攻略開始!
ご自宅での連休、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
なかなか面倒なウイルスですが、ネットで拝見している限り中国よりも日本は前向きと思います。
心静かにお好きな本でも読み、心豊かにお過ごしください。
弥助くんはいよいよダンジョン攻略へ向かいます。(*´ω`)
ダンジョン編は一人称主体でお楽しみください。
ワシはサクヤに....この得体の知れん神だか幽霊だかに散々あざけり罵られ、再び鬼の洞窟へ戻っていく。
渋々松明を拾い上げ思う。なんでこうなったんじゃ?と。
確かに強くなるためなら命ナゾ惜しくない。
剣の修行と思えばこそ、厳しい道場のしきたりや稽古にも耐えてきた。
そんな事なら我慢できるんじゃ。
けどいきなり鬼じゃぞ?
江戸の道場にも『鬼何とか』いう二つ名の奴は沢山おったし、ワシ自身も『閻魔の弥助』言われとった。
でもあれミンナ人間だろ。本物は怖いわ!めっちゃ怖いわ!
もう腹減ったし....。
何ぞ腹に入れんと鬼にやられる前に死んでしまう。最後に何ぞ食うたんは昨日の昼じゃったか....。
仕方ない。洞窟入って食いモンあるとこまで急ごう。
あの女神モドキがワシを騙しとるんじゃなければ、食いモンは手に入るだろ。
ここまで手の込んだことしてワシを騙しても、アイツにも得はなかろうし。
松明を手に洞窟の中へビクビクしながら進む。あー怖いわ、ホント怖いわ。
洞窟は横幅が5間(約9m)ほどもある大きなもの。松明の明かりも照らしきれぬ暗がりから、何か飛び出してきても不思議はない。
またしても『ギャギャギャギャ!』ちう声と共に、鬼が棒持ってわらわら出てくる。
「アイツは小鬼言うたか。確かに落ち着いて見れば、随分とちっこいヤツらじゃ。」
サクヤが言ってた通り、コイツらの背丈は5尺(約150cm)にも満たぬ。
「よし、覚悟決めていくか!ここでやられればワシもそれまでの男っちゅう事じゃ。」
松明を床にそうっと下し、太刀をソロリと抜き放つ。
途端に4匹おる小鬼たちの真ん中の2匹が、棒を振り上げワシに襲い掛かる。
「何じゃ、遅いの。」
ワシはがら空きの胴を打ち斬り、ヤツらの後ろへとすっ飛ぶ。
「グエ!ギャギャ!」
すぐに態勢を整え正眼に構えるが、今しがた撃ったヤツらは顔をしかめるばかりで倒れてはいない。
脇の2匹が間髪入れず棒を振り上げるが、右手のヤツに狙いを絞り、体を開いて籠手を襲う。
「ガガッ!ギャギャギャ!」
「これも効かんか....。ええ防具付けとるの。」
小鬼達の鎧は革製のようだが、中々丈夫で打撃を防いでる。籠手と胴回りをしっかりと固め、頭はむき出しのままだ。
「小鬼とはいえ...体も丈夫そうじゃ。頭を狙うしかないの。」
今度は今撃たなかった3匹がとびかかって来た。
「お面ちょうだい!」
左の2匹の間を吹っ飛び、渾身の力で面を取る。人にやったら命もなかろう程にぶっ叩いた。これは効いたらしい。
ぎゃあとも言わずに小鬼は倒れ込む。驚いたことに倒れた後は武具を残して体が消え去った。
「ハテこれは不思議。幻術か何かじゃろか?」
残りの2匹は何やらギューギュー言っとったが、覚悟を決めたか一緒にかかって来た。
「やはり遅い。」
試しに一合、棒の打撃を受けてみる。右を体さばきでかわし、左が撃ってくるところをがしりと受けてはじき返した。
更に右が向き直ったところに面へ強打、左が後ろへ下がって踏ん張った瞬間に頭を襲う。
モノも言わずにぶっ倒れる2匹。やはり同じように体は消え失せ、防具と武器が地面に残る。
「打撃はさすが鬼じゃ。人間よりもかなり重い。」
それでも師匠から見れば少し軽いか。十松師匠の打撃は子供の頃ずいぶんと堪えたからの。
打撃を受け止めた太刀は、かなり毀れてしまっている。普段から刃こぼれなどせぬように、刃をつぶした太刀を愛用していたが、さすがに金棒での打撃を喰らえば、薄い太刀ではひとたまりもない。
「コイツらの武器を使うかい。」
サクヤもそんな事言っとった。
見れば鬼らしく金棒のようなものを使っている。御伽草子に見るようなトゲトゲはないものの、赤んぼの腕ほどもある3尺3寸ばかりのまっすぐな棒だった。
「コイツらには少々重かったろう。じゃから振り回すとあれほどに重心を失っとったのか。」
まずい戦い方だがこちらにとっては助かるというもの。これが分かった以上、ヤツらに一度振らせてから、重心を崩したところを撃ちこんでいけばいい。
ワシは金棒を竹刀よろしく片手で持ち、上段から振り下ろしてみる。
「十分行けるな。ワシの持ってた得物よりはちいっとばかし重いが。」
練習用の鉛入り竹刀みたいなもんだ。振ってるうちにも鍛錬になるはず。
この後は小鬼どもを次々撃ち倒す、順調な進撃が続く。
随分と数は出てきよるが、一度に出てくるのは多くて5匹ほどだ。
何匹来ようが相手にブンと振らせて、つんのめったところをバシリと撃ちこむ。
