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30、馬鹿野郎の思い込み

サトミが、大きくため息をつく。

ダンクに背中を見せて、彼の顔を見ることは出来ず口を開いた。


「ダンクは凄いな……やっぱさ、バレてるよなあ……


俺はさ、ずっと高揚してるんだ。

俺は、人を切りたくてたまらない。


性根が腐る前に軍を出ようと思ったのに……、腐る前に出られたと思っていたのに。


俺は、もう腐ってる。

芯まで腐りきってる。


性根がもう、タダの人殺しになってる。

ダメダメだよなあ。


俺、この一件終わったら郵便局辞めるよ。

ごめん、俺は、こんな仕事するべきじゃないんだ。

郵便よりも、人を殺すことに気持ちが傾いてる。


こんな事、駄目だ。……駄目だろう?当たり前だよな。

色々教えてくれたのに、ゴメン。ごめんな。」


探るように、チラリと見る。

ダンクが目を見開いて、ハッとした顔で自分を見ている。

やっぱりこんな話、言うべきじゃ無かったのかもしれない。

俺は凶悪な殺人鬼ですって、言ったような物だ。

もう、この町も出た方がいいのかもしれない。

どうにもならなくなったら、軍に戻るしか無い。


結局、軍に戻るしか…………


心が寒い。


家族はいない。


誰が俺を救ってくれるのかわからない。

自分で氷の海から這い上がる方法を探すしかないんだ。


「サトミ…………」


ダンクが、サトミの腕をギュッと握った。

ドキッと身体を硬くするサトミの身体を、引き寄せてギュッと抱きしめる。

驚いて、思わず手を振りほどこうと身じろぎしたが止めた。


ダンクは俺を殺さない。


ハグされるなんて、小さい時、母親にされて以来だ。

ビックリして、どうしていいのかわからない。

人間ってこんなに暖かかったっけ?そうだよな、生きてるんだもんな。


戸惑うサトミに、でも、ダンクはとても自然に彼を抱きしめていた。


「バカだなあ、お前はほんとバカだ。どうしようもないバカだよなあ。

バカだ、バカだ、本当にバカだ。」


彼を抱き返していいのかわからない。

棒みたいに固まってると、ようやく離れた。

ホッとすると、今度はサトミのストールを、ぐしゃぐしゃにしながら頭を撫でてくる。

ダンクは、ビックリするくらい泣いていた。


わかってくれてるのか、わからない。

同情してくれるならそれでいい。

でも、これだけは最後にして終わろうと思う。


「ごめん、俺、きっと、この件さ、俺なら方付けられるんだ。

俺なら、殺せるんだ。

こんな俺でも役に立つ。そうだろ?最後に、役に立たせてくれよ。

だから、それまで………………」


俺なら敵を全滅に出来る。


でも、言い終わらないうちに、ダンクがサトミの頭をバンバンバンバン、叩きはじめた。


「いて!いてえ!ちょ、なんだよ!」


逃げるサトミを、ボカボカ殴りながら、泣きながらダンクが追い回す。

やがて捕まって、肩掴まれて目が回りそうにガクガク揺すられた。


「馬鹿ッ!お前はっ!本当にどうしようもないバカだな!

なんでそんな風に自分を思い込むんだよ!

このことは帰ってからだ!馬鹿野郎!俺は今の全部忘れる!

みんな、みんなお前がそう言う奴だってわかってる!

だからみんな心配してるんだ。


お前がまだ俺たち信用してないのはわかってる。

でもな、お前がうちに来たのは縁だ、俺たちはお前を利用しようとか考えたこともねえ!

お前は仲間なんだ!

お前は人殺しなんかじゃねえ!もうポストアタッカーなんだからな!」


ポカンと見てると、ダンクが鼓膜が破れそうな大声で叫ぶ。


「わかったな!」


うるせええーーーー……


「うん」


「よし!行くぞ後輩!!世のため人のため!俺らは郵便を運ぶんだ!」


「…………うん」


「うんじゃねえ!はい!先輩!だろ!」


「あー……はい…………せん……ぱい……のような、感じ……」


ダンクは涙をゴシゴシふいて、エリザベスに乗り込む。

サトミもストール巻き直してベンに乗った。

なんだかこの一時で、色んな事が集中して頭が追いつかない。

俺は結局どうすればいいのかグレーになって、固まってる身体に上半身を軽く動かした。


「サトミはさぁ…………、あんま深く考えるな。

俺らだって、人は殺してきた。

でもお前はちょっとそれするのが早すぎて、気がつかないうちに心がいっぱい傷ついてんだ。


よし、まさかと思うけど、もしなんかあっても止まるなよ。

今日のミッションは『逃げる』だ。いいな。」


「わかった、守る。」


「よし、守れ!行こうぜ!」


事件のあった岩場に挟まれた道を避けて、その場を左に見ながら過ぎ、岩山を過ぎて森を左手にして走って行く。

かなり大回りだが、仕方が無い。

立ち入り禁止にはなっていないが、最近は噂を聞いて一般の人々も迂回する人がほとんどと聞いた。

この一件、なぜ早く軍が出てこないのかと、初動の遅さが噂になっている。


が、なぜかその理由が自分にあるような気がしてならない。


普通なら、あの女性2人の隊員が襲われた時に軍は出てくるはずだ。

あの時、きっと自分がここに居ることはバレた。


ボスならこう言うはずだ。

お前が一人いれば十分だろうと。


そうだ、本当に、十分なんだ。

俺なら全滅にできる。全部殺せる。


前を走るダンクの背中に、そうつぶやく。



『お前は人殺しなんかじゃねえ!もうポストアタッカーなんだからな!』



ハッと目を見開く。

顔がゆるみ、ククッと笑った。


「ダンクよ、”殺さない”方が難しいんだぜ?」


思い込みか、真実か。

サトミは結局軍の思い通りに利用されていたのだと、ダンクは知っています。

サトミを軍に後戻りさせないために、彼はずっと気にかけているのです。

そう言う友達と最初に出会えたサトミは幸運です。

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