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探索者の資格

 弥助たちは山道をサクサク登っていく。まあ女神は浮いているだけだが。

 半日で清水から到達し、夜も寝ずに富士登山に耐える弥助の体力には、サクヤも中々感心させられていた。


木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)ってオメエ、立派な名前だな。」

「知らんのかいアタシほどの女神を。体力はさておき、知識水準にはほとほと呆れるわね。」


 お互い徐々に遠慮が無くなってきたのか、掛け合いのような会話が続く。


「アンタ古事記とか読んだこと....あるわけないか。」


 あったら今頃ここで山には登っていない。無駄な質問であった。


「アタシは富士山の化身として、古くから美女の代表なのよん♪」

「.....見た目で富士山の化身?」


 そこには異論の余地があったが、弥助は疑問符をつけるのみに止める。


「んーまあそれだけじゃないね。アタシが神話では火い放った産褥で出産した事になってるから、火山の鎮撫にうってつけと思われたんじゃない?」


 富士山はつい最近まで幾度も噴火し、恐ろしい被害を引き起こしている。

 山岳信仰が広がるにつれ、神話や密教と結び付けられて今の形に収まったのだ。


「.......何だってそんな事した?見世物か?」


「神話よ神話!ダレが火の中で出産なんかすんのよ!お話よ!浮気を疑われた女がキレてやったって話になってんの!」


 馬鹿も休み休み言って欲しいとサクヤは思う。

 『この火の中で無事出産できれば、女の純潔が証明できるでしょう』できねえし。


「.....そんでも昔の本に書いてあんだろ?」

「分かった。一度だけ説明してやっからよく聞けよ?」


 ヒクつくこめかみを堪えつつ、サクヤは簡単に説明する。


「神話ってのはアタシが自分で作ったわけじゃないし、事実に即したものもあれば全くでたらめなものも多い。女神に関してはデタラメ8割ね。神話時代の女は純潔でなきゃいかんていう考えに相当ねじまげられてるの。意味わかんない。」


