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54、あの世で詫びろ

激しく動揺したエンプティが、懸命にまくし立てる。

サトミがウンザリした顔で吐き捨てた。


「もういい、クソ野郎。自分のしたことをあの世で後悔しろ。」


『 は?その場所からここにいる私に何が出来るというのです?

ハハハハハハ!!何という滑稽な!

そこから1000フィート(約300m)はあります、黒蜜も届きませんよ?ナイフでも投げますか?

ハハハ!何を馬鹿なことを……』



サトミがヘッドホンをぽいと放り投げ、地雷の元に行く。


「お、おい、ちっこいの。危ないからさわるな。」


デリーのポストアタッカーのジェイクが怖々声を上げる。

だが、サトミは何を思ったか、黒蜜の先でコードを短く切ると、そのまま刃の先にポンと地雷を載せて持ち上げた。


「うわあああああ!!!何しやがる!!」


「サトミ!降ろせ!サトミ!」


サトミは黒蜜の先に地雷を置いて、道を外れ岩棚の方へ走り出す。

そして、助走を付けると全身の筋肉をバネにして、岩棚に向けて…………


投げた!!



『    な……なにを・・・・・馬鹿な…………  

     ・・・届くわけ、ない!!』



当たり前だ。届くわけがない、とその場にいた全員が思う。

だが、男の言葉には動揺が見える。


そして、次にサトミはあのエジソンが付けた、スタンガン付きのナイフを取りだし、スイッチを入れて空へ放り投げた。



「 この、クソ野郎 」



ゆっくりと、ナイフが宙で回る。

黒蜜を返し、グッと後ろに引いた。

風を切り裂き、落ちてくるナイフに向けて、全身の力を乗せて見えない速さで振る。


「 消えろ!! 」


カーーーーーーーンン・・・・ッ


まるで満塁ホームランでも打つように、そのナイフは刃が地雷が落ちる軌道へ向いた瞬間、柄の頭を黒蜜の峰に叩かれ地雷に向けて発射した。


地雷とナイフが弾丸のように岩棚に向けて飛び、そして双眼鏡で見ていたエンプティが慌てて車へと走る。

彼がドアへ手をかけたとき、地雷の姿が宙に現れ、そしてそれの正面が彼に向いた瞬間、ナイフがガンッと音を立てて刺さり火花が散った。




バーーーーーーーーーーーンン!!!!




『   ガッ!ザザザ…………シャーーーーーー  』




岩棚に向けて、地雷が爆発する。

白煙が上がり、バラバラと破片が落ちて行く。

ガイド達4人のアゴが、ガクンと落ちた。


「バーカ、お前、2年も俺の横にいて何見てきたんだよ、クソ野郎。

あの世でこいつらに詫びて来やがれ。」


サトミがポケットから懐紙をとりだし、黒蜜を拭く。

背の雪雷の柄を少し倒し、黒蜜を直すと引っ込んでいた部分の鞘がせり出して来る。

それを完全に引き出し、黒蜜が見えなくなるとフックを止めた。


「あー終わった終わった。さて、キャミーに連絡すっか。」


ふと気がつくと、目の前の4人は唖然としている。

ポカンと口開けたままの姿にサトミが怪訝な顔して、ベンの元に歩いて行く。

ベンの鞍にぶら下げたバッグから通信機を取り、衛星通信でロンドのキャミーに連絡して、ポリスの派遣を頼んだ。


『ちょっと!ケガはないの?!ダンクは?!』


「あーないない、俺はいいけど、雇われた奴ら死傷者多数。

俺、何日かポリスにお世話になるかも。

交渉よろしく。」


『ちょっと!コラーーー!!サトミ!待ちなさ・・』


サッと切ると、ピクンと顔を上げて岩棚をみた。


「チッ、生きてやがるか、しぶといなー。クソ野郎、もう帰れ。」


吐き捨てて見ると、みんな大きく息を吸って吐いた。

空気が重い。

また怒られるかと思ったら、ガイドがリッターとデリーの奴らみんなと話し合いをはじめる。


「……ほんじゃ、先にやられて、こいつらが応援に来たでよろしく。

生存者いるみたいだけど、ま、どっちにしてもこいつら俺ら殺しに来たらしいし。

ほとんど切られてるから、新入りのこいつが突っ走ったで。」


「了解、じゃあお前らポリス来るだろうから残れ。俺たちデリー組は荷物全部持っていく。じゃあな。」


口裏合わせて、ガイド達の馬から荷物積み替えジェイクともう一人がロンドへ走る。

3人残され、やがて遠くからダンクがエリザベスに乗ってこちらへ走ってくるのが見えた。

手を振るダンクに、サトミが手を上げる。

全部見ていたダンクの反応が気になった。

が、ダンクは変わらず手を振り返す。少し、ホッとした。


「お前、いったい何者だ?」


ガイドがサトミにぽつりと聞いた。

サトミは、うつむいて目を閉じる。


「すまない、俺は俺のいた隊のことは話せない。

辞めても守秘義務が多いんだ。

辞めるとき3日かけて辞書並みの厚さの書類全部にサインしてきた。

破ると軍への無条件帰還を約束させられてる。

俺はもう、戻りたくない。」


「それで、お前はお前のいた隊の隊長か、少年兵の?」


「いや、俺は隊でも最年少で、軍の各部隊長の中でも最年少だった。

隊長ってのは、ただやらされただけさ。特になんて事はない。」


隊長職が嫌だとか、軍人が嫌だとか、そういうわけじゃない。

最年少でも関係なくチームをまとめる事に苦はなかったし、みんなをコントロールするのも問題はなかった。


でも……ただ命令に従い、理由もなく殺す事に耐えられなくなった…………


今は駄目なんだ。

戻れば心が駄目になる。


でも……それでも、いずれは戻ることになるだろう。

そんな気がする。

もう少し大人になるまで、普通の奴らに囲まれて、本当はこんな荒事しないで済むような仕事がしたい…………


「あれ、政府軍の車じゃねえかな?」


リッターの指差す方、ロンドの隣町方向から、2台の輸送トラックと1台の軽装甲車が走ってくるのが見えた。

このタイミングだ。

恐らくどこかで待機していたに違いない。

予想していた事に、サトミが舌打ち前を歩き出した。

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