47、スナイプポイント
サトミとダンクが馬を走らせ、岩場を目指す。
途中、前を行くサトミがいつものポイントを指差した。
休憩を挟むらしい。
並んでそこへたどり着くと、いつものように馬を休ませ、サトミが棒っ切れ拾って地面に何か書き始めた。
「なに?何書いてんの?」
「森、あの岩山周辺の森だよ。
ガイドの電話は岩山と森の左右中央って言ってたな。
手榴弾が真ん中か。左右が援護、岩山がスナイパーだな。」
ダンクがポカンと口を開ける。
自分はそこまで言ってない。
電話の話がみんな聞こえていたのだ。
「お前……なんて耳がいいんだよ。
全部聞こえてんの?」
サトミがニヤリと笑って耳を指差す。
「昔目が見えなかったって言ったろ?俺の耳は目よりいい。
俺は戦う時も、目に頼らないんだ。その方がラクなんでね。」
「はあ…………なんかさ、お前ほんとに15かよ。」
「15だよ!お砂糖大好きお子様!」
「自分で言うかよ。」
どうやらガイドに言われたことが、ずっと引っかかってるらしい。
「でな、手榴弾使ったんだろ?
恐らく地雷使わなかったって事は、今度使うんじゃないかと思ってる。
4人で来ることは時間的に読まれてると思うんだ。
で、どこに仕掛けるか……、俺たちは森から300フィート離れろと協定で決まっている。
先日の機銃使った奴は、だから地雷使わなかったんだろうな。
クレイモアは近いほど破壊力が大きい。
ド素人は森に隠して仕掛けるくらいしか思いつかないだろうから、勿体ないとでも思ったんだろうさ。
まあ、300離れても加害距離ではあるから、ロンド組の防弾スーツ着てないのと馬がどうなるかはわからんけど。
素人が4人全滅させたいなら、ある物は使った方がいい。
つまり、こう言う作戦立てる奴は、最も有効な場所に仕掛けるって事だ。」
「で、また、同じような作戦で来るって?」
「そうだな、森で襲うなら一番行きのやり方が無駄が無いんだよな。
一人手榴弾で牽制して、2人が左右から射撃。
手榴弾ヒットして応戦が無ければ、こいつら無傷で殺せる。」
「ふうん……じゃあ、地雷は森の入り口?」
「さあ、俺なら違うな。
俺たちは散々森でやられて、森を警戒している。
でも、地雷使って殺るなら森はあっても無くてもいいんだ。
よく考えなよ、強盗の半数以上は森と関係ないんだぜ?
ただ、あの岩山のポイントはスナイプポイントとしては最高だ。
相手が手練れ4人なら、スナイパーは無いよりあった方がいい。
要は森の前か後かだな。
射手は軍上がりでも高速で動いてる的に当てるなら、1000フィート付近だろうさ。するとこの範囲かな。
岩場の周辺は土地の隆起が激しい。
地雷はどこにでも仕掛けられる。
ただ、作戦では、トラップのように引っかかるかどうか運を任せるような使い方はしない。
確実にやるんだ。あれは有線だから、人一人隠れる場所は必要だ。
隠れる場所が無けりゃ、俺なら女にやらせるかな。」
「女?なんで?」
「例えばそこに、にっこり笑ってこんにちはと女が馬の横で休んでたらどうする?」
「別に、気には…………なるほど、油断するのか。」
「女子供にはそれなりの使い方がある、それはダンクも身に染みてわかってるだろ?
そして今回の主犯は…………」
「女か、しかも捨て身でも何とも思わない女。」
「そう言うことだ。
……ダンク、ダンクは射撃の腕はどうだ?軍で何が得意だった?
終戦時のあのクソみたいに混乱して無理を重ねる戦闘の中で生き残っている、それは何か、腕が良かった証明だ。」
サトミが真っ直ぐにダンクを見つめる。
ダンクが目を逸らすことが出来ず、銃のスリングをギュッと握りしめた。
「お前……俺の銃を見て、俺にそれを聞くのか……」
「そうだ。MK17のロング、あれを見て言っている。
あれ持って逃げたんだろ?でももう、あれはお前の銃だ。
それに、そのいつもぶら下げるハンドガン。
この仕事で長物使わないのはダンクだけだ。
馬で走りながら複数に対して応戦するなら、面攻撃じゃ無いと非効率だ。
だからみんなが散弾使うのは理にかなってる。
狙撃手ってのは、長物構えると狙おうとする。
それはこの仕事に不向きだ。バンバン撃てばいい。
まあ、俺は好きで刀だけどな。」
サトミの言葉はすべて的確で、的を射ている。
みんなには言えなかったけれど、自分は鉄砲玉でも射撃の腕を買われて後方支援だった。
ずっと、後ろから援護しても、援護は思ったようには出来ない。
射撃は指示役がいればそれに従う。
誰かがたてた作戦に従う。
少年兵なんて、滅多に援護の対象にはならない。
知ってる奴が次々に死んで行くのを、ただ見ているしかなかった。
俺たち少年兵の命は軽い。
だから……指示役が死んだのを機に逃げたのに、やっぱり俺はこの銃を放せなかった。
ダンクが少し悲しい顔で、うつむく。
思い出したくない。
でも、それでも確かに、自分は他の子供達より戦績を上げていたのだ。
だからこそ、その自信がポストアタッカーに手を上げさせた。
自分のこの腕と目が役に立つならと。
「俺の……俺の得意は射撃だ。
お前は耳がいいと言ったけど、俺は目がいいんだ。
スコープ無しで、1000フィート先のコーラが撃てる。
まあさ、ポストアタッカーには関係ないと思うだろ?
でも、だから先に威嚇で撃って逃げっちまうのさ、だから、このハンドガンでもやっていけるんだ。
俺に仕事をさせたいなら、射撃だ。」
サトミがニヤリと笑う。
そして、思った通りの場所を指した。
300m先のコーラ…………ダンクには見えるのか……マサイ族か……




