自主トレ!
前回から弥助くんの視点が入るようになりました。
今回も最後の部分がサクヤ視点、それ以外は弥助視点です。
(´・ω・)中国はコロナ終息、などと申してますが....経済への影響肌で感じます~。
小売業は未だ70%といったところ。
内需が期待できない中、他国との関係は大事なんですけどねえ....
目が覚めるとゴザの上。
我ながら馬鹿な事を始めたもんじゃと可笑しくなった。
(しかしアレじゃな...気分は悪くない。)
それどころか清々しいほどだ。こんな薄暗い気味悪い鬼の出る洞窟の中で。
(擦り傷なんかも治っておるような....。)
結界に倒れ込んだときに岩肌でかなり擦り傷を負っていたが、そんなものは跡形もない。
「うん?ハテこれは...?」
思わず声が出る。体が異常に軽く感じるのだ。この結界のおかげかいの?
(だが外へ出ればまた鬼の海じゃ。)
アレを突破するにはどうすればいいのか。
結界の入り口を背に、撃てるだけ小鬼を撃ってまた結界に逃げ込むのが良かろう。
しかしそれでは...更に沢山の小鬼が出た時にどうすれば良いか?
(また都合よく結界があるとは限らん。最低でもヤツらを1人で撃退する方法を身に着けにゃならん。)
それにはどうすれば...ワシは答えを求めて考えを進める。そしてそんな自分に驚いている。
(考えて稽古をするなんぞ休むに似たり、と先に体を動かしとったもんじゃが。)
そしてある可能性に思い至る。
「ふん、そうか。やってみるか。」
そうつぶやいてワシは行動を開始した。
洞窟の前までやって来ると、相変わらず小鬼どもがウジャウジャしているのが目に入る。
「全くよくもこれほど居るもんじゃ。」
毛むくじゃらの顔に、ぎょろりとした目と真っ赤に開く大きな口。
「おや、角の数が違うのか。」
よく見れば個体ごとに角が1本のモノと3本のモノがいる。
3本鬼の方が動き方が素早いような。
「1本の方が数は多いな。」
3本鬼は小隊長とでもいうのだろうか。数人を指揮しているように見えなくもない。
「なるほどコヤツらの動きにも、規則性があるかもしれんな。」
ワシは試してみることにした。丸腰のまま結界を超え、一歩外に踏み出す。
「ギャギャギャ!!ギャア!」
いたるところで声が張り上げられる。ワシは壁を背にゆっくり洞窟の奥へ移動する。
「ガアアアア!!」
最初の小隊の攻撃を躱す。後ろへ抜けると直ぐに別の小隊がいる。
「グギャアア!」
1人目に金棒を振らせてバランスを崩したところを、腰を掴んで三本鬼へぶつけてみる。
続いて2つの小隊が挟撃してくる。
ワシは隠居先生の教えを不意に思い出した。
『葉一葉にとらわれれば、百千の葉は見えず。』
不意にワシの意識内に数十の小鬼どもが捉えられる。
小鬼どもは同士討ちを避け、衝突を起こしながらワシ1人に対して殺到している。そこには因果関係からの動きの制限がある。ワシの頭にはその動きがしかと捉えられた。
「小鬼個別の動きでなく....全体を捉えれば...自ずと動きが見えてくるわけか....。」
2匹同時に振ってくるが、込み合った戦場では横への強振は出来ず縦振りになる。
するりと躱して勢いと共に、三本鬼へ前蹴りを見舞う。
「ギシャアアア!」
なるほど、これは楽しい。この調子でしばらく突きと蹴りをたたき込み続ける。
小鬼にも疲れが出るようで、次第に足取りが重くなってくる。
だがこちらも疲れは同様だ。よろめいたところに2発ほど打撃を喰らってしまった。
重たい鉄の棒で受ける打撃は裂傷こそ出来ぬが骨に響く。
「一時撤退するか。」
ヨタヨタする小鬼をかいくぐり、再び結界の中に飛び込んだ。
「ぐうう、疲れた....。」
打撃を受けた背中と肩が痛む。荒い息を押さえつつ奥の空間まで歩くと、再びゴザへ大の字に寝転んだ。
「これは参った...道場の稽古よりキツイ。」
だが確かに今、全ての小鬼の動きを捉えることが出来た。
もう一度やってみねば....。
見ると先ほど寝る前に食った饅頭は再び蒸籠の中にあり、水差しも重く中身が増えている。
「食うのには困らんようだ。」
だるい手と口を無理に動かし饅頭を飲み込む。水もぐびぐびと流し込んだ。
半刻ほども全力で動いただろうか。もう限界じゃ...。
ワシはまたしても眠ってしまった。
