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49、特別な馬

サトミが指示したポイントで別れ、サトミは森の方角へ走り、ダンクは真っ直ぐ岩山へと向かう。

一人になって走りながら、サトミがベンに話しかけた。


「ベンよ!」


走っていたベンが顔を上げて、少しスピードを落とし小走りになった。

首を振って、何だという合図をする。


「ベン、お前は怖いと言わないな。」


「怖い、しらん!」


ブルブル鼻を鳴らし、フンと息を吐いた。


「あははは!しらんか〜!俺とお前は似ているな。

怖い物知らずのいい相棒だ!」


「ふん!御主人様と言え!」


ベンは楽しそうに軽快に走る。

これから戦いに行くと知っているのかわからない。

死ぬかもしれないとは思っていないのだろう。

サトミが前に広がるグレーの曇り空に声を上げる。


「ベンよ!お前との付き合いは短かかったが、俺にとっては長い。

お前は俺の家族だ。

でも、俺はお前まで完全に守ることは出来ないだろう。

俺はこれまで、作戦の完遂のために沢山の馬を見殺しにした。

良く聞け!ビッグベン!


死ぬのがイヤなら、俺を降ろせ。


選ぶのは今だ!


お前には意思を表すすべがある、自由に選ぶ権利がある。」


ベンがスピードを落とす。

そして歩き始め、


そして立ち止まった。


意味がわかったかどうかはわからない。

ベンは頭が良いようで、小さな子供ほどの知能しか無い。

馬は走れなければ、生きる意味の大半を失う。

生き残っても、走れなければ多くが処分される。

ベンはそこまで考えないだろう。


だが、ベンはサトミの相棒だ。

自分の意思を語るなら、それに任せようと思った。

サトミは無言で返事を待つ。

ベンがブルブルと首を振って、そして振り返り顔を上げる。


「ニンジン100本だ!!付き合ってやる!」


「ははっ!1000本とか言えよ!」


「数は100まで。御主人様と呼べ!

御主人様は特別だから!」


「そうか……」


思った通りの返事に、目を閉じる。


そうか……それでいいならそれを尊重する。

俺はそれで、お前を失う事になっても後悔しないだろう。


「よし!行こう、御主人様よ!死んでも覚えといてやるよ!」


「お前もな!」


ビッグベンがまた走り始める。

サトミがベンのたてがみを撫で、感触を覚えるように首を撫でた。


たとえまた新しい馬を得ても、お前は特別だ。

でも、お前を守ると俺に隙が出来る。

俺の命にお前を犠牲にするほどの価値があるのかわからない。

それは、考えても答えは無いことだ。


サトミが、苦々しい顔で手綱を握りしめる。

左手で胸をかきむしるように、ジャケットを鷲掴みした。

エンプティの顔を思い出すのも忌々しい。


「あんな……クソ野郎のために…………」


サトミの顔が鋭く、暗く、恐ろしいまでに影を落として行く。

心が沈み、頭がキリキリと冴え渡る。

全身が、ざわざわと毛が逆立つように高揚する。

この、感覚。


「殺られる前に殺るしかない。

俺はまた、この一時をタナトスのスラッシャーに戻ろう。


俺を……この俺を引き戻したこの罪、貴様を俺は許さねえ。

貴様は雪で切られることを望むだろう。

だが、貴様は雪で切られる資格さえ失った。

絶望しろ、そして死ね。」






ダンクが岩山を目指す。

本当に、サトミの推理は当たっているのかわからない。

エリザベスを近くの木に繋ぎ、Mk17を肩に担ぐ。

ハンドガンのマガジンを確認して山を登りはじめた。

できるだけ岩棚から見えないように、静かに死角を上る。

サトミの姿はもう見えない。


あいつはどんな人生を歩いてきたのか、俺は少し同情的だったけど、そんな生やさしいものじゃ無いことが良くわかった。


15であの切れ方は尋常じゃ無い。


俺はそこまで考えられないし、命がかかることに、こうだと言い切れる自信も無い。

友達は普通に友達だし、隙あらば殺そうという奴を友達と言える自信も無い。

まして追われて命狙われるほど重要人物でも無かった。

全部命がけで、一時の油断も無いとかすべてが規格外だ。

規格外過ぎて、あいつは本当に軍にいた方が自然なのかもしれない。


いや、もう考えるのはやめだ。

俺は今ミッション遂行中だ。

てっぺんにいる奴を殺すか生かすか、俺に任された。


あれ??


ちょっと待てよ?

俺は相手一人だが、あいつは何人相手にするんだ?

いや、もういいや、それでも普通にやっちゃうんだろう。

俺はとにかく、あいつのサポートに回る。

一人でも減らせばいい。それでいいや。


岩山は思ったよりゴツゴツと岩が出っ張って、足場が多く上りやすい。

ただ、それだけ落ちたらサヨナラと思う。


静かに、静かに。


息を整え、頂上が近くなるほど慎重に進む。

本当にいるのかわからないけど、山頂前で止まってじっと耳を澄ます。



「…………はい、了解しました……はい……」



ザッと血が下がった。

サトミの読みは、超正解だった。

たとえ特別な馬でも、馬を優先することはない。

非情でも、それがサトミの冷静な優先順位です。

冷静さは時に非情で、時に異常なほど冷めています。


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