43、BANG BANG BANG!
『森!手前の金髪に投げろ』
Kの言葉に「森」の男が息を飲んで手榴弾を見つめる。
息を整える。
5秒だ。
練習は何度もさせられた。
あとはピンを抜くだけに準備した手榴弾を一個手に取る。
アタッカーの二人が遠くを走っている。
レバーを押し、ピンを抜く。
「1,2、3!」
森の出口に向けて走り続けるリッターに向けて、森の中から男がスリングショットを使って手榴弾を放った。
最近ポストアタッカーは森から離れて走る。
投げるより、もっと効果的に遠くへに放つことの出来る安物のスリングショットを持ち出したのだ。
しかし、男も手元で爆発するのは怖い。
スリングショットをもたもたしていると、目の前で炸裂する。
急いで手を離すので、ポーンと弧を描いてリッターに向かう。
リッターが、男の存在には気がついて、仕草から予想通りに笑った。
「ハハッ!!お待たせ、カモン!」
背負ったM590を手に取り、フォアエンドを引いて狙いを定める。
男が放った瞬間、小さな手榴弾を狙う。
バン!
ヒットして、手榴弾は男の近くで木っ端微塵に宙で散った。
「ひえっ!なにっ?!くそ、こんな小さいのに当てるかよ!」
男はスリングショットを引く時間が惜しくなったのか、すぐに2投目は手で投げて来た。
心で数える。狙うのは1,2秒だ。
バン!
バン!
「当たり!次!」
バン!
「いいぜ!そらどんどん投げて来いよ。
舐めんじゃねえよ!
ポストアタッカーは、サトミ以外にもいるんだぜ!」
バッ!突然背中に衝撃を感じた。
「くっ!」
森の左の背後から狙われて、散弾がリッターの背中の防弾ジャケットをかすり、後ろに積んだ荷物をかする。
「チッ!」
バンッ!バンッ!
連続するショットガンの音に、身体を低く伏せながら再度フォアエンドを引いて構える。間髪入れず、また手榴弾が飛んできた。
撃つ
ハズレ、
撃つ
バンッ!
「テンポ悪いんだよ、バーカ!」
瞬時にフォアエンド引いて、身をかがめ手榴弾を投げる仕草の男を撃つ。
それは、破壊力の大きなスラッグ弾だ。
『森』の男は後ろに吹き飛ばされ、その場で手榴弾が爆発した。
「ガイド!サポート!」
「了解!」
リッターが弾を詰める間、ガイドが左の木陰に隠れる男を撃つ。
男の目の前の枝が吹き飛び、とうとう前に出てきた。
右はまだ隠れて撃ってくる。
「チッ」
リッターが低く伏せたポジションで連発する。
「リッター!左任せた!」
「おう!」
バンッ!
返事をすると同時にヘルメットに散弾がガンガン当たる。
ゴーグルにかすめて当たり、左の頬をかすって防弾レンズにヒビが入った。
右も左もガイドを無視して、リッターを狙って撃ってくる。
馬は無事のようだ、よく走ってくれる。
「クソッタレ!俺はクレーじゃねえっ!」
森に隠れていた右も、とうとう飛び出してくる。
手榴弾と狙撃でやられたところを襲うはずが、大きな誤算だ。
彼らは元々強盗では無い。
「くそっ!撃っても全然当たらねえ!なんだよ、ポストアタッカーって思った以上かよ!」
ショットガンを構え、撃つが相手は早馬の名手だ。
連発しても撃った先には姿は無く、しかも彼らはまた躊躇無くこちらを狙う。
ガイドは右の男に照準を合わせ、出てきたところをすぐ撃ち取った。一撃必殺無駄玉が無い。
「リッター!」
「悪い!」
リッターとの距離を詰めて、彼の援護する。
左から来た男は手練れで、馬を器用に死角へ操り撃ってくる。
背後に回られ、リッターは荷物を盾に片手で撃っていた。
弾が散弾では無くスラッグを入れているので、破壊力は大きいが散らない。
それが裏目に出て苦戦していた。
バンッ!
パンパン!
バンッ!バンッ!
銃の音があたりに響き渡り、やがて蹄の音だけになる。
そしてポストアタッカーの2人は、森を離脱して駆け抜けていった。
Kが怒りにまかせ、パソコンをバンと音を立てて閉める。
それでも無表情なのは、元々こう言う顔なのだろう。
舌打ちながら車を走らせ、岩山まで来ると外へ出て岩山を上りだした。
行動を全部読まれたのは予想外だった。
人数の半分が持っていかれたが、まあこう言うこともあるだろう。
こいつらは軍人じゃ無い。
てっぺんまで来ると、役にも立たなかった男が銃に突っ伏している。
足で蹴ってそれを退かせ、銃を取り、カメラをちらと見る。
カメラは見事に撃ち抜かれ、ガイドの目の良さ、射撃の正確さに舌を打った。
ポリスが来るか。
軍の物を残していくのはマズいな……。
腹立たしい、一人連れてくれば良かったと思いながら、死体から軍の備品を引き上げ足で転がして頂から森へ転げ落とす。
小さな岩山でもここからは最高の見晴らしだ。
荒野が見渡せ、ポジション的には最適だろう。
衛星通信で、相手にぼそりと話す。
こいつらはかませ犬だ。
狙って撃つまでが遅い。
クセは2,3日じゃ治らないので、何も言わず上物とカスを2班に分けた。
軍の関与を知ったなら、サトミはどう考えるだろう。
ずいぶん前に、人数は違えど一般兵を率いて自分はそっくりこの作戦を使ったことがある。
覚えているか、覚えていないか。
いや、きっと覚えているはずだ。
サトミはあの時、平凡だと笑った。
飛び道具を使うクセに、面白くないと。
サトミならどうしたのだろう。
あの人ならきっと……一度で二人とも仕留めたに違いない。
男が表情筋を動かす。
それはぎこちなく、不気味に笑った。
撃ち合いに、言葉はいらねえ。




