言われたんだろう」


「(あのやろぅ…)それは妙なことを言うわね。


屋敷さんって前髪長過ぎでまるで表情が読めないから、ホントに行動も謎なのよね。


もしかしたら、いつも相賀くんのことストーキングとかしているんじゃないのかしら。


相賀くんも彼女のこと、もっと用心したほうがいいわよ」


なんか国貞さん、冒頭に不穏な発言を小声でしたような気がするんだが、またしても空耳だろうか。


今度、耳鼻科で診てもらったほうがいいかもしれない。


「で、話はそれで終わったの?」


「えっ、終わったって…?」


僕への国貞さんの取り調べは、叩き上げの刑事さん並みに厳しく、さらに続く。


思わず、ビビる僕。


「もしかして、その後、さらに屋敷さんにネチネチ絡まれたんじゃないのかって聞いているの。


あなたがたの筆談のやり取りの回数から察するに、もうひと悶着があったと踏んでいるわ。


さあ、どうなの?」


どうしよう。屋敷さんに「罪滅ぼしとして、きょうはわたしと手をつないで帰るべきよ」と言われてしまったこと、国貞さんに教えちゃっていいんだろうか。


悩ましい。


でも、国貞さんなら善人だから絶対このネタで強請ゆすったりはしないだろうし、もしかしたらいいアドバイスをもらえるかもしれない。うん。


僕は意を決して、国貞さんに事情を打ち明けることにした。


「……というわけで、屋敷さんに一緒に下校してとせがまれちゃったんだよ。


最初は頼みを無視したんだけど、屋敷さんがいたくご立腹でね。


結局、放課後に彼女の悩み相談に付き合うことになりそうなんだけど……」


僕の話を聞くにしたがって、国貞さんの表情はどんどん険しくなっていった。


「相賀くん、ダメよ。屋敷さんのその依頼を受けたら。


とってもディンジャラスな匂いを感じるわ。


とにかく彼女なんかまいて、きょうはわたしと一緒に下校したほうがいいわ。


いえ、一緒に帰るべきよ!」


トンデモな提案が、国貞さんの口から飛び出てきた。


「え、そんなぁ、ちょっ、ちょっと待ってくれよ…」


そう抗議している最中に、次の授業開始を知らせるチャイムが鳴り始めてしまった。


ヤベェ!


僕と国貞は話をそこで終えた、というか中断して、あわてて教室に戻ったのだった。


      ⌘ ⌘ ⌘


次の授業、第6限は古文だった。


僕は教室に戻るとき、とても不安を感じていた。


こうやって休み時間、国貞とふたりきりで話をしに行ったことは、当然ながら隣りの席にいる屋敷にバッチリ見られてしまっている。


となると、次の授業時間でも、また屋敷からその会話の中身について、ひたすらしつこく筆談で尋ねられるのは避けられないんじゃないか?


また執拗な追及を受けるんじゃないか?


そして、さっき以上の要求をされるんじゃないか?


ガクガクブルブルな僕だった。


が、神というものはいることが、今回よく分かった。


神は死んでいなかった。


なんとなれば、その日教室に現れた古文担当の枯木かれき先生は、普段は授業に持って来ることのない、A4用紙の束を抱えていたからである。


それまでは雑談、そして本日の最終授業ということから来る解放感で大いに盛り上がっていた生徒たちのテンションは、瞬時にゼロになった。


「きょうは小テストをやります」


40代後半の男性、その名のごとくほっそりとした容姿の枯木先生が、おごそかにそう伝えると、ほぼ全員の生徒から絶望感に満ちた溜め息が流れ出た。


たったひとりの例外、すなわち僕を除いて。


『サンク・ゴッド! 神様ありがとう。


とにかくこれで1時間、屋敷の筆談攻撃を受けずに済みます』


古文は文系の僕としてはわりと得意な科目なのだけれど、たとえ零点だったとしてもまったく気にならないくらい、今回の抜き打ちテストは「神の福音」だった。


試験と聞いて歓喜に打ち震える。


こんな経験、一生に一度だろうな。


ほどなく試験が始まり、生徒全員、問題との格闘に追われることになった。


僕がふと隣りの屋敷の様子を見やると、彼女もまた必死になってペンを走らせている。


よしよし、この分なら問題なし。


あとは、授業が終われば、即ずらかる。これしかない。


屋敷はもちろんのこと、国貞もブッチギリだ!


ええぃ、かまうものか。(続く)

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