55、元隊長
森の付近とサトミ達のいる場所の中間点に1台ずつトラックが止まり、サトミの元へ軽装甲車が走ってくる。
トラックからは目出し帽で顔を隠した一軍が降りてきて、遺体と負傷者と武器類を手早く回収しはじめた。
サトミが足を止め見ていると、軽装甲車が前に停まり、降りてきた若い男が小走りで来て彼の前に立つ。
その男は頬から口元を覆う不気味なフェイスマスクを付けていて、顔は見えない。
するとその男は、やや緊張した面持ちで足をそろえ、サトミに敬礼した。
「元隊長、お久しぶりです、あとの処理はお任せ下さい。」
サトミが渋い顔でその男を見据える。
「ボスの差し金か」
「申し訳ありません。終わるまで見てろと。」
「どうせ中継してんだろ、さっきあの辺ドローンが飛んでた。
ぶち壊さなかったのは、あのドローンが3万ドルの高級品だからだと言っておけ。
悪趣味野郎が、こんな事に無駄金使うなと伝えろ。」
「ハハ……なんでもお見通しで…………」
サトミが顔を背け、いきなり彼に向けて刀を抜いて振り下ろす。
ガイド達が慌てて駆け寄ろうとして足を止めた。
「二度と姿を見せるな。貴様らのその不気味なマスクなど見たくも無い。」
その青年のマスクがはらりと二つに分かれ、爽やかににっこり笑う青年の顔が現れる。
その顔は、武器商人の殺しの現場にいた顔だ。
彼はジンの部下の一人だった。
「怖いなあ。さすが、腕は落ちていらっしゃらないようで安心致しました。」
「黙れ、さっさと撤退しろ。」
「了解であります!あ……そうだ……
元隊長、えーと、あのう……今度休暇に遊びに来ていいですか?
ジンが、驚くほど美味い物があったと……。
パ……パフェとか言うらしいんですが〜〜。」
にっこり笑った青年は、緊張感があるのか無いのかわからない。
言いにくそうに、頬を赤らめてくねくねする。
サトミは刀を背に直し、くるりときびすを返しガイド達の方へ歩き出した。
「好きにしろ。ただし、家には来るな。」
「やったー!それでは失礼します!」
青年は、車に行きかけて戻ってくる。
「わっすれてましたー!これ、連絡付くように持ってて頂きたいのです!
あっ!これ、ボス関係ありません!ジンから要望であります!」
差し出す手に、小型の衛星通信の電話がある。
サトミはあからさまに嫌な顔して、受け取らず背中を見せた。
「あああああああ!!ちょ!お願いします!
俺、ジンに殺されます!お願い!お願いしますよ!隊長ー!じゃなかった、元隊長ーーー!!」
「そんな物持ってたら、位置までボスに筒抜けだ!
ジンの名前出せば俺が受け取ると思ったら大間違いだとボスに言っておけ!」
げえ、やっぱりお見通しか。
やっぱり元隊長は元隊長。
「さっさと帰れ!俺は軍抜けたんだ!もうおまえらとは関係ねえ!
じょーーーーーーだんじゃねえよ!!」
青年は、諦めて敬礼すると戻って行く。
そして車に乗る瞬間、その顔から笑顔が消えて、真顔で銃を撃った。
パン!キンッ!
