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9、スカウト

「やっほーお待たせ〜、中へどうぞ〜」


ニッコリ笑って中から出てきたその女性の顔は、どこかで見覚えがある。

まさに馬のしっぽのような、見事な赤毛のポニーテール。

局員の制服ではなく、ウエスタンスタイルの私服に見覚えのある腕章。

部屋に入るとその奥の扉を開き、その先にある応接室へ通された。


「どうぞどうぞお座りになってくださ〜い。

先日と合わせて、お世話になりました−。

あっ、甘いのはお好き?ちょうど今朝早起きして山ほどドーナツ作ったのよ。

持ってきたの食べます?

だーいじょうぶよ〜毒なんか入ってないし。これは御礼。」


「えーと、先日っての、まさかあのドロボウをエンドレスで追いかけてた人?」


「そうでーす!おかげさまで盗まれた荷物取り戻しましたー。

私の名前はキャミー・ウイスコン。あなたは、えーと、サトミ・ブラッドリー?

かーっこいー名前。

まあ座って、コーヒー入れるから。あ、コーヒー大丈夫?」


キャミーはサトミのカードを見て、名前を確かめる。

そしておろす予定の金と一緒にテーブルの上に置いた。


「えーっと、砂糖とミルクあれば。っていうか、俺初対面なんだけど。」


「あら、あたしこないだ会ってるし、2度目よ。

ミルクはポーションだから、好きなだけ入れてね。

郵便局は、物資輸送も行ってまーす!」


いや、2度目にしてもこれは馴れ馴れし過ぎるだろ。

とか、言いたくなるが彼女はお構いなしだ。

まあ、目の前にドサッと置かれたドーナツもうまそうだし、一個食べてみる。


うん、サクサク美味い。

ドーナツなんて久しぶりだ。

こう言うの食べると母さん思い出す。

と言うか、やっぱ子供扱いだなーと思うけど、美味いから気にしない。


彼女は湧いた湯で、丁寧にコーヒーを入れて横に差し出す。

まあ、ご馳走してくれるならそれもいい。

ふかふかのソファーにボスッと座った。


カップギリギリまでポーション5個入れて、あふれそうになったらすすりながら、角砂糖6個入れた。

ポーションは不味いけど仕方ない、我慢する。

すっかり白くなったコーヒーを満足そうにかき回し、カップを持った。


「んー、美味い」


彼女はなんだか呆気にとられてそれを見ている。

ハッと我に返って、向かいの椅子に腰掛けた。


「ね、軍にいたの?今、お仕事の当てあります?

ね、ね、郵便局で働いてみない?」


身を乗り出して、なんだかキラキラした眼でサトミを見つめる

なんだ、勧誘か……と、マジでいやな顔してドーナツをもう一個と手を伸ばした。


「俺、帰ってきたばっかだし、金はあるし、しばらくのんびりしたいんだよ。

だから全部ノー。」


確かに、サトミの通帳は年齢からは考えられない、生涯遊んでおつりが来るほどの数字の金額が入っている。

それだけ、軍でもヤバイ位置にいたのかもしれない。

まあ、それはそれ、今はとにかく……


「うーんでもさ、まだ15?16?でしょ?その年でご隠居さんは早くない?

ね?考えてみてよ!

郵便をお届けしたときのお客様の嬉しそうな顔、ありがとうなんて言われたらあなたの幸せも倍増!

今も郵便物を待ってる人のために、危険を乗り越えお届けする喜び!

さあ、あなたもこの喜び体験しませんか?!」


「ノー、サンキュー。じゃ、ごちそうさま。」


サトミは激甘のコーヒー飲み干して、金とカードを取ってジャケットの内ポケットに入れると部屋を出ようとする。

ノブに手をかけた時、キャミーが声を上げた。


「まあまあまあ!返事は急いでるけど急がなくてもいいから!


ね、あなた激強いでしょ?そう言う人、なかなかシラフでいないのよ。

帰ってくると、だいたいクスリやったり心に病気抱えちゃってるわけ。

でもあなた、自然体じゃない?

自覚無いだろうけど、そう言う人ってめっちゃ貴重なのよ!


ポストアタッカーの扱う郵便は貴重品が多いの。

そして配達業務は不特定多数が相手。

配達は単独行動、自分で危険は回避するしか無い、その上ばったり誰に会うかわからない。

怖いってみんな言うけど、そりゃそうよ。

気持ちはわかる。物騒なところで貴重品持って届けるのって、タダでさえ怖いもの。


ポストアタッカー、今年最悪よ、二人死んでるの。人手不足が深刻なの。

私、窓口要員なのに、配達に回るしか無い。

でも、舐められちゃう。


ね!お願い!お願いします!ポストアタッカーになって!」


振り返ると、キャミーは必死でサトミに手を合わせ頭を下げていた。


キャミーがスカウトに手作りドーナツ用意したのは、サトミの子供の部分を揺り動かそうという確信犯です。

なんでもいいから来て欲しい。

一人暮らし、15才、きっと寂しい、母の味、ドーナッツ!

ってわけです。


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