 このおかしな神話のせいで、サクヤは貞淑な妻や安産のイメージを付けられている。


「本来アタシはバリバリの武闘派なの。火山を制御する水の神よ。」


「ふーん。」

「『ふーん』じゃねえよ有りがたいと思え!神がチョクで修行の面倒見てくれんだぞオマエ!」


「.....でもさ、サクヤは神なんだから火ィ着けようが何しようが死なんじゃろ?」

「その話は虚構だと言っとろうが....。それにアタシだって元は人間だから。」


「.....うん?」

「そこも知らんか。」

 サクヤは深いため息をつく。


「神話の神のほとんどは元は人間よ。まあ八百万神の中にはそうじゃないのもいっぱいいるけどね。」

 人間の中に突出したものが現れたのだ。

 そして国造りに大きく貢献し、神へと祭られるようになった。


「へー。」

「........。」


 弥助の無関心ぶりに怒りが湧いてくるサクヤ。

 そもそも弥助(コイツ)から振って来た話だったはずだが。


 そして更に日も暮れ真っ暗の山。サクヤは光を身に纏って明かりの代わりになってやる。

「....まだ着かんのか?」

 三刻ほどに及ぶ過酷な登山に、さすがの弥助もボソリと音を上げたその時、頭上の方から唸り声のような低い音が響いた。


「アレよ、もう着くわ。」

 アタシは弥助にそう言って教えてやる。低く響いているのは、洞窟内で反響する風の音だ。


<<<<<<<<<<<<<<<


 翌朝に昼近くになって、弥助は漸く眠りから覚めた。

 昨日は過酷な移動と登山の疲れからか、洞窟の前にたどり着くなり寝てしまったのだ。


 女神が付いているとはいえ、こんな恐ろしげな場所でよく寝れるものである。


 そういえば清水港でケンカがあった後も、弥助が帰ってきてすぐ寝ていたのをサクヤは思いだした。

 体力回復という観点からみても合理的ではある。


「見かけによらず肝が太いね。段状窟(ダンジョン)の前で眠りこけたのはアンタが初めてよ。」

「....そーか?」

「ホメてんじゃないわよ?」


 笑顔になった弥助が再び仏頂面になり、更に腹の虫が鳴ってつぶやいた。


「.....腹が減った。」


 それは無理もない。最後に食べたのは昨日の昼、歩きながら食べた握り飯が最後である。


「段状窟内に食料はあるから。自力でたどり着ければね。」


 恨めしそうにサクヤを見る弥助。しかしこれも修行の一部である。

 既に段状窟(ダンジョン)への挑戦は始まっているのだ。サクヤは続けて段状窟の詳しい説明と注意を与える。


「段状窟はその名の通り、下へ向かって段状に連なる洞窟なの。」


—― それぞれの洞窟はほぼ真直ぐに広がる見通しのいい構造で、道に迷ったりすることはないが、身を隠すことは難しい。

 それぞれの階には化け物が出てくるが、下に行けば行くほどその討伐は難しくなってくる。単独で襲ってくるもの、陣を作ってくるものなど、その行動は様々だ。

 刀では全てを倒すことが難しい。化け物の武器を奪ってひたすら進んでいくしかない。


 各階には幾つかの結界(フリーゾーン)があり、洞窟本線から脇へ伸びている。

 ここには魔物が入って来れず、食べ物の用意もあるので休憩することが可能。


「他にも結界内には色んなお助け情報がある。とにかく時間はいくら使ってもいいから、生きて帰ることを目標にガンバんのね。」

「......そうしよう。」


―― 各階の主は洞窟の一番最後におり、これを倒すことで次の階層への扉が開く。

 攻略した階層には化け物がいなくなるので、何度でも外に出ることは可能。しかし一度外へ出れば1階層から再び攻略しなければならない。


「....出ねえよ。」

「何があるか分からないでしょ?まあなるべく出ない事がおススメだけどね。」


―― 『討伐する』というのは必ずしも息の根を止めるだけではない。自分に従う状態を作り出すこと、例えば『降参』した状態も討伐と見做される。

 最下層の主を討伐した時点で、探索者は帰還者(マレビト)となり、そこに至るまでに巨大な能力が身に付いている。


「大体こんな感じ。何か質問はある?」

「....腹が減った。」


 弥助はそれだけ言うと、抜き身を放ってツカツカと洞窟へ向かった。

 どうやら質問はないようだ。


「ちょっと!アンタ!気を付けなさいよ!全く無防備なんだから。」

 そこら辺のケンカとは違うのだから、もっと注意して進んでほしいとサクヤは訴える。

 探索者ともなれば、代わりはそんな簡単に見つけられないのだ。


 そんなサクヤの思いも知らず、弥助は既に洞窟へ入りその姿は見えなくなる。


 数拍のち。


「.....暗すぎる。見えん。」

 トボトボと弥助が出てきた。


「人の説明最後まで聞かないからよ。松明を準備してから進みなさい。結界の中にも松明の準備があるから、火が燃え尽きそうになったら戻る事。」


「.....説明が抜けたとしか思えんのだが。」

「うるせえな、洞窟火の海にするわよ。」


 松明を手にした弥助が、再び洞窟へチャレンジ。


 そしてまた数拍後。


「うっわああああああ!!!」

 叫び声と共に、弥助が物凄い速さで飛び出してきた。


「何よ今度は?厠行きたい?」

「ハッ....ハッ....ハッ....いや、馬鹿、でたよオニ。」


 弥助は相当走ったらしく、息を切らしながら苦しそうに話す。


「ナニ?」

「いやだから鬼!鬼が出た!」


「.....アンタ人の話聞いてたの?化け物が出るってちゃんと説明したでしょ?」

「でも!鬼が...鬼が出るとは聞いてねぞ!鬼だぞオマエ!」


サクヤは笑い出してしまった。なんとみっともない探索者か。


小鬼(ゴブリン)くらいでそんなビビんないでよ!あんなもんヘタしたら人間の剣士よりも弱いんだから!さっさと退治してらっしゃい!」


 涙目で首を振る弥助が情けな過ぎて笑える。


「最強の男になるんじゃないの?アンタの気持ちはそんなもん?」


 まだ息を荒げてブツブツと何か言っていた弥助だが、呼吸が落ち着くと再び立ち上がった。


「....行く。」

「さっさと行け。」


 『探索者』弥助はまた渋々洞窟へ入って行った。


 世間的に見れば、取り乱して泣き出すような男は情けないと言われるだろう。

 だから探索者たちは恐怖を押し殺し中に入る。しかし数年洞窟に閉じ込められて精神を壊す者も多かった。


 ところが過去に帰還者(マレビト)となった男達は、恐怖を隠さぬものが多かった。


 サクヤは思い起こす。


「坂上田村麻呂とかは、小鬼(ゴブリン)見てチビっていたもんだし、徳川家康なんかは3日3晩、怖がって中に入ろうとしなかったからね。アイツもいい線行くんじゃない?楽しみね。」


 恐怖を知る者こそ恐怖を克服できる。

 神々は長い長い経験から、勇気ある者とはそんなヤツだと知っている。

 

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