38、見習い期間終わり
サトミの研修最終日___
サトミとダンクは、遠いところから順に数軒を手分けして配って、次のエリアに向かう。
サトミは家のナンバー覚えてないので、地図を見ながら配達する。
何度も何度も確認して、間違いの無いように。
「ああ、胃が痛い。一人で回るようになったら大変だな。
まあ、そのうち慣れるか。とにかく家番覚えなきゃ。」
サトミがブツブツ言いながら回る姿を遠目にダンクが見守る。
個別配送が、一番覚えるのが大変だ。
自分は間違えて何度も謝って回った。
サトミはまだ、一度もミスしてないので集中力がある。
記憶力が凄い。
サトミがキャミーに言った言葉が心に残っている。
『俺がいない時は、命の保証できない』
か…………
サトミは……いったいどんな部隊にいたんだろう。
郵便局の仲間はリスクのある付き合いを、みんな良く受け入れてくれる。
昔局員が帰りに襲撃受けて、人質になった強盗事件がある。
その時はポストアタッカーが機転効かせて狙撃したと聞いた。
元々、郵便局に勤めると言うことはリスクがある。
だからみんな銃を携帯してるし、行き帰りは防弾服着ている奴もいて危機意識は高い。
「俺だって、みんな受け入れてくれたんだ。
がんばれよ、サトミ。」
次の家に歩いていると、後ろから声がした。
「せんぱーーーい!!住所と名前が不一致!」
「えー、マジ?!」
ダンクが走って向かう。
そうして配り終え、帰りに半泣きのリッターと会って手伝って一日が終わった。
その日は多少トラブルもあったが、無事に研修期間が終了してみんなで飲みに……
と思ったが、サトミは未成年で飲めない。
結局シロイ亭でエクスプレスのメンバーみんなで飯食って、研修打ち上げウエルカムパーティーでお祝いした。
ダンクはやっと18才と酒が飲めるので、ちびちび飲んではリッターに絡む。
どうやら妹とはまだ正式に彼女じゃ無いらしい。
「なあなあ、リッターよ。セシリーちゃんと付き合ってもいいだろ〜?
なー、なあ、お兄様〜。」
「誰がてめえの兄ちゃんだ。知らねえよ、自分であいつの要求クリアーしろよ。」
お兄ちゃんは冷たい……バッタリ、ダンクがテーブルに突っ伏す。
しくしく泣き出して、どうも泣き上戸らしい。
明日は朝早いのにいい加減にして欲しい。
「要求ってなに?」
サトミがガイドに尋ねると、ガイドが両手を広げて何か抱っこするマネをする。
「セシリーちゃんはなー、お姫様が夢なんだ。ぽっちゃりだけど。
だから、付き合う条件が自分をお姫様抱っこしてくれる人ってのだとさ。
ダンク、一度トライしてつぶれたんだよ。なー!」
「ナーじゃねえよ!だって、セシリーちゃん、ちょっと重量級なんだよおおお……
あのふっくらが柔らかくていいのに、なんでこんな障害が立ちはだかるんだよ。
だいたいさ!何でアニキは鶏ガラなのに、妹は重量級なんだよおおおお!!
それがいいんだけど。」
それでいいのか。
ヤレヤレと男どもが首を振る。
キャミーがダンクの背中をポンポン叩いて力づけた。
「仕方ないわ〜、セシリーって好きな物が超高カロリーだもん。
冷蔵庫にこんなでっかいバター入ってんの。
お昼ご馳走になった時、激甘砂糖たっっぷりバターシュガー載せたトーストご馳走になったけど、バタースープにパンが浸かってて、焼く前見たらパンの方が薄いんだもん。
いやーあれはねー、サトミのコーヒーといい勝負だわ。
手料理食べるとねー……なんか〜重いのよ〜
もしかしたら、サトミなら食えるんじゃない?」
サトミはまだバター食べたことがないので味が思い浮かばないが、なんだか甘いと聞いただけで美味そうだ。
バターって確か、油だよな。くらいしかわからない。
軍の食事で油というと、普通にただギトギトしたサラダ油
だった。
「そうだなあ、バターシュガーか……美味そうだな〜
そうか、バターってのに砂糖混ぜてパンに塗るのか。」
「お前はやめろ。いいな、ぜったいやるなよ。」
ガイドの目がつり上がっている。
つまり、ケンコーに悪いのか……ケンコーに悪い=美味い。無視する。
「でもさ、リッターは?食ってるんだろ?」
リッターは、なんか遠い目してそうっと首を横に振る。
「俺の主食は酒だし。つまみ程度な……」
家族は家族で大変らしい。
何とか食える物を制限して食ってるから、逆に痩せちゃうんだろう。
見てるとせっかくの普通の料理なのに、胃が小さくて食えないと酒ばかり飲んでいる。
「ガイドの家でたまに食ってるし、ま、俺はテキトーにやって生きるさ。」
「そうそう!ガイドの奥さん料理上手よねえ。姐さん女房っていいわあ。」
「アネさん女房ってなに?」
サトミは一般常識に疎い。
「年上の奥さんさ。ガイドは危険な仕事だからって、終戦まで家族作らなかったんだよ。奥さん高齢出産で、ガイドすげえ取り乱してんの、ヒャハハハ!!」
リッターが馬鹿笑いして、ガイドに殴られた。
ガイドもまさか自分の話になるとは思わなかったので、渋い顔だ。
「子供は諦めてたんだがな、まだ3つだから俺が死ぬわけには行かない。
子供ってのはいいもんだ、ダンクも鍛えてさっさと家族作れ。
アニキは飲んだくれだけどな。」
「うるせー、まだアル中にはなってねえよ。
だいたい年からして俺が嫁さん見つけんのが先だし!」
「リッターに嫁ねえ……酒と喧嘩止めないと……女子的にはねえ……」
無理じゃね?って感じの空気が漂う。
「まあ、目標いる俺が一番がんばらなきゃな。
とにかく好きな女いたらすぐ結婚しないとさ、やっぱ家族は欲しいし。
いざとなったらアニキ勘当すればいいし。」
ダンクの瞳がキラキラ輝いて復活した。
「ひでえ、俺の老後は任せた。」
「お兄様、頼むから自立して下さい。」
グダグダ喋ってると、仲間の背後も良くわかる。
家族がいる奴はいい物だ。
ダンクみたいに、好きな女がいる奴も。
サトミはまだそこまで行けない世の中初心者だけど、いずれそうなれればいいなと思った。
リッターは妹と2人暮らしです。
ですが、小さな時からゲリラに軟禁されて暮らした妹は、ひときわ外への憧れが強かったようです。
戦後2人は命がけでアジトから逃げてきたわけですが、ようやくここに来て平和な日々を過ごしていました。
と、思ったら、アニキがポストアタッカーという危険な仕事に就いてしまった上に、普段も飲んべえだわ、めっちゃケンカっ早いわで、彼女のストレスは頂点なのであります。
王子が救いに来てくれるのを、ひたすら待っているのでした。
つまり「あたしくらい抱えられなくて、王子の資格は無いわ!」と言うわけです。
頑張れダンク!




