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39、ジンという友達

翌日デリー行きもあるので、早々にお開きになってキャミーはガイドが送っていった。

店を出ると、リッターはまた家と反対方向に行く。

気分がいいので一人二次会らしい。

あれだけ飲んだのに、本当に飲んだくれだ。

通りを歩いていると、声をかけられ店に消える。

ダンクが大きくため息付いて、見送りながらぼやいた。


「夜の知り合いの多さは、飲む量に比例すると思うんだわ。

俺、あいつにちょっと憧れてる感じ。」


「ははっ、女一人抱えて言えよ。」


「バーカ、マジで彼女は重いんだ。

初めて見た時からどんどん膨らんじまって、きっと寂しいんだと思うんだ……

俺、大事にしたい…………

じゃ、明日な。寝坊すんなよ。」


「はあ?その口で言うかよ、寝坊すんなよ。じゃあな。」


ダンクらしい言葉だ。優しい奴……

サトミが笑ってダンクと別れ、一人家へと足を向ける。

しばらく歩いて足を止めた。


ずっと、見られてる。

みんなと飯食ってる時からだ。

1人になるのを待っていたんだろう。


一つ息吐いて、ゆっくり横を見る。

後ろは見るまでもねえ。

いったい何しに来たのか、きっと電話させたのこいつだ。

どうせ家は知られているだろう。だけど、人の目があるところで会うのが幾分マシかと思う。


横のカフェに顎で指す。

チラリと見ると、人々の間から相手はにっこり微笑み、驚くほど明るく手を上げた。


そのカフェは、夜は酒も出すが明るく客席も多い。

朝もやってて、何度か朝飯食べに来たことがある店だ。

女性客もちらほら見えて、サトミは周りの座席に空きがある角の窓際の席に来た。


「へえ、こんな可愛いところに俺を案内するか。すげえギャップだな。」


「俺が酒場じゃ断られんだよ、普通ってのは年齢にクソうるせえんだ。」


その男は、背が高く浅黒い肌に白い髪、そして何より顔がいい。

珍しく洒落たスーツにジャケット羽織り、相変わらず仕草はスマートだった。

サトミはそいつが座って、ようやく座る。


女の子が聞きに来るとイラストのメニュー見て、何がどんなのかわからず、とりあえず甘〜いアイスパフェの売り文句に、楽しそうに笑ってこれ2つと指差した。


「あいっ変わらずクソ甘いの好きなんだろ?

よう、サトミ、下界は楽しいか?」


ジンが、気味悪いほど機嫌がいい。

いったい何しに来たのか、本当に不気味で仕方ない。

窓の外には、彼の監視が2人いる。

気まぐれで人でも殺したらマズいからだろうが、どちらかというと殺した後の処理に付いてるような物だ。

自分の時もそうだった。

ああ、マジ気分悪い。


「まあな、慣れるのに苦労してるよ。

この世界はな、他人に気を使う……ジョーシキ?えーと、気配りってのが大事なんだ。

俺様は通用しねえんだよ。

お前隊長なんだろ?遊んでていいの?」


「遊んでねえよ、俺は仕事で来たんだ。

お前が辞めて、部隊が3つから2つに再編されたんだ。

セカンドが作戦失敗しやがって、自爆食らってほぼ全滅。

人数ごっそり減っちまった。

ボスがお前のことばっか言ってたぜ?ヒヒヒ……

今新入り締めてる所さ、殺さないように気持ち抑えるの必死だぜ?

まあさ、お前辞めて俺がショーシーンって訳よ。

ファーストの隊長、俺だぜ?ククッ……てめえ、帰ってくるなよ。」


「へえ、そうか。

安心しろ、俺に帰る気は一切無い。

だがな…………お前、俺はもう部外者だぜ?喋りすぎだ。」


ああ、イヤだ。本当に気持ちが引き戻される。


「まあまあ、そう言うな。久しぶりじゃねえか。

俺はお前よりいい隊長だぜ?

