~新たな出会い~
高校に入学して初めての友達が出来た。主人公は初めての友達、中山里子と共に、部活の見学へ行くことにした。向かった先は手芸部。顧問の先生も部員の先輩も皆優しくて、一見何の問題もないように見えたが、手芸部は一つだけ、大きな問題を抱えていた。
第二話
高校に入学してから1週間が経った。クラスは完全にグループが出来上がりはじめていた。私は未だに友達になれそうな人が見つからず、今日も教室の隅でひとりでお昼を食べていた。今日も四時限目の授業が終わり、またひとりでお昼か…と、憂鬱な気持ちになりながら、鞄から弁当を取り出した。すると、「森橋さん?」と名前を呼ばれた。顔を上げると、髪が胸くらいの長さまであり、赤い眼鏡が印象的な女子が立っていた。「急にごめんね。私、中山って言います。もし良かったら、一緒にお弁当食べない?」私は一瞬驚き、それと同時に誰かとお昼を一緒に過ごせることが、嬉しくて仕方がなかった。「こちらこそ…!私で良ければ…!!」中山さんはほっとした様に笑い、「良かった~…。」と、言ってくれた。私の前の席が空いていたので、中山さんはその席に座ることにした。「私人見知りで、友達ができるか不安だったんだけど、自分から動かないと、きっと友達はできないと思って…、頑張って森橋さんに声掛けて良かった。」私はその言葉を聞いて、自分は人見知りを言い訳にして、何も行動を起こさず、不満だけは垂れていたことをとても情けなく思った。「私も人見知りで…、でも自分に友達が出来ないことを、無意識に周りのせいにしてた…。中山さんは、ちゃんと行動して、偉いな…。」それを聞いた中山さんは首を横に振り、「私が森橋さんに声を掛けたのは、森橋さんが優しそうに見えたからだよ。多分声を掛けたら一緒にお弁当食べてくれると思ったから。むしろ森橋さんが、既に誰かと一緒に居たら、私は今日もひとりだったかも…。」中山さんは、少し笑った。「そう言って貰えると助かる。ひとりを貫いて良かった。」私達は一緒に笑った。
放課後、中山さんと途中まで一緒に帰ることにした。「森橋さんは、部活入ろうと思ってる?」「入りたいとは思ってるんだけど、まだどこに入ろうか迷ってるんだ~…。」「森橋さんがもし良かったら、今度一緒に部活の見学行ってみない?ちょうど明日、手芸部の部活、見学に行きたいなと思ってて…。」「私も行ってみたい!是非、明日一緒に行こう!」「じゃあ決まりだね!楽しみ!」「うん!」中山さんのお陰で、その日の帰り道はあっという間だった。寝る前は高校へ入学して、初めて学校へ行くことが楽しみになった。次の日、今日も中山さんとお昼を食べることになった。「もし森橋さんが気になる部活があったら私も付き合うから、遠慮しないで言ってね。」「ありがとう!実はね…、茶道部が、少し気になってるんだ。」「そうなの!じゃあ、今度茶道部も行ってみよう。私も気になる!」「ありがとう!」中山さんは本当に優しくて、私には勿体ない人だと思った。そして放課後、中山さんと手芸部に見学へ行くことにした。まだ慣れない校舎を歩きながら、無事に手芸部の部室へ辿り着くことが出来た。教室のドアは閉まっていた。少し緊張しながらドアを開いた。教室には、眼鏡を掛けて後ろで髪をひとつに縛った先生らしき女の人と、部員らしき女子生徒が4人で集まり話していた。「あら!もしかして見学?」先生らしき人が声を掛けてくれた。「はい!2人で見学に来ました。」中山さんが返事をした。「私はここの顧問で、宮里って言います。ここは、名前の通り手芸をするだけの地味な内容ではあるんだけど、皆仲良しだし、マイペースに活動してるから、緊張せずに楽しんでね。」宮里先生はニコッと笑い、分かりやすく説明してくれた。「ありがとうございます、よろしくお願いします!」私も中山さんに続き、よろしくお願いしますと返事をした。「この子がここの部長ね。」「佐倉と言います、今日はよろしくね。」髪はセミロング程の長さで綺麗な黒髪、涼やかな目元が印象的だった。私と中山さんも、よろしくお願いしますと返した。その後、他の部員の3人も、軽く自己紹介をしてくれた。私と中山さんも、軽く自己紹介をした。全員の自己紹介を終え、ついに作業かと思ってたら、ここで意外な事実が発覚した。宮里先生が、何故か申し訳なさそうな表情をしながら口を開いた。「ところでね…、実は2人に伝えないといけないことがあるんだ。聞いてくれる?」私と中山さんはなんの事を言っているのか全く分からなかったが、とりあえず、はいと答えた。「実は最近この学校も、部活が増えてね…、手芸部に入ってくれる子が少なくなってきたの。それで今、部員がここに居る4人だけなのね。それでも普通に活動ができるなら全然大丈夫なんだけど…、この前、部員が6人を満たして居ない部は、同好会扱い、最悪の場合廃部になることが決定してしまったの。」私と中山さんは入学して間もないので、そのことを全く知らなかった。「そ…、そうなんですか…。」中山さんが困惑しながらも口を開いた。宮里先生が話を続けた。「もし中山さんと森橋さんが入部してくれたら、このまま活動を続けられると思う。ただその場合でも、もしかすると同好会扱いになっちゃうかもしれない。驚かせちゃうと悪いから、先に伝えておくね。」「わ…、分かりました…!」