37、ヤバい奴
荒野渡りは2人組でに決まった物の、サトミの研修期間はなかなかガイドのお許しが出ず、10日でやっと終わりを告げてダンクと2人で仕事をする最終日になった。
なぜ延長になったかは、あまりに彼が年齢不相応だからだ。
物わかりが良すぎて判断が速く、余計心配というわけだが、サトミにはそこが理解できない。
その、理解できないのが問題と言うことらしい。
なんでそんな物が問題になるのか良くわからない。
「世の中にはお前の上を行く奴もいるんだ。
俺らに言わせるとだな、お前さん世間知らずすぎる。
戦には強いが世渡りじゃすぐ騙されそうな、そんな気がしてならんな。」
うーむ、年齢なんか考えたことも無かったが、ガイドはとにかく年齢を重視する。
確かに大人は汚い、考えてみれば、俺は騙されて軍にいたようなものだ。
大人のずるいやり方は身に染みてわかっていたつもりだが、まだ甘いらしい。
と、言うわけで結局10日もダンクには付き合って貰った。
最終日、ダンクも今日までだな、となんだか朝から感慨深そうだ。
まあ、サトミもちょっぴり寂しい。
今日一日、何ごとも無いことを祈る。
と、祈ってはいたが、その日は午前中電話連絡があってメサイアまで行ったのだが、また途中強盗と鉢合わせしてしまった。
追われるより殺った方が早いという感じのサトミにゲンナリしながら、ダンクは威嚇射撃でやりすごす。
サトミはケンカっ早いわけでは無いが、刀抜くのがすさまじく早い。
しかも、強盗の撃った弾をそのままはじき返すという、常人には理解できない技まで見せるので、見てるダンクまで顔が引きつる。
まさに電光石火だ。
「サトミって、めっちゃ怖い……」
一頭ずいぶん早い馬がいて、一度追いつかれてダンクの荷物に手をかけられた時は、問答無用で盗賊の首が飛ばないかダンクはヒヤヒヤして盗賊追い払うのに必死だった。
昼ご飯食べて、午後は個別配達だ。
明日はデリー行きだが、あれから地雷盗賊はなりを潜めている。
今朝はリッターとガイドが早く帰ってきて、飯食って小休止すると、ガイドが小分け分を他の郵便局に配達に出た。
リッターは青い顔で、仮眠すると別室で寝てる。
1日おき6時出発は、なかなかハードだ。
夜、飲みに行く気にならないとか言いつつ、二日酔いで途中吐いたとか言っていた。
酒臭い息で、メチャクチャガイドに怒られたらしい。
まあ、それでもこの2人も仲がいい、息が合っている。
とは言え、まだ軍が出てきたという話も聞かない。
この普通に仕事が進む日々がいつまで続くか、不安はまだ消えなかった。
近場をリッターに残して、ダンクたちは遠いエリアを回ることにした。
よしと立ち上がるサトミに反して、ダンクがだらーっと立ち上がった。
「なんかずいぶん疲れてんの、まるでデリー帰りみたい。」
個別配達を手伝うキャミーが、ジャケット着ながら失笑している。
ダンクが彼女に詰め寄る様に訴えかけた。
「俺さ、刀野郎のこいつから盗賊のオヤジどもの命守るのに必死な訳よ。
なんか変じゃねえ?俺、襲われてんのに、盗賊に逃げろーーーって言うの変じゃねえ?
な、キャミー、変だよな!」
キャミーが顎に手を置き、んーと考える。
ダンクがうるっとした目で激しく同意を求めていた。
「あ!そう言えばサトミ。」
「なんだよ!無視かよ!」
ボスッとダンクがソファーに倒れる。
「今朝ね、なんか遅くなりましたけどって、軍からお礼の電話来たわ。
近くお伺いしていいでしょうかって言われたから、遠慮しますって断っといた。
オッケー?」
「超オッケー!
