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56、通常業務へ


4人、荒野を見回す。


ダンクが、銃に縛って持ってきたゴワゴワの3枚の赤い布をガイドに渡した。

それは、岩山のてっぺんにあった死んだポストアタッカーの腕章。

ボロボロの一枚には、裏にリードのイニシャルが書いてある。


「そうか…………やっと、終わったな。

他の2枚はデリーに返そう。」


「ああ、やっと。」


「やっと、リードの敵が取れた。」


「ああ、そうだな。」


ガイドが、どこか居心地が悪そうに顔を背けるサトミに手を差し出した。


「サトミ・ブラッドリー、お前が来てくれて良かった。」


サトミが、少し驚いたようにガイドの顔を見る。

唇をかんで、顔を逸らし、刀のベルトを掴んだ。



「ごめん…………、俺、怖いだろ?

無理しなくていいんだ。

俺、ずっと、最初の頃、普通の奴らに怖がられてた。

当たり前だよな、こんな刀でバンバン人切っていくんだから。

銃よりたちが悪いってさ、最初はみんな怖くて近寄らない。

それが当たり前だと思う。


俺…………普通じゃないだろ?


俺……ポストアタッカーで、いていいのかな?」



サトミが、今まで見せた事のない気弱な顔でうつむく。

ハッとして、他の3人が顔を見合わせた。

きっと、自分達の顔に表れていたに違いないと。

ダンクが、ずかずか前に出て、サトミの右手をガッと手に取った。


「バーカ、何心配してんだよ。」


そして、ガイドと握手させてその手を包みこむ。


「当たり前だろ?お前がいなくちゃこの事件は終わらなかった。

お前が不本意だったのは知ってる。

俺たち、みんなお前に頼るしかなかった、お前に感謝してるんだ。」


リッターが、その手の上に手を置いた。


「お前の口癖覚えたぞ。クソ野郎だ。」


頬にでっかいガーゼ貼った顔で、ニイッと笑って、いててと顔を歪める。


「ありがとう。」


サトミが涙を浮かべてみんなに笑って言うと、みんなが手を離し、そしてガイドがでっかい身体でサトミの身体をギュッと抱いて何度も背中を叩いた。


「よし!帰ろう!」


そう言うガイドは、まるでお父さんのようだ。

サトミの頭をぐりぐり撫でると、リッターもサトミの頭をぐりぐり撫でて、ダンクが仕上げに髪をぐしゃぐしゃにして行く。


みんな、本当は怖いはずだ。

本当は……怖い、はずなんだ。


ありがとう

みんな…………





その後……



エクスプレスは類似犯の懸念もあるため、その週までデリー行きは2人態勢にして、翌週から通常業務の1人態勢に戻す事にした。

慎重なガイドと、キャミー、局長の話し合いの結果だ。


サトミはあのあとエジソンが雪雷にスタンガンを取り付けてはくれたが、まだ使った事がない。

2人態勢だと、襲ってくる奴は皆無だ。


「お前とデリー行くの、今日までだなー。」


ダンクが1度目の休憩でぼやく。

もうすぐ岩山と岩棚の間を通るが、まだ少し怖いらしい。


「どうも、やっぱあの道通るの怖いんだわ。」


「仕方ねえさ、人が死んだんだから。」


その辺どうもわからないが、人が死んだ場所は怖いらしい。

そうなると森過ぎた道は、俺が殺しまくったから場所が悪かったなあと思う。

まあ、また主要道路のこちらの道を通る事になったのは、不幸中の幸いか。


ふと、サトミが先の方を仰ぐ。

じっと見る先に、何かあるのかとダンクも見る。


「どったの?」


「いや、気のせいだろう。気にすんな。」


「気になるよ!またなんかいるのかよ!」


「いねえよ!行こうぜ!」


「やだよ!お前先に行けよ!」


「るっせえな〜、先輩がなんで怖がりなんだよ。」


「お前が気になる事言うからだろ!こっ、怖くなんかないもん!」


ダンクがぶうっとふくれて、サトミがブッと吹き出す。

ひとしきり笑ったあと、結局意地張ってダンクが前を走り出した。


「あ、そーだ。今日終わったあと、リッターんちに行こうぜ。

セシリーちゃんがバター辞めるから、備蓄大放出するんだってさ。

で今夜、超高カロリー飯作って待ってるって。

俺とリッターじゃ〜胃薬片手でもきっと食い切れねえ。明日は飯食えねえかも。」


「へえ、バターっての辞めるのか、何で?」


「俺がいつまでもお題クリアーできねえだろ?待つのめんどくせえから痩せるってさ。

お兄ちゃんが〜付き合うの〜許してくんないしーって、リッターのせいにしてんの。

かっわいいよなぁああああーーーーでへへへへへー」


「わぁーーーーーなんかーーイラッとした〜〜〜〜

何だこれ、初めての感覚だーーー!!すっげえ不快!」


「切るなよ〜!帰り襲ってくんなよ〜!

俺、結婚前で可愛そーとか死んでも死にきれねえからー!」


「バーカ、誰が切るかよっての!今夜楽しみだなー、バターっての存在忘れてた。」


「でよ!デリー行ったら買い物付き合え!セシリーちゃんにプレゼント買うんだ。

可愛い〜、ティーカップ買って来いってさ。」


「ティーカップ?コップに種類があるのか?」


「あるんだよ!おめーは何も知らんなー。

まじ、ティーカップで良かったわ〜、最初パンツ買ってこい言われてよお〜

女の下着は無理って、俺土下座して変えて貰ったんだわ。

はぁ、セシリーちゃん、マジ鬼畜だから身が持たねえ〜。」


「ふうん……」


女のパンツか、パンツに女物とかあるのか。

俺は知らない事が多すぎる。


本当にうれしそうなダンクの横顔見ながら、サトミが空を見る。

恋とか愛とか、俺には縁がない。

そのうちって言ってるうちに、老いて殺られて終わるのかもしれない。


でも、そう言う人生、つまらねえ。

マジ、つっまんねえよなー……


だろ?ジンよ。



サトミが目を閉じてつぶやく。


あいつはあそこでしか生きられないと言ったけど、俺はどうなんだろう。

俺は、刀を降ろすときが来るのだろうか。

軍を辞めても、片時も刀を放せない自分に驚いた。

殺しを辞めたと言いながら、何も変えられない自分がいる。


目を開く。空は今日も綺麗な青だ。

青空を、雲が流れる。


俺も恋ってやつしたら変われるのかなあ。

俺が好きになるような女って、どんな奴だろう……

恋って、どんなモノか想像も付かない。


ちょっと、楽しみになってきた。


ベンが、軽快にスピードを上げる。

負けじとダンクの馬エリザベスが前に出た。


2人は競うように、荒野をデリーに向けて一直線に走り去っていった。

ポストアタッカー狩り、あと一回で終了です。

長かったような、短かったような。

遠足は、帰るまでが遠足。

きちんと終わってこそ小説書きの使命。

それではあと1回、よろしくお付き合い下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リードの腕章、取り戻せて良かったなぁ ガイド、リッター、ダンク、事件解決して良かったなぁ サトミ、いい仲間持って良かったなぁ
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