急に伝えられた事実に少し混乱したが、先に教えて貰えて良かったと思う。中山さんも、分かりましたと返事をした。宮里先生の話が終わり、佐倉さんが口を開いた。「じゃあ、先生の話も終わった事だし、早速作業してもらおっかな!」「はい!」私達は同時に答えた。手芸部の見学は終始和やかな雰囲気だった。きっと先生含めその場に居た全員が、波長が合うタイプが揃っているのだと感じた。手芸をする機会があまりなかった私は、最初は見様見真似でついて行くのに精一杯だったが、徐々に感覚を掴むことが出来、楽しく作業することができた。中山さんも楽しそうだった。見学も終わり、その日の帰りも中山さんと帰ることになった。話題はもちろん手芸部のことだった。最初に口を開いたのは中山さんだった。「先生が最初に言ってた話…、私達がもし入部しなかったら、手芸部廃部になっちゃうのかな…。」私も中山さんも、見学を楽しみつつもその話が頭にずっと残っていた。「先生も部員の先輩達も皆良い人だったし、廃部になんて、なって欲しくないよね…。」「うん…。見学楽しかったし、尚更悲しいな…。」少しの沈黙の後、中山さんは意を決した様に言った。「私決めた!手芸部に入る。作業も楽しかったし、人間関係も良いから、きっと卒業まで続けられると思うし。うん、決めた!」中山さんは意志を固めた様だった。「うん!良いと思う!私も、手芸部に入ろうかな。」それを聞いた中山さんの返事は、意外なものだった。「森橋さん。もし私に気を遣ってるなら、全然気にしないで!森橋さんは、茶道部が気になってたよね?高校生活一度きりだし、森橋さんが入りたいところに入った方がいいよ!それに、まだ新しい人が入る可能性も、全然あるんだし!」中山さんは、私が茶道部が気になっていることを覚えていてくれた。「中山さんは、本当に優しいね…。ありがとう、明日、茶道部見学に行ってくるね!」「うん!」中山さんはニコッと笑った。私はずっと言いたかったことを言うことにした。「この流れで急なんだけど…、もし良かったら、今日から下の名前で呼んでもいい?」「もちろん!里子って呼んで!私も遥って呼んでいい?」「うん!!」その日の帰りもあっという間のものだった。
次の日、放課後里子は早速手芸部へ、私は茶道部へ見学へ行くことにした。茶道部の部室へ向かう途中、宮里先生が男の先生と何かを話しているのが見えた。「今月中に6人集まらなかったら、手芸部は、やっぱり廃部になってしまうかもしれないですね…。」「やっぱり…、そうですか…。」私は歩きながら、そんな会話を聞いてしまった。もし今月入部するのが里子だけだったら、手芸部は廃部が決定してしまうようだった。里子は昨日気にしなくてもいいと言ってくれたけど、一度見学に行った身としても、どうしても気になる。今日茶道部の見学に行ってあまり楽しめなかったら、私も手芸部に入ろう、そう決心した。そんな事を考えながら歩いていると、いつの間にか茶道部の部室の前に来ていた。1人で教室へ入るのは少し緊張するが、軽く深呼吸をし、教室のドアを開いた。茶道部の部室は畳が敷いてあり、所謂和室だった。「あ!もしかして見学ですか?」「は、はい…!」背が高く、黒髪で、くっきりとした二重の、女子に人気のありそうな雰囲気の男の人が、私に気づいて声を掛けた。「俺、部長の村西って言います。今日は楽しんでいってね。」村西さんはニコッと笑った。「はい!よろしくお願いします。」村西さんと話していた他の部員の人も、自己紹介をしてくれた。全員が揃っているのかは分からないが、見る限りでは8人居るようだった。男子が村西さんを含め3人、残りの5人は女子だった。茶道部も手芸部と同じく皆穏やかで、優しそうな人達が集まっていた。私も軽く自己紹介を済ませた。すると、後ろのドアが開いた。入ってきたのは黒髪のパーマで眼鏡を掛けている、割と年配の女の人だった。その人は私に気づいたようだった。「あら、もしかして見学?職員会議で来るのが遅くなっちゃってごめんなさいね。私、茶道部の顧問で、相田っていうの。よろしくね~。」「はい!森橋と言います、よろしくお願いします。」「森橋さんね。茶道は奥が深いし、皆で抹茶を飲んだり和菓子を食べる時間も楽しいから、きっと気に入ってもらえると思うわ。楽しんでね。」「はい!」相田先生は穏やかで、見るからに優しそうな先生だ。こんな人が顧問なら、落ち着くだろうなと思った。「じゃあ、早速始めていきましょ~。」相田先生の言葉で茶道の準備が始まった。茶道部での活動も、終始和やかに行われた。お茶のたて方から、村西さんを初めとした部員の先輩方が丁寧に教えてくれた。抹茶は苦いイメージがあったが、飲んでみると美味しくて、家でも飲めたら良いなとすら感じる程だった。皆で輪になり抹茶を飲みながら和菓子を食べ、雑談する時間も面白かった。2時間の活動時間も一瞬だった。帰りは、久しぶりにひとりで帰った。昨日の手芸部も楽しかったが、個人的には今日の茶道部の方が楽しめた気がした。手芸部のことは気掛かりだが、茶道部に入りたい気持ちが強くなったのも確かだった。でもやっぱり、手芸部が廃部になるのは残念だ。どうにか手芸部を存続することは出来ないだろうか。すると突然、聞き覚えのある鈴の音が近くから聞こてきた。そうだ…、あの人に相談してみようかな。私は急遽道草をすることにした。