28、隣市、デリー郵便局へ
ダンクは水曜と土曜がデリー行きだ。
水曜、また早朝から出勤する。
朝の空気は気持ちいい。
ベンも、デリー行きの日は長距離思い切り走れるので、朝から張り切っているようだ。
暗い内から起きてきて、寝室のドアを壊れそうなほどにガンガン叩く。
おかげで寝過ごすことは無いが、ベンは気まぐれだからアラームは欠かせない。
アラームを止めてベンを馬屋へ追いやり、水と飼料をやって、自分も飯を食って身支度済ませる。
馬屋の掃除とベンに鞍を乗せ、戸締まりして家を出た。
「そろそろ鍵変えるかな……帰り買って帰るか。」
大事な物って特にないけど、ココアが盗まれるとヤバい。
すぐに手に入らないから、俺はあれが無いと死ぬ。仕事に差し障る。
デリーには売ってあるだろうから、一人で行動するようになったら探しに行ってみようと思う。
とりあえず、非常時のために郵便局のロッカーに半分は移しておいた。
みんなデリー行きの前日は胃が痛いらしく、一度地雷騒ぎにぶち当たりながらもケロッとしているサトミには、早速怖い物知らずのクレイジーガイの称号が与えられた。
慎重派のガイドには、
「次、何か事件にぶち当たってもそこから動くな!」
とか、それ無理だろって言葉を頂いたのだが、まあ、衛星通信持ってるからには通報の義務はあるらしい。
「動くなは無理っぽい。……かな?」
「よし、わかった。強盗に会ったら逃げる。向かっていくな!わかったな?」
「わかった。できるだけ殺さないようにするから。」
と、キリッと返事したのに、みんな小さな声で
「ええええぇぇぇぇぇ……」
と眉がハの字になった。
なんかみんなとは多少ずれてる感じもしたが、手紙や小荷物届けるのは自分に合ってる気がしてきた。
ポストアタッカーって、結局俺らの平和利用だよなあ。
背中の刀をちょっと抜いて戻す。
「こいつがまさか、平和に利用できる時が来るなんてなあ。」
まあ、平和っつっても、うっかり殺そうとしてるけど、まあまだ殺しやってないしセーフだよな。
「うん、セーフ!」
二ヒヒと笑って郵便局へ急ぐ。
到着して、ゲートを抜けて愕然とした。
「アウトだ、ダンク寝坊してやんの。」
せっかく早く来たのに、ガッカリしながら装備を付けて、荷物半分積み込みベンとドア前の段に座って待つ。
この近くだって言ってたな。家聞いとけば良かった。
いや、家まで迎えに行くとか子供だろ。
空はまだ薄暗い。
ベンは、さっき食ってきたのに、また食える草が無いか探し始める。
飼料置き場も閉まっているので、諦めてサトミのところに歩いてきた。
フンフン、鼻息を顔に吹きかけてくる。
前髪が、青臭い息で揺れた。
「なあベンよ、お前、ここではぜんぜん喋らないよなー。」
ベンが鼻息で返事を返す。
「はらへった」
ぼつりと喋って、ゲートの方をチラリと見る。
ゲートのオッサンは向こう向いてるし、早番はまだ誰も来ていない。
自分は喋ってもいいと思うのに、ベンはなぜか郵便局では無言で通す。
家に帰ると滝のように喋るかと思うと、最近口数が少なくて寂しい。
「なあ、喋っていいんだぜ。」
「……うん」
「キャミーには先に話してるし、他の奴らも慣れるさ。
お前は俺の家族だ、お前が辛いと俺も辛い。」
ベンはわかったのかわからなかったのか、口をもぐもぐさせて頭を下げる。
遠くから早馬の音がしたので、立ち上がってベンをポンポン撫でた。
「ダンクだ、やっときた。」
「おおおおおおいい!!!サトミよおお!寝坊したあああ!!!」
「人の名前、デカい声で叫ぶなよ、バカ。」
ダンクは慌ててゲートをくぐり、転がるように事務所へ入って装備を付ける。
サトミがダンクの馬に残り半分の荷物を積んで事務所に入ると、忘れ物は命取りなので何度も確認していた。
「荷物積んどいたぜ。まあ、遅れたら遅れたで、仕方ねえよ。」
「あああああ、またデリーの奴らに笑われる。
だってよお、だって、緊張して眠れないんだよお!
サトミは?お前だってそうだろ?怖いよな!」
半泣きでサトミをちらと見る。
「さあ……なあ……」
彼は首を傾げて横に振り、ひょいと肩を上げる。
ダンクが、ぷいと顔を背けて絶望した。
「く、くそ、負けねえぞ宇宙人め! 俺は普通の人間なんだ!」
装備を完璧に付けて、デリーへ持って行く分を再確認して、局を出る。
飛ばしても馬がへたるだけだ。
いつものペースで走るのが馬のためになる。
寝坊したのは人間が悪い、それは人間の都合だ。
途中で一度休んでデリーを目指す。
最近のルートは、あの事件の起きた岩場をやめて森を迂回する道に変わっている。
岩棚を迂回するには遠すぎるので、行きは森を左に見ながら迂回する方に変わったのはいいのだが、これで余計地雷が見つけにくくなった気がする。
木々から離れたところを通るには大回りになるので、ほどほど離れて飛ばすのだが、いまいち安全とは言いがたい気がするのは、木々の間から機銃で狙われるとアウトだと思うからだ。
森の手前で、一度休憩とって一気に超えたいとダンクが言うので、サトミに異議はない。
これほどストレスになりながら、彼らは前しか見ていない。
嫌だと後ろ向きになるのは簡単なのに、その志の高さがサトミにはまぶしい気がした。
サトミはこれが2度目の荒野渡りです。
まさかまたあの地雷強盗に狙われることは無かろうと、
いや、でも2度あることは3度とか、
ダンクはストレスマックス、サトミは天気良くて良かったなあレベル。
この差は一体何だ!




