46、影に生きる者
連絡を受けて、ポリスが3人、軽装甲車のポリスカーを岩場まで車を走らせる。
ポリスカーは4人乗りで、後ろに小さな荷台がある機能的な物だ。
ただし、武器はないので個々のポリスが車を盾に銃で応戦する。
ポリスは治安維持のために、優先的にガソリンが供給される。
だから一般もガソリンが必要な場合、ガソリンスタンドはだいたいポリスの近くにあるのが普通だ。
ただし郵便局は、軍直結の独自ルートでガソリンを調達している。
その方が安いからだ。
間に業者が入れば入るほどマージンが引かれ、タダでさえ高いガソリンは更に高価になる。
荒野を走っていると、途中立ち往生した車を見つけてポリスの一人が指差した。
道を外れて4WDの大きな車が止まり、横に男が一人立っている。
ポリスの車を見つけると手を上げたので、運転手は道から降りてそちらへと向かわせた。
「ここは道から外れてるから危ないですよ。
パンクですか?」
横に停めて助手席のポリスが降りて行く。
男は30才代くらいか、落ち着いた高そうなスーツを着て、髪を綺麗に撫でつけていた。
どこかの金持ちかな?
男が振り向いた瞬間、その手に銃がある事に気がつく。
とっさにポリスが露出した顔を守り車に下がった。
パンパンパン!パンパンパン!
撃ってきた!!
もちろんポリスも全身防弾装備だ。
下がるポリスのヘルメットや腹に衝撃が走るが防弾スーツが功を奏している。
「畜生!なんだこの……」
車内にいたポリスが男に応戦する。
だが、男は服の下に何かスーツを着ているのか、服に当たっても飄々としている。
男はポリスが車に戻るまで、ひたすらボディを撃って牽制する。
「頭を狙え!」
そう言った時、男が車から何かを取り出した。
「ショットガンだ!退避!!」
男がフォアエンドを引き、躊躇無く車に向けて撃った。
バンッ!!
バンッ!!
バンッ!!
「うわああああ!!!」
ポリスカーの防弾ガラスでは、スラッグ弾に勝てない。
フロントガラスに次々と穴が空いて一面ヒビだらけになり、Uターンした瞬間助手席に飛び込んだポリスが座席の下に隠れながらフロントガラスを足で突き破りガラスを取り除く。
人間に弾が当たらなかった幸運を神に感謝しながら目鞍滅法車を飛ばし、ポリスは男からとにかく離れることを優先した。
「現場確認はどうする!?」
「バカヤロウ!!!死体回収するために死んでどうする!明日だ!!」
ポリスの車が逃げていくのを見ながら、男がショットガンを車に投げ入れた。
スーツは穴が空いたが、まだ使える。
これで作戦を邪魔する奴は消えた。
まさか、帰りも同じように襲われるとは思っていないだろう。
同僚が自分のせいで死んだと知ったら、サトミはどんな顔をするのか。
絶対に仕留めろと、成功報酬ははずむと残りのメンバーには命令した。
今度のメンバーは、軍人上がりが多い。
行きのように生ぬるい奴らばかりでは無い。
金に汚いことはいいことだ。
思うように動いてくれる。
自分が休暇届を出す時に、ボスは何も聞かず使えと装備を積んだ車の鍵と大金の入ったプリペイド2枚を渡した。
勘のいい人だ、恐ろしいくらいに。
本当に殺すかもしれませんと言ったら、「お前ごときに殺されるような奴はいらない」そうだ。
あの人は、まだあんたをいつでも引き戻す気でいる。
死ななきゃきっと、解放されないだろう。
終戦を喜んだ俺たちに、あんたはこれからだと言った。
確かにその通りで、仕事が増えてあんたの表情からは希望が消えて見えた。
だからこそ、こうして野に放たれたのは、本当は喜んでやらなきゃならないんだろう。
だが、あんたもわかっているはずだ、俺たち影に生きる者が何を考えるか。
あんた一人解放されて、誰が喜ぶと言う。
「ククッ、ククッ……
本当に、ボスは黒い。真っ黒だ。あんたが出て行きたい気持ちは良くわかる。
だが、あんただから付いてきたんだ。
たとえあんたが15の子供でもな。
俺たちを捨てるのは許さない。」
男が車に乗り込み、岩棚の方へと向かう。
自分は離れて様子を見守る。
そして、本番は明日だ。
サトミは変わらず自分の仕事をするだろう。
その時、自分も出て決着を付ける。
あの一度も動揺したのを見たことの無いあの人に、自分はこう告げるのだ。
あんたが裏切ったからこうなったのだと。
あの人が笑うか、悲しい顔をするのか知らない。
だが、少なくとも悲しい顔をしたなら、自分は初めて見るその表情に、エクスタシーを感じるだろう。
その瞬間、自分の首が飛んでも構わない。
あの人の刀「雪雷」にかかって死ぬならば、あの美しい刀に殺されるなら、それこそ本望なのだ。
歪んだ奴です、歪んだ恋心のようなものです。
こう言う奴と付き合うのは、こう言う奴だからと思って付き合うしかありません。
サトミも辟易していましたが、はけ口はクソ野郎と呼ぶくらいです。
ただしこう言う奴は、クソ野郎と呼ばれることにも喜びを感じるからマジでクソ野郎なのであります。
サトミに言わせると、ジンの方がノミの背丈ほどマシだそうです。




