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僕はモテモテです。ジミ子限定ですが。  作者: さとみ・はやお
第一章
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第2話 ハイスクールはカフェテリア

話はその数時間前にさかのぼる。


その日、僕相賀(あいが)保志雄ほしおは、昼休みの時間になるといつものように校舎の屋上まであがって、出入り口から一番離れた一角を陣取った。


そこが、毎日僕がひとりで昼食をとる定位置なのだ。


別にぼっちを気取っているわけではない。僕にだって、クラスにひとりぐらいは気の合う友人といえるヤツがいる。


仲真なかま友樹ともきというのがそいつの名前なのだが、放送委員会に所属していることもあって、あいにくと昼休みはそちらの仕事で忙しいのだ。


いまも校内放送から、DJトモキのノリのいいアナウンスが聞こえてくる。


というわけで、ぼっち飯である。でも、これがそんなに悪くない。


屋上に昼食を取りにやって来る人間は他にも何組かはいるが、屋上がだだっ広いので、彼ら彼女らに気を遣うことなく、伸び伸びと休憩時間を過ごすことが出来る。

ビバ屋上。


そんな感じで、その日も家から持って来た弁当を食べ終わった後は、昨日本屋で買ったばかりのストリート系メンズファッション誌「HIP」を読み始めた。


自由、そして解放感に満ちたひとときが流れる。


そう、ただひとつの点を除けば完璧な時間……。


僕は雑誌から目を上げて、5メートルほど離れたところにいるふたりの人影に目をやった。


「あーんして、えーくん」


そう言って、隣りに座った男子生徒に弁当のおかずを食べさせようとしている女子がいる。


男子は「よせやい」とか言って照れているが、結局は女子の押しの強さに負けてしまい、「あーん」と大口を開けている。


目障りなこと、このうえない。


とはいえ、他人の恋路についてあれこれ言うことぐらい野暮やぼなことはないと僕も承知しているので、ここは仕方なくわが視線をそのカップルかららし、彼らの睦言むつごともノイズキャンセリングすることで事なきを得るのである。


そう、僕には同性の友人はいるが、いわゆる「彼女」はいない。


それは厳然とした事実であり、僕本人、それを望んでのことでもない。


過去、彼女を作ろうと自分なりに試みはしたものの、すべて失敗に終わってしまっている。


要するに、彼女が欲しくて欲しくてたまらない僕なのであった。


「まぁ、しかたない。つい先日もこっぴどく振られたばかりだし、焦って別の子に告ってまた振られたらダメージがさらにひどくなりかねないや。


当分、あきらめるしかないよな」


そうため息をいていたところ、不意に頭上から、女子の声が聞こえた。


「相賀くん、隣り、座ってもいいかしら?」


ん、女子が僕に何の用?


一瞬、幻聴か何かと思ったが、確かに「相賀くん」と聞こえた。


ということは、僕に対して発せられた言葉なのだろう。


僕はおずおずと視線を上げた。


そこには、長めの黒髪を三つ編みにして度の強い黒縁眼鏡をかけた、同じクラスの女子の姿があった。


あったのだが……。


「えーと……(やべぇー、名前が出てこないよ!)」


その、内心の焦りを悟られたのだろうか、彼女はすぐにこう付け加えた。


「あっ、ごめんなさい、わたしは国貞くにさだ淑子としこよ、相賀くんと同じクラスの」


「こ、こちらこそごめんね、国貞さん。すぐに名前が出てこなくて。


僕たち、クラスは同じでもこれまで話したことなかったよね」


「そうね、たぶん初めてだわ。


わたし、クラスの女子の中では存在感が薄いから、なかなか覚えてもらえないのよね……。顔も名前も」


そう言った国貞さんが、いかにも泣き出しそうな表情になっているのを見て、僕はあわてて否定した。


「そんなことないよ。他の子たちがかしまし過ぎるからだよ。


国貞さんはいつもおとなしくて、しとやかだなぁっていつも思っていたんだから!」


そう言うと、国貞さんは一転、にっこりと微笑んだ。


「よかった。相賀くんには陰気な子と思われてなくて。


わたし、口数は少ないけど、コミュ障とかそういうのじゃないと思っているの。


興味のあるひととは、ちゃんとおしゃべりしたいと思うもの」


ん? ということは、僕は国貞さんの興味の対象ってこと?