サトミが雪を右手で鞘から少し抜いて弾いた。
同時に、左手首のスナップでナイフを投げる。
青年が顔を背け、顔面ギリギリ、ナイフを銃で防いだ。
「ひ……ええ……あっぶなかった。
ハハ……後ろ向きなのに正確すぎるっすよ、あなたは……やっぱり、俺たちの隊長だ。
失礼致しました!それでは撤退します!!」
「デッド!」
車に乗りかけた青年が振り返る。
「二度と人を試しで撃つな」
サトミの厳しい表情での譴責に、青年の顔色が変わる。
シュンとしてうつむくと、つぶやくように謝罪した。
「…………はい、……はい、申し訳ありません、サトミ。
もう二度としません。どうか、許して下さい。」
「じゃあな!」
プイと離れていくサトミに、青年は息を飲むように敬礼し続ける。
サトミは重苦しい雰囲気に、ため息を漏らしこう返答するしかなかった。
「ああ、もう。くそったれ!……また会おう。」
青年の顔が、パッと明るくなる。
「は!はい!!ありがとうございます!!それでは失礼します!」
青年が一転して明るい顔で、元の笑い顔になると敬礼して車に乗り、戻りながらトラックに指示する。
部隊はさっさとすべてを、岩山の上も、サトミが落とした懐紙一枚残さず回収して、トラックの前に一列で整列すると、サトミに向けて敬礼した。
「「 元隊長!ありがとうございました! 」」
その声に、サトミも振り返り、彼らに敬礼して返す。
そこには、何か言いようのない空気が漂い、最後の別れに目出し帽を脱いで頭を下げる奴までいた。
彼らはザッと車に乗り込むと、その車はデリー側へ向かう。
トラックの後ろのドアを開け、サトミにいつまでも手を振っている。
やがてドアが閉まり、トラックはどんどん小さくなっていった。
デリーの隣の市には駐屯地があるので、一旦そこに持っていくのだろう。
生存者が、果たして治療されるのかはわからない。
サトミは意図してできるだけ即死を避けたのだが、彼らに関わったのが不運としか言えなかった。
あとには血の跡だけが、道ばたに点々と残る。
すでにたどり着いていたダンクが、エリザベスを降りると銃2丁を重そうに降ろした。
「なんかあいつら、森に落ちた死体も全部持ってったぞ。
何かすげえ、行動早いの。
俺、銃勝手に貰っちゃったけど、返せって言われるかなあ。」
「慰謝料で貰っとけばいいさ。
もうあいつら戻らねえよ。帰ろうぜ。」
「あ、ああ・・」
サトミはダンクから目をそらすように、背中を向ける。
ダンクも、どこか気持ちが浮いたように彼に近づく事が出来なかった。
「ポリスはどうする?」
「さあな、現場検証だけするのかな。恐らく軍で処理すると連絡は行ってるだろうけど。」
「それにしても…………」
リッターが、ため息付いて腕を組んだ。
「サトミ、お前ずいぶん慕われてるんだなあ。
隊長か〜、確かにガキじゃねえよな。
お前ずいぶん背伸びさせられてんじゃねえの?隊長っての、違和感なさ過ぎだろ。
まあ、いきなり撃ってくる部下もどうかと思うけどさ。」
「成り行きで隊長してただけさ。
曲がった奴ばかり集めてあるから、まとめるにはスキルが必要なんだ。」
あいつらの隊長ってのは、ボーッとしてっと真っ先にまずあいつらに殺られる。
でも、自分が辞めて自殺者まで出ているとは知らなかった。
俺がまとめるようになって、隊の成立以来死傷者が最少だとは聞いていた。
それだけ規律が整っていたんだろう。
もしかしたら、自分はあの隊の要だったのかもしれない。
自覚は無かったけど、退役後に隊員が半分まで減ったのは自分にも責任がある。
WDアタックでは、すべてのチームを回った。
あの時、俺に対する甘えを生んだのかもしれない。
だとしたら、規律を乱したのは俺だ。
自立を促すやり方は、一体何だったんだろう。
俺は……俺には……人としての経験が少なすぎる…………
俺は、まだ15年しか生きてないんだ。
もう少し時間が欲しい。
そう、思う。
サトミは、弱冠15才でこの部隊の隊長職をしていました。
彼らは、いわゆる汚れ仕事の部隊です。
その為に集められた人間も、一癖ある奴が多いわけです。
それをまとめるのは、一番強い奴が手っ取り早い。
恐怖で頭を押さえつける、と言う事をボスは意図したわけですが、意外と人使いの上手いサトミは以外な才能を発揮して、規律をそろえる事に成功していました。
つまりは、生徒会長肌な訳です。
辞めるまでは、空気のように、そこにいるのが当たり前だったのに、辞めたとたん規律が乱れて作戦の失敗が続き、ボスはどうしても、サトミとの糸を切りたくないようです。
みんなの片思いは、サトミには迷惑なようです。