ブンと振ったらバシリバシリ。簡単なお仕事よ。
「コイツらもまとめて出てくればちっとは手こずるものを。何でバラバラに出てくるんか。」
いや、言うんじゃなかった。
突如、洞窟を揺らす地響きが湧き上がる。
その地響きと共に奥から戦の進撃の如く、50匹はおるかという小鬼が群れてかけてくる。
「わっわっ何じゃ?何じゃ?」
どこかに身をかわす場所がないものかと見れば、少し先に左へ進む小道があった。
「結界か!」
ワシャ迷わず群れに向けて突っ込み、左端の数匹に打撃を加える。
「うおりゃああ!」
後から殺到する群れに押し戻されるが、くるりと体を廻して小道へと倒れ込んだ。
素早く体をひねって小鬼の群れを見ると、小鬼どもは小道の入り口に立ち尽くし、動こうとはしない。
「ふうう~~っ!!」
そのまま地べたに倒れ込む。危なかった....。
ここが結界と知っていなければ命はなかった。危ない危ない。
しっかしあれか、口に出して言った事は、マコトになってしまうのか?サクヤからはそんな注意はなかったと思うが。
ワシはよろよろと立ち上がり、奥に向かって進んでいく。
すると小奇麗なゴザを敷いた、茶室ほどもある空間に出た。ゴザの上には小机と枕があり、小机の上に蒸籠と水差しが置いてある。
「メシか!メシなのか!」
腹が減りすぎとるワシは、無造作に中から白い饅頭を取り出し、ガツガツと頬張った。
「ふは....ふはい(ウマい)!」
パサパサの饅頭だが噛みしめるほどに甘みを感じる。水差しを手に取って直接口につけ、グビリグビリと水を飲んだ。
後から思えば随分と無防備な事だが、この時は腹が減りすぎとったから仕方ない。
「美味い....。」
腹が膨れると眠くなる。
ワシはそのままゴザに倒れ込み、枕も使わず眠りに落ちた。
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アタシは洞窟脇の空池に水を満たし、洞窟の中を映し出した。
これまでのところ、弥助の戦いぶりには満足している。
一度見ただけでどうやら相手の弱点を見出し、いとも簡単に撃ち倒していくその観察力。
馬鹿じゃないとは感じていたが、結構頭脳的に戦うじゃないの。
素早く武器を交換した事にも感心する。
刀は武士の魂とか言っちゃうサムライに用はない。時代遅れの骨董品は帰還者には相応しくない。
それにしても片手であの金棒振れちゃうとか、どんだけ稽古してきたのよアンタ。
そんなに容易い重さじゃないはず。
『コイツらまとめて出てくれば、ちっとは手こずるものを。』
キター!フラグね?全くいいタイミングで思いつくじゃない?
結界の近く、そろそろ仕掛けが働く位置だ。
「お客さんの要望にはお答えしないとねえ?」
洞窟から地響きが湧き起り、弥助の前方に50匹の小鬼が出現する。
「50匹小鬼ちゃんよ!楽しんでねん♪」
『うおりゃああ!』
ところが弥助は一当たり小鬼にぶつかった後、器用に身を翻して結界内に倒れ込んだ。
「あーあ、上手いことやるわね。コイツの格闘センス侮れないわ。」
探索者を殺すのが目的ではないが、段状窟の製作者としてはあまりにも簡単に突破されれば、それはそれで面白くない。
「むむー、面白くないわ。これじゃアッという間にクリアされちゃいそう。」
まさかそんな事起きぬとは思うが。
そして弥助はどうやら結界内で、また眠ってしまったらしい。
「まだ眠んの?犬猫みたいよねこの男。」
それでも結界の中では理想的な行動パターンだ。結界内は少々の傷も癒してしまう治癒効果も持っている。
また今この男が食べた者は全て魔素を濃厚に含む食料、睡眠の間に吸収され効果は大きくなる。
一刻ほど経ってアタシが退屈し始めたころ、弥助はムクリと起き上がった。
『うん?ハテこれは...。』
何か奇妙に感じているらしい。治癒効果に気が付いたかな?
それから暫く何かを考えこんでいる様子。サッサと出なさいよ。面白くないわね。
『ふん、そうか。やってみるか。』
そう言ったと思うと、弥助は立ち上がって洞窟に向けて歩き出した。
だがその手には何も持っていない。
そうして手を腰に眼を閉じ顔を天井に向け、なにやら念じているような。
「あら、寝ぼけてんのかしら?」
アタシは注意してやろうかとも思ったが...この男は何か思いついたようだ。
少し様子を見よう。
段状窟の中では予想もしない様々な変化が起こる。
それを見るのがアタシには何よりの楽しみなのだ。百年ぶりだしね。
さてここまでキャラ説明を一切してきませんでしたが、仏生寺弥助は実在の人物。
試合記録などもほとんどありませんが、色々な人の残した文章で『当代最強剣士』と書かれています。
時代小説の主人公にもなっており、峰隆一郎さんや津本陽さんの作品が有名ですね。
人生がハッキリしてない分、創作がしやすい(笑)
拙作は既存のものとあまりにも違うので、知らない方はゼヒ知らないままお読みください。m(__)m