53、クソ野郎の言い分(流血有り)
驚くガイドやリッター4人の前で、女が崩れ落ちる。
その手はスイッチを押していたが、なぜか地雷は爆発しなかった。
ガイド達が思わず馬の手綱を引く。
その視線の先には、サトミに向かって撃ち続ける男が、まるで鎖鎌のように操られる黒蜜で胸を貫かれ、血を吹いて倒れる姿があった。
ピュンッ!
日本刀の刃が、鋭く輝きながら宙に舞い上がる。
サトミの操る柄が、うなりをあげて黒蜜のワイヤーを巻き取っていく。
黒蜜は刃に付いた血を飛ばしながら、吸い込まれるように柄に戻っていった。
すべての敵を倒し、サトミが雪を鞘に戻し、片手でベンから鮮やかに飛び降りた。
そして慌てたように、ベンの身体を確認している。
「サトミ…………これ、みんな…………お前が殺った……のか?」
ガイド達が蒼白の顔で馬を止める。
デリー組は恐怖に思わず下がっていた。
森にはまだ距離がある。
だが、その手前に男達が点々と血を吹いて倒れ、戦場のような様相を呈していた。
「ベン!お前弾当たっただろ?!」
慌てるサトミに、ビッグベンは飄々とした顔で見る。
確かにベンには弾が当たったのだ。
男がベンを撃つのを無視して、地雷のコードを切る事を優先した。
手で撫でて、細かく確認する。
毛の流れにあとが残り、いくつも弾が当たったあとがある。
「御主人様は、特別だ」
ベンが何度もうなずきながらサトミに話しかけた。
「お……まえ……当たっても、大丈夫なのか…………
それで、防弾馬着いらないって言ったのか……」
ベンはブルブル鼻を鳴らす。
「すごい御主人様と呼べ。」
すごい御主人様は、確かに普通の馬じゃない。
でも、今はその生まれまで考えるのはやめた。
生きててくれていることが、何よりも万倍うれしい。
「ああ……よかった、ほんと凄いよ〜、御主人様はよ。
すげえ御主人様で良かったよ。」
ホッと息をついて、ガイドを振り返る。
ガイド達はいったい何があったのかわからない様子で、みんな馬を下りてサトミを見ている。
ガイドが、大きく息を吐いてづかづか歩み寄り、サトミの襟首を掴んだ。
「いったい!これはどういう事だ!!」
確かに、ガイド達にはただの殺しの現場に見えるだろう。
どう言えば理解してくれるか、目を閉じた。
タンッ!タタタンッ!
ギィン!キンキンキーーンッ!
突然生きていた一人の男が、血を吐きながらサトミを撃った。
だが、サトミはそれを見もせず黒蜜で弾く。
ガイドが初めて見た銃弾弾きに驚いて、思わず手を離し後ろに引いた。
バシッ!
「ぐっ!」
岩山から、ダンクが再度銃を向けるその男の頭を撃つ。
いきなり突っ伏す男の姿に、4人が岩山を見て、声もなく周囲を再度見回す。
「何だよ……おまえら、何やってんだよ…………
何だってんだ、なんで見もせず弾を弾けるんだよ…………」
デリーのアタッカーが、気味が悪いのか嫌そうな顔でサトミを見る。
「それ……」
4人に、サトミがスッと女の後ろを黒蜜で指す。
そこには、地雷がこちらを向いて据えてあった。
「うわっ!!これ地雷じゃねーか!なんでこんなとこにあるんだよ!!」
「マジか?!!」
みんな驚いて飛び退く。
飛び退くくらいでは、逃げられない距離だ。
死んだ女はリモートスイッチを握りしめているが、その足下に刺さったサトミのナイフがコードを切っていた。
「クソッタレ……マジかよ。
こいつが計画した奴か…………」
ガイドがサトミを見て、女に歩み寄る。
「そうだ、こいつが主犯だ。
だが、今回こいつに手を貸した男がいる。」
サトミが女の頭から血の付いたヘッドマイクをとる。
そして、マイクに語りかけた。
「よう、クソ野郎。元気そうだな。」
ガイド達が、ギョッとして見ていた。
何かを感じたリッターが、サトミに駆け寄る。
「駄目だよ、サトミ!」
しかし、サトミはマイクに手を伸ばすリッターを制した。
『 …………隊長、あんたが俺たちを捨てたからだ 』
ヘッドホンから、男の声が飛び出す。
女はかなり耳をやられていたのだろう、ヘッドホンの音量が最大になっていた。
「隊長?!誰が?サトミが?」
驚くガイド達に、サトミが背を向ける。
そして、あの岩棚を向いた。
「俺は軍を抜けただけだ、お前達とは関係ない。
エンプ、お前は本当に脳ミソかたよったクズだな。」
『 ……フフ……フフフ……クズですか。
あなたに言われるとゾクゾクしますよ。あなたは何も変わってない…………
本当に、見事なものでしたよ。
見ろよ、あんたが殺したのは一般人だ。
あんたが起こしたのは、ただの殺人だ!』
4人が思わず血に染まる道を見る。
だが、サトミは鼻で笑うように告げた。
「俺が辞めてボケたか、お前は忘れているようだな。
お前が殺そうとした俺も一般人だ。」
相手がしばし、沈黙する。
もしかしたら本当に認識していなかった……忘れていたのかもしれない。
「クソ野郎、良く聞け。
光学迷彩は外部流出厳禁だ。
ボスに言っとけ、あんた馬鹿か?とね。貴様もわかっているだろう、俺には無意味だと。
こんな物回収もせず放置されたら迷惑だ。
近くにジンの部隊が来ている、そいつら回収に回させろ。
貴様は信用できない。」
『 ハ?な、何を!私がっ?!この私が信用できないと?!
ハッ!私が信用できなくて、あのジンが信用できるですって?!
私がどれだけあなたの為に働いてきたか、あなたの為にどれだけ……』
信用できないと言われ、激しく動揺している。
クソ野郎と言われながら、サトミにべったりコバンザメだった奴だ。
自分は一番の部下だったことを何より重んじていたのだろう。
だが、サトミはヘッドホンを耳から遠ざけ、ため息交じりにウンザリした顔で顔を背けた。
言い分聞いてやっただけマシじゃね?
って感じ。




