45、グッドラック!
ガイド達が襲撃受けたことを局長に連絡に行き、急いでキャミーがエクスプレスに戻ってくると、案の定サトミとダンクがすぐにも出るような様子でドア前に立ち話し合っていた。
「え?!何してんの?どこ行くの?!駄目よ!!」
慌ててキャミーがドアへ走る。
サトミが来てから、これを懸念していた。
有事にサトミが突っ走ろうとするなら、止めるのは彼を招き入れた自分だと思っている。
「駄目よ!勝手に出ちゃ駄目!サトミ、ここは郵便局なの。ポリスじゃ無いのよ!」
サトミは恐ろしいほど落ち着いていて、ゆっくり首を振る。
「キャミー、行かなきゃ駄目なんだ。恐らく帰りも襲われると踏んだ。俺の勘だ。」
「でっ……でも、向こうと一緒に来るんだよ?4人いれば……」
「帰りは襲われない、4人いれば大丈夫だ。
その油断が全滅を生む。そんなシチュエーション何度も見てきた。
俺は2人をこんな事で死なせたくない。
それに、軍関連なら俺が関係するかもしれない。俺は出るべきなんだ。」
「で……でも、こっちから仕掛けるなんて無理だわ……それは法令に違反する。
サトミとダンクが逮捕される事態は困るのよ。エクスプレスの業務が……」
それは、どちらにしても同じ結果を生む。
ガイド達が死んでも、サトミ達が逮捕されても、エクスプレスのメンバーが減るのは同じだ。
だが、死ぬより生きているなら逮捕を選んだ方が賢明ではある。
でも……でも……逮捕されるのわかってて、行けとは言えない。
「とにかく駄目なのよ……わかってよ……」
サトミが目を閉じて、そしてキャミーを見据える。
「キャミー!116条5項、速達運行の妨害をするもの、及び武器を持って妨害するものには、武器での対応を許可する。特記すべきものとして、これに傷害罪及び傷害致死罪は当たらないものとする。
それは、これから妨害をしようとする者を排除する事には当たらないのか?キャミー!」
キャミーが突然の問いに腕を組み、ハッと口を開く。
「前例は……あるわ!
リードが以前、休暇の時に偶然待ち伏せした強盗と撃ち合いになって倒した。
でもね、でも、大変だったのよ。局長が何度もポリスと協議して……
駄目よ!勝手に動かない!あなたはポリスじゃ……」
「じゃあ!! キャミー!!
もう一度協議頼む。
リードは死んだが、生きている時良い前例を作ってくれた。
俺たちは襲われるのを待つわけには行かない。
リードの生きた証しを生かす時だ!」
ダンクとキャミーが目を丸くしてサトミを見つめる。
キャミーの脳裏に、リードの「見逃せなかったんだ」と笑う顔が鮮やかに思い出される。
あまりにもショッキングな死に方で、なにも思い出せなくなっていた、思い出すことをやめていた彼の、あの人懐っこい明るい顔が、彼がいつも座っていた場所に彼の姿が蘇った。
時がようやく動き出したような錯覚を覚える。
サトミの横で、リードが親指を立てて笑っている。
彼女はそれだけで、胸がいっぱいになってしまった。
ああ…………
ああ……リード……あなた、ずっとそこにいたのね。
ごめんね……私たち、ずっとあなたを見ないようにしてた……
「ずるい……ずるいわサトミ……
わかったって、任せてって、言うしか無いじゃない。リードの分もがんばってって言うしか無いじゃない。」
微笑むキャミーの頬を、涙が流れる。
サトミが、まるでリードをトレースするように、親指を立てて笑った。
「よし、バックアップは任せた!動こう!
ダンク、急げ、エリザベスに馬着着せるんだ。」
ダンクもうなずき、食い残しを口に詰め込む。
装備付けるの後回しに馬繋場でダンクの馬に馬着を着せていると、キャミーがダークグリーンのツナギを持って走ってきた。
「ダンク!サトミ!待って!これ!ちょうど届いたの、着ていって。
防弾スーツ、二人とも着たことあるでしょ?」
キャミーの差し出すダークグリーンのスーツは、色は違えど軍の黒いスーツとまったく同じで、サトミにとってはこの世で一番頼りになる服で、そして一番嫌いな服だ。
「俺は……いらない。」
「駄目よ!着ていって、じゃないと許可しない!」
ダンクが前に出て受け取り、そしてサトミの分を彼の手に持たせる。
「着替えるぞサトミ、グズグズするな。手遅れになる!」
仕方ない。これはユニフォームになるのだ。
事務所に入り、サトミが刀を降ろしてナイフベルトを外す。
着替えを済ませると、何とも言えない……身体に馴染む感じに、気持ちが引き戻されそうで心が震える。
「しっかりしろ!ほら、いつもの郵便局のジャケット!」
たまらず手で顔を覆っていると、バッとダンクに郵便局のジャケットを突きつけられた。
グリーンに赤い郵便マークのジャケットに、深呼吸して受け取る。
ジャケットを着て、装備を付けた。
一転して暗い顔のサトミに、キャミーが手を差し出す。
「サトミ!ポストアタッカーのサトミ・ブラッドリー!頼りにしてる!
リードの思いを引き継いで!」
「ああ……ああ、わかった!」
サトミは大きくうなずいて、彼女の手を、その暖かくて華奢な手をしっかり握った。
その様子を見ていて、ダンクが意を決したようにロッカーからストックを折りたたんだロングバレルのMK17を持ち出した。
サトミと目を合わせ、そして厳しい顔で目を伏せる。
彼の本当の持ちなれた得物はMK17なのだろう。
ツナギのポケットに、弾置き場から弾を一つかみして放り込む。
そして銃を、サトミの刀のようにたすきにかけた。
「行こうぜ!ダンク!キャミー、あとは任せた!」
「行ってこい!グッドラック!」
「「おう!」」
二人にキャミーが親指を立て、手を振る。
二人はそれぞれ馬に乗り込むと、ゲートを出るなりスピードを上げて馬を走らせた。
誰も口にしなかったのは、口にするのが辛いから。
見なかったことに、いなかった事にしたいわけじゃ無い。
リードが死んだその事実が、彼らの時を止めていた。
泣くのはこの地雷強盗が死んでから。
その時間を動かすのは…………