しかし、なんで今更……んー、……ま、いいや。」
「なあに?戻れって言われるの?」
「どうかな?予備役は断ったけど、どうなってるかわからんし、もしかしたら仮置きになってるかも知れねえ。
でも、戻るような状況でも無いし……まさか、な……」
「調べればいいじゃない。」
「いや、もう関わりたくない。
もし、相手が一人で来たら、どんなに愛想が良くても、顔が良くても、中に入れないでくれ。危ないから。」
「危ない??」
「そ、窓口に言っといてくれ。俺がいない時は、命の保証できないってな。
行こうぜ先輩。」
「まるで殺し屋でも来る感じねえ……まあいいわ、窓口とゲートには話しとく。
行ってらっしゃい、ダンク!さっさと行けえええーーー!!」
「へ〜い、行ってくらあ。
なあ、サトミ、エジソンあれからなんか言ってきたのかよ?」
「ああ、パーツ待ってるとか言ってた。
試作品もうすぐ出来るってさ。」
「そっか、楽しみだな。切らずに済むならそれに越したことねえし。行こうぜ!」
二人が連れ立って部屋から出ていく。
パタンとドアが閉まり、そのドアを見つめてサトミの刀を思い浮かべた。
キャミーがふうんと腕を組み、ちょっと首を傾げる。
「ヤバい奴か……命の保証できないか……」
ちょっと途方に暮れる。
「サトミみたいなのが来たら、まあ10分もかからず局内全滅だろうな。」
音も立てずに休憩室から出てきたリッターが、真後ろに立っていた。
「ビックリした!なんだ、起きたんだ。気分は?」
「ああ、吐いたら良くなったな。
こんなに飲む気じゃ無かったんだけど、喧嘩売られてつい買っちまった。」
リッターがため息をついて、コーヒー入れて椅子に座る。
まだ胸が気持ち悪いのか、胸をグルグルさすってコーヒーを流し込んでいた。
「よく喧嘩買うわねえ、あたしサトミより、リッターの方がヤバく見えるけど。」
さすがに大ケガは無いが、相手をボコボコに殴って2度逮捕された。
とは言え、だいたいやり返された相手がカッコ悪いと被害届出さずに、厳重注意で終わる。
この辺で白人は少ない上に、女みたいな外見と言うのは良くもあれば悪くもあるのだ。
リッターは外見から来るイメージと中身が、大きくかけ離れていた。
「まあ、俺みたいにわかりやすい奴はいいんだ。
怖いのはわかりにくい奴さ。
そうだな、例えば愛想が良くて、顔のいい奴が、にっこり挨拶でもしながら殺しまくるなんて、世にはそんなヤバい奴がいるってね。」
キャミーがゾッとして首を振る。
サトミの知り合いは相当ヤバそうだ。
「サトミって……そんなに怖いかな?
あたし、あの子スカウトしたのを後悔してないんだけど。」
「まあ、キャミーが後悔した瞬間、サトミはきっと軍に戻っちゃうよ?」
「……それは……絶対許せないわね。」
キャミーがゴクンと息を飲む。
彼が軍に戻るのは、恐らくこの世界に悲観する時だ。
自分達誰かが一人でも命を落としたら、彼は相手殺して軍に戻ってしまうだろう。
局内全員に知らせるべきか、でも、みんなのサトミに対する対応がギクシャクするかもしれない。
サトミを怖がる必要は無い、難しい。
「リッター、それ飲んだらこれ、よろしく!がんばって!」
「ええええええ〜〜〜、こんなに〜?日暮れまで終わんないよ〜。」
「大丈夫、後で気が向いたら合流するわ。」
「ひでえ……キャミーもヤバい奴って事忘れてた。」
悲観するリッターに残った速達のほとんどをリッターに押しつけ、キャミーは局長に相談するため、局長室に走った。
サトミの言うヤバい奴は、規格外に怖い奴のことです。考えも付かない怖さなのでしょう。
そう言う奴に囲まれて普通に過ごしてきたサトミは、やはり規格外です。
もし、そう言う奴が訪れ、もし中に入れたなら、どんなに隔壁シャッターがあったとしても、恐らく普通の人間に身を守るすべはないと思われます。
だから、自分がいない時はとサトミは話したわけです。




