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36、殺したい男

女が闇医者で治療を受けて、足を引きずりなんとかアジトの廃屋に戻る。

闇医者はもう止めたらどうだいと言うが、冗談じゃあない。


「こんな!こんな!こんなことで!畜生!畜生!畜生!!」


麻酔なんてあるわけが無い、傷を一つ一つ縫う間、タオルを噛んでいたがそれでも奥歯が割れた。

体中が痛い。

燃えるように憎しみが増幅して、あの刀を振り回す男の姿が目から離れない。

一緒に走る男よりうんと小さいクセに、目にもとまらぬ流れるようなきれいな刀さばきが目に焼き付く。

血反吐を吐くようにして、寝てなんか居られずその辺の棒っ切れを杖代わりにアジトに戻った。


が、しかし、仲間の女の姿がない。

壁に、「bye」の文字が書いてあった。


「ちくしょう、逃げたわね!」


怒りをどうしようもなく、包帯に血がにじむ手を振り上げる。

気が抜けて、そのままフラフラとベッドに倒れ込み、翌日まで熱にうなされながら眠った。




数日後夕方、ようやく起きられるようになっても、酒場で飲むしか無かった。

もう金も無い、機銃も無い。有るのは地雷一発だけ。


「もういっぱい頂戴、ほら、前金でしょ。」


カウンターで、5ドル放り投げると投げ返された。


「もう止めな、あんたに出す酒はもうねえよ。

あんたに声かけた男はどこ行ったんだい?逃げられた?」


「あんな奴、……もう死んだわよ。」


マスターが、眉をひそめて離れて行く。

とんだ疫病神だとでも思っていることだろう。

酒も切れたし、帰ろうかと身体を横に向けた時、音も立てずにいつの間にか黒いスーツ姿の男が真後ろに立っていた。

女を見て無表情で、隣の席を指差す。


「なに?なによ、あたしもう金なんて持ってないわよ。」


座り直すと、マスターに水割りを一つ頼んで、滑るように左隣に座る。

30代くらいで、痩せて頬がこけている。

不健康そうに見えて、手が大きく筋肉質だ。

黒に白のメッシュの入った髪をきれいにオールバックになでつけ、神経質そうな仕草で水割りの入ったコップの水滴をハンカチで拭き取った。

すべてが音も無く滑るようで、何か普通の男と違う。

ふと、あの武器商人の所で会った不気味な黒服が思い浮かんだ。


「なに?何か用?」


「お前が地雷強盗だな。」


ザッと血が下がる。

まさか、あの怖い男に聞いてきたのかと、自分を殺しに来たのかと、蒼白の顔で返答できない。


「背に、刀を背負った男を、殺したい。」


「か……刀?ナイフ?」


「長い剣だ。背に背負って風のように早く抜き差しする。

どんなに撃っても銃の弾が当たらない……男と言っても、まだ少年だ。」


女の表情が一変した。

痛みも忘れて立ち上がる。


「あいつ?!」


わなわなと手が震え、男につかみかかるように手を伸ばす。

怒りに頭に一気に血が上り、めまいを覚えて後ろによろめき椅子に倒れかかった。

男はそれに手も貸さず、じっとただ見つめている。


「うう……つ……痛…………うう、あいつ!!

こ、殺してやるわ!!グチャグチャにしてやる!」


血反吐を吐くように、テーブルに突っ伏して叫ぶ。

酒場にいる他の客は、互いに首を振って見るなとコンタクトを取り無視していた。


「何をしてどうなったか報告しろ。」


「…………報告う??

機関銃で殺そうとしたのよ、そしたら、機関銃が爆発したの!

あのガキが剣を振って、機関銃に何か当たって、それでボカン。

あのガキ!」


「フ、フ、フ、フ、…………‥」


無表情の男から笑い声が聞こえて、思わず振り返る。

男は表情も変えず、ただ声だけが笑っていた。


ゾッと全身の血が下がる。

こんな話で無ければ、走ってすぐさま逃げたい衝動に駆られる。

だが、男は彼女に左手を差し出した。

握手らしい。

普通は右手を差し出すと思うが、戸惑いながらその手をにぎる。


「なに?手を貸してくれるの?金も武器ももう無いのよ。」


男が銀行のプリペイドカードを差し出す。


「金はこれを使え。馬付きでまともな奴を10人集めろ。

内訳は、2人ライフルが撃てる奴、2人早い馬を持ってる奴、2人ボールを遠くに投げることの出来る奴、4人馬に乗ってショットガンが撃てる奴だ。

お前は地雷を一つ持っていたな。それも使う。

アジトはこの、橋の向こうの一軒家だ。」


男が衛星通信のパッドに映る地図と家の外観の写真を見せる。

つまり、こんな物持っていると言うことは現役の軍人だ。

女は目が覚めたように、イキイキと目を見開いた。


「必ず人数用意できなくとも、それぞれ半分は集めろ。

各自慣れた武器と、持てるだけ弾も持ってこい。

集合は明後日の朝4時、先ほどのアジトだ。

ポリスに気取られるな。

裏切った奴は殺せ。」


「わかった、わかったわ。」


プリペイドカードを手に取ると、男は飲み代には多いドル札を置いて、スッと立ち上がり消えて行く。

女がそれに手を伸ばすと、マスターが横からスッと取り上げた。


「多いんじゃない?」


「口止め料さ。1万ドルくれたら人間集めてやるぜ。」


この上ない提案だが、1万は高い。


「これ、いくら入ってるのかわからないのよ。使えって言われたんだけど。」


「プリペイドか、読み取り機ある。」


マスターが、レジから読み取り機を持ってくる。

それに載せると、


「一、十、百、千、万、…………え?十万ドル??」


マスターが、数字を押して一万引き落とす。

数字がとたんに9万に変わった。


「ちょっと!何を勝手に……!」


「あんたに人集めは無理だろ?このカード、俺が預かる。

あんたは家で寝てな。

明日の夜に結果を伝える。

1人8千ドルで10人、残り1万があんただ。」


「信用……‥出来る?」


「あんた次第だ。

ポストアタッカー恨んでる奴や名を上げたい奴は多いんだよ、あんたは知らねえだろうがな。」


ハッと息を飲んで、右手を出す。

マスターがその手を握り、ニヤリと笑った。


「商談成立だ。明日の夜きな、雇った奴には明後日早朝3時半までに橋の向こう側で待てと伝える。」


女は、ホッと息を吐いて帰って行く。

マスターは、早速店員にメモを渡して、裏のルートで人集めを始めた。

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