それを尋ねる間もなく彼女は「じゃあ、隣り、かけさせていただくわね」と言って、むき出しのコンクリートの段に座ろうとするので、僕は急いでズボンの尻ポケットからしわくちゃのハンカチを取り出して敷いてあけた。


「ありがとう、優しいのね」


国貞さんはそう言って微笑みながら腰を下ろしたので、僕もつられて笑顔を返したのだった。


それにしても、隣りに座った国貞さんとの距離が妙に近過ぎる気がする。

ほとんどおたがいの腕が密着するぐらいの間隔。


普通、クラスメイト、それもこれまでほとんど話したことのない人って、こんな風に身体を寄せて来るもんなの?


僕はなんだか落ち着かない気分のまま、国貞さんと話をする。


いや、会話というよりは、とりあえず国貞さんの話を僕が聞くというのが適切な表現だったろう。


彼女はいつもは教室で昼食をとって、その後は文庫本などを読むのが常だったそうだ。


「でも、今日はいつも昼休み教室にいない相賀くんとお話がしたいな」という気分になっだのだという。


「わたし、相賀くんとは直接話したことはなかったけど、相賀くんと仲のいい仲真くんとは去年から同じクラスで、文化祭の準備を一緒にしたりしてまんざら知らない仲ではないの。


そこで、昼休み放送室に行った彼にあなたの居場所を尋ねて、ここだと突き止めたのよ」


さいですか。ようやく、いくつかの疑問、腑に落ちました。

仲真が僕がここにいることを教えたってことなのか。


それから、国貞さんの所属している部活動についても聞かされたのだが、やはり彼女のパブリックイメージ「文学少女」そのままに「文芸部」に入っていて、二年目の今年は部長も引き受けたのだという。おー部長さまか。

本当に、ザ・ハマり役というしかない。


他には、国貞さんの家族のことも話題として出てきた。


彼女の家はサラリーマンでなく、自営業。

二代にわたって続く和菓子屋さんをやっているという。

この高校にも割合と近い、バスで10分くらいで行けるような街にあるという。

当然、彼女もバス通学ということだ。

家族構成はご両親と長女の彼女と、弟さん。


話を聞いてばかりじゃなんなので、僕も自分の部活について簡単に話す。


僕も国貞さん同様文化系のクラブで、スピーチ部というのに入っている。


昔は弁論部だの雄弁会だのと呼ばれていたヤツだが、きょう日はまるで流行らないようで、部員数も年々減り、今年は四人だけ。


本来なら、費用補助の出ない同好会に格下げされても文句は言えない状態なのだが、歴史ある部ということで、暫定処置として今年だけは降格を免れた。

だが、来年はどうなることやら。


そんな弱体の部なので、活動は当然ながら低調。

ほとんど休眠状態で、たまに、つまりスピーチコンテストの前の時期だけは練習に励む、そんな感じなのだ。ラクといえばラクなんだけど。


そんな話でも、国貞さんは眼鏡の奥の目を輝かせ、興味深々といった表情で、身を乗り出すようにして聞いてくれている。

そんなに面白い話かなぁ。


あと、国貞さんの話に合わせて、僕も自分の家族について話した。

僕の家は典型的なサラリーマン家庭で、四人家族。

両親は共働きで、僕と妹のふたり兄妹きょうだい

妹はちょっと歳が離れていて、小学校の中学年だ。


実に平々凡々な家庭環境で僕が話すとあっという間に終わってしまうが、国貞さんは、妹がどんな感じの子か、僕に似ているのか、性格はどうなのか、細かいことまで尋ねてくる。


うちの家に、あるいは七つも違ううちの妹に、そんなに興味があるのだろうか。


そんなこんなで昼休みの時間が意外と早く過ぎ、午後の授業開始の予鈴が鳴った。


「そろそろ、教室に戻らないとね」


僕がそう言うと、国貞さんはしばらく言葉を溜めるように口をつぐんでから、こう答えた。


「ねぇ、相賀くん。もしお邪魔じゃないなら、わたし、明日もここに来ていいかしら」


思いがけないお願いの言葉に、僕は一瞬、返答に詰まったのだった。(続く)

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