お前の時より規律が揃ってる。

ナイフ届いたろ?」


まあ、揃うだろうな、みんな死にたくねえし。


「ああ、サンキューな。助かった。

誰だよ、殺したくなるから返事いらねーっつったの。」


「仕方ねえだろ?あんな場所でお前のうきうき楽しそうな手紙なんて読んだら、小隊連れて叩き潰したくなるじゃねえか。

まあ、お前相手じゃ一個小隊じゃ足りねえだろうな。

お前の周りの奴……郵便局っての?あれじわじわ殺した方が、お前痛めつけることになるか。クククッ」


ほんとにイヤな奴だ、こう言うこと平気で言うからイヤになる。

黙ってりゃいい男なのに、クソみたいな事言う時は、ほんと醜悪だ。


「下界って久しぶり来たなー、どこも町が大きくなっててビックリする。

え、なんでこれで電話も無いんだ?昔はあったんだろ?」


「知らねえよ、俺に聞くな。

世の中のこと、全然知らねえんで苦労してんだ。」


最初金降ろすところがわからなくて、ポリスに聞きに行ったくらいだ。

初めて見る物ばかりで面白かったけど、金の使い方がわからず苦労した。


「ポスト何とかっての?どんな遊びなんだよ?」


「遊びじゃねえよ、安月給貰って働くんだよ。

郵便を馬に積んで運ぶ仕事。盗賊出るから、戦えるやつしか出来ないのさ。」


「へえ!じゃあ、今も殺してるのか。」


ああああああああああああ

まったく、こいつにデリカシーはゼロだ。期待も出来ない。


「殺しは最後の手段だ、もう戦争は終わってんの。」


「そう言いながら相変わらず飯食う時も、雪ずっと背負ってるじゃん。

終わってるって感じしねえんだよなー。ボスは何と戦ってやがるんだ?」


「さあな、ボスに聞け。」


ニイッと笑ってテーブルに肘を付き、身を乗り出してくる。

思わずイヤな顔して引いた。


「なあ、さっきの……お前の新しい下僕?」


「はあ?先輩だよ、俺は新入り。当たり前だろ?」


「ヒヒヒヒヒ!!マジかよ、お前がパシらされんの?

マジ?お前が?新入りでビクビクすんの?マジ?クククク……そんなの俺、見たことねえんだけど。」


笑いを必死で堪えてやがる。

俺は全然面白くねえ。


「ビクビクしねえよ。お前みたいな奴いねえし。」


「そうか!みんな優しいって人種か。優しいって奴らは何でも許すらしいぜ。

そう言う奴らが血みどろで真っ黒になるのが面白いのに。」


あああああああ、もう限界だ。マジでクソ。


「お前、食ったら基地帰れ。マジで反吐が出る。」


「そう言うなよ、久しぶりで俺はハッピーな気分なんだぜ?

みんな泣いたんだぜえ、お前辞めて2人自殺しやがった。1人未遂、面白くねえの。

なに悲観してやがるんだろうなあ。俺が隊長になるの、死ぬほどイヤか。」


「イヤなんだろうさ。俺もお前が隊長は死ぬほどイヤだ。あいつらに同情する。」


むうっとした顔で反っくり返る。

明るい顔が、暗くなる。

不穏な動きは一瞬だ。

サトミはいつでも刀を抜ける。


だが、思いがけずジンからは殺気が消えて、深くため息をついた。


「なら、…………ならさ、辞めんなよ。

誘ってくれたの、うれしかった。でも…………

俺は、あそこでしか生きていけない。

お前も、そうであって欲しかった…………のに。」


サトミが大きく息を吐く。


辞めるまで、ジンは泣き言を言わなかった。

だから一緒に出ようと言ったのだ。

こいつを面倒見るのは自滅を意味する。

結局殺すしか無かっただろう。

それでも…………


「ごめんな。」


親さえ殺してしまったこいつの、唯一の友として、今の俺はそう言うしか無かった。

ジンは、第27部分 武器商人(流血有り)で出てきた、サトミより3つ上のやはり少年兵です。

元々殺人衝動の持ち主で、親も殺して捕まったところをスカウトされました。

気にくわない、足を引っ張ると感じると殺してしまうので、誰も近づきません。

それでも、そんな彼でも唯一付き合えたのはサトミでした。

サトミは気を読むので、彼にとってただ1人、どうしても殺せない男だったのです。

それは彼にとって気楽で、衝動を抑えることも無く、無理をしなくていい気を許せる友人となりました。

辞める時、引き留めなかった彼を不思議に思っていましたが、ジンは相当に葛藤があったと思います。

彼のささやかな気配りだったのでしょう。ほんのちょっと成長しています。

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