27、武器商人(流血有り)
女が地図を見て確認する。
それは、電話で指定された場所。
彼は、いつも何かにおびえているように指定場所を変える。
今日は、郊外の街道沿いのモーテル。
行ってみるとそこは、部屋の横に車や馬が横付けされる部屋だ。
先に黒い外国車の大きなワゴンが止まっていて、女は見覚えのある車に目を留め、その後ろに車を止めた。
助手席のカバンを取り、銃を片手に辺りを見回す。
不審な動きをするモノはいない。
カバンには、指定の金額を入れてきた。
後戻りは出来ない。
この金は、死んだ旦那たちが残した財産。
人から奪った金品を貯めた自分たちのものだ。
速達郵便は、金をかけて送るだけはある物が多い。
中には情報として売れる物もあるし、薬も人気があって高い金で売れる。
手紙は物によっては、ネタにゆすりや詐欺にも使えるので何通いくらで売れる。
奪えばドル箱、失敗すればケガするし運が悪ければ死ぬ。
だが、これまで全滅させられたことは無かった。
あの日、アタッカーの馬を撃ち殺したことで、その場で激しい銃撃戦になって、仲間の5人みんな死んだのだ。
その時、相手のポストアタッカーも重傷負って、結局死んだらしい。
だが、問題はそのあとだ。
仲間はポリスのモルグから無縁墓地、ポストアタッカーは殉職扱いの局葬で派手な葬儀を目にした。
確かに自分達は犯罪者だ。
だが、この違いが理不尽で、耐えられなかった。
これで怒りを感じずにどうしろというのか。
彼女たちは復讐を硬く誓い、そして武器を手に入れた。
だが、簡単で反撃に遭わないような強力な武器。
それを求めたせいで武器商人が売りつけたのは地雷と機関銃。
女手では重く、二人のうち若い方が扱うことにはしたものの、下手で、下手すぎて…………
若い子を、あそこまで惨殺する気は無かったのに…………
女がハンドルに額を押しつけ目を閉じる。
深呼吸して、身を起こした。
弱気になっては駄目だ!
車のドアを開け、周辺を警戒しながらモーテルのドアへ進む。
いつもなら、相手の部下がドア周辺に2、3人はいるのにおかしい。
どこか見えないところから警戒しているのかもしれない。
銃で空いたのだろう、古い傷と小さな穴が沢山残る木のドアを叩く。
「こんにちは、ミスタ・アイボリー。私……トムです。」
どちらももちろん偽名だ。
ミスタ・アイボリーと客のトムは合い言葉だと言われた。
少し待つ。
が、なかなかドアが開かない。
不安がよぎってもう一度ドアを叩こうと手を伸ばした時、ゆっくりとノブが回った。
「ハーイ、トム。
ここは閉店だ、他を当たりな。他があればな。」
若い男の声にハッと気がつくと、ドアが開くと同時に額に銃が突きつけられている。
「ひっ、あ、あんた誰?」
息を飲んでカバンを落とし、ブルブル震える手を上げた。
姿を見せた黒い戦闘服の男は、迷彩のストールで顔を半分かくし、目にはゴーグルを付けている。
声は軽いのに、何か重い雰囲気がゾッとさせて動けない。
引き金を引きかけた男は、女を見るとククッと笑う。
「ああ……お前か、地雷強盗。
なかなか舐めた事をしてくれる。
軍用武器の悪用は、軍に喧嘩売ったのと同じと思え。」
男の背後、部屋の中からは血の臭いがあふれだし、顔にムッと重く降りかかる。
殺したポストアタッカーの姿が思い出され、グッと吐き気がこみ上げて口を覆った。
「ククク、自分も殺しやっといて気持ち悪いかよ。
フィフティーキャルで人間撃ったらどうなるかわかるだろ?
ああ、素人にはわからねえか。
こんな物、売ったこいつが元凶ではあるからな。
まあいいや、お前を取ったらあいつにどやされる。行け」
「…………え?」
「刻まれて、精々後悔しな」
唐突にドアを閉められ追い出された。
何が何なのかわからない。
足下を見ると、バッグが無くなっている。
「バック……バックを返して!」
喉の奥に鉛があるように声が出ない。
必死で声を絞り出す。
金があれば他も探せる。
パン!
木のドアに穴が空き、ビシッと右耳をかすった。
まるで透けて見えるように、ドアの向こうから正確に一発で耳をかすめる。
耳たぶの上が裂け、血がだらりと流れた。
「ひ」
ガクガクと身体が震える。
怖い。あんな怖い男初めて見る。
ズルズルと後ずさり、ギクシャクする足で慌てて車に戻った。
「お金……あたしの……」
息を必死で吸って、パニックの頭を巡らせる。
車に乗り込もうとして、ふとワゴンを見た。
売人は死んだけど、弾と地雷は車の中にあるかもしれない。
せめて、どちらか一方だけでも……
男は部屋から出てくる気配がない。
深呼吸をして、そっと、足を忍ばせ車に近づく。
パンッ
乾いた音がして、また何かが左耳をかすめた。
耳に手をやると、耳たぶの上半分無くなって、ドクドクと血が流れている。
横を見ると、モーテルのガラス窓に穴が空いていた。
分厚いカーテンに、見えると思えない。違う、これは普通じゃ無い。
「ひ!……ひいっ!」
女は慌てて車に引き返し、タイヤを軋ませて走り去った。
女の車を窓から見送りながら、先ほどの男がため息をつく。
後ろから、同じ黒い戦闘服の部下、まだ二十歳代前半らしい青年が声をかけた。
「ジン、じゃなかった、隊長、書類と武器、死体の所持品、全部回収すみましたー。
あとはこいつの車です。」
「よし、そこの新入り、車はお前が乗ってこい。引くぞ。」
「了解ー。さっきの、なんで始末しなかったんです?見られたのに。」
うっかり聞くと、凄まれた。
しまったと、軽口の青年が思わず自分の銃に手が行く。
が、この隊長に勝てる奴はいない。応戦したらまず死ぬ。
まあ、もちろん、撃ってこないのが普通だが、
「黙れ」
パン!
この上司は簡単に引き金を引く。
にっこり笑う青年の頬をかすめ、青年がヤレヤレと手を上げた。
「こっわ、みんな最近ご機嫌悪いですよねえ。サトミさん戻ってこないかなあ、誰か無駄に死にそう。」
殺伐としたチームが、更に輪をかけて殺伐としている。
ジンが無言で部屋を出ると、キビキビと他の隊員が後に続く。
車が2台、道に出て走り出すと、しばらくしてモーテルからは火の手が上がった。