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その後はこれを何度も繰り返した。5度目までは覚えていたが、もうこれが何度目なのかハッキリとは分からない。
結界の中で擦り傷が回復していたのを見て、小鬼どもを使った訓練を思いついたのだ。
躱して逃げるだけの訓練。傷付けば結界内で回復すれば良い。
だが頭の中で小鬼の動きは回を増すごとに鮮明になっていく。今ではワシの頭はまるで洞窟の上から見たように、小鬼どもの位置を完璧に捉るまでになった。
戦い続けられる時間も伸びてくる。最初は半刻もせぬうちに倒れてしまったが、今では一刻過ぎてもまだまだ余力がある。
おまけに数匹の小鬼が倒れて消えてしまうようになった。
素手と蹴りで致命傷を与えれるようになってきたらしい。明らかに威力が増してきている。
躱すだけでなく攻撃まで出来るようになってきた。コレは期待していなかった成果だ。
初めの数回は必ず打撃を受けてしまっていたが、先ほどくらいから打撃も受けることが無くなった。
結界に戻ってひと眠りすると、直ぐに打撃の影響も消えるのだが、よけれるならそれに越したことはない。
今回の継続時間は既に二刻に近づき、小鬼どもはもうフラフラだ。これで終わりにしてしまおうと、ワシは蹴りに力を込めて小鬼どもを撃ち続ける。
もう1日は過ぎただろうか?あるいはもっと時間が過ぎているかもしれない。
しかしこれほど楽しい稽古はこれまで経験したことがない。思いの通り身体が反応し、意図したとおりの結果と成長が感じられる。
まあ小鬼を殺し続けるのはさほど愉快な事ではないがな。手応えが気持ち悪い。
皮の防具の上から打撃を加えても、鬼どもは大げさに痛がるようになった。一つ一つの突きや蹴りが、自分にも分からぬうちに力をつけているらしい。
最後の三本鬼に左右から蹴りを旋回させて打ち込み、よろけたところに踏み込んで大きく正拳突きを加えた。
.....壁まで吹っ飛んでいったが、弱っていたせいだろう。コイツも消えて全ての鬼が消え去った。
「十松先生、今になってようやく先生の言葉が体得出来申した。ワシは馬鹿じゃしお許し下せえ。」
何となく腰に手を当て空の方向を見上げる。
モチロンそこには岩しかない訳だが、実に気分はいい。
見渡す限りに小鬼の装備が転がっている。これは壮観だな。
大ぶりの剣を背負っていた奴がいたので、これを頂き背中に担ぐ。興味本位に籠手を拾ってはめてみると、意外にも伸びてワシの手にも丁度良くなった。
防具も体に合わせ伸縮するものらしい。一番見た目の良さそうな三本鬼の防具をはがし、それを体に着こむ。
「まるでワシが鬼になったようじゃ。」
爽快な気分だがさすがに疲れが出たので、再度結界で休憩を取ることにした。今回は少し長めにとってもいいだろう。
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アタシは今あり得ないほどデタラメな光景を目の当たりにした。
弥助が段状窟に入ってもう7日、清水や駿府の浅間神社を行ったり来たりしながら中の様子を伺っていたが、コイツはこれ迄の探索者とは全く違うアプローチをし始めたのだ。
驚くべきことにコイツはこの状況を利用して、自らの鍛錬を始めた。
これ迄の探索者は結界を使って、小鬼たちの数を減らすことを優先していた。コイツは恐らくこの先を考え、自身のレベルアップを優先したのだ。
その方法も驚くべきモノだ。小鬼を使ったリアル鬼ごっこだ。
始めた時点ではかなり危なっかしい状態だったが、回を重ねるにつれ小鬼たちを吹っ飛ばすようになった。明らかに全体を見渡す視点も身につけている。
そしてとうとう素手で小鬼退治を始めるようになった。
........なんてデタラメな。坂田金時でもそこまでやってないわよ。
アタシはもう確信している。この男は最強の帰還者として地上に戻ってくるだろう。
そしてまた気づいた。コイツが他人の複製ではなく、自分の考えで新たな技を身につけている事に。
洞窟内の魔素は神経の発達を促進する効果があるが、当然ながらそれは身体能力だけでなく、頭脳の成長にも効果を発揮する可能性はある。
「どんな男になって出てくるだろうね。」
場合によっては危険すぎる事態が起こるかもしれない。
アタシはますます此処から目が離せなくなった。