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26、食生活

歩いていると、店の爺さんに呼び止められて荷物頼まれた。

元払いでデリーまで、手紙一通。

料金貰って、伝票書いて、手紙に速達シール貼って荷受け袋に入れて馬の横に提げてるカバンに入れる。


「一度、荷受け忘れて夜中思い出してさ、朝一番に出て何でもなかったけど、それからこの荷受伝票と一緒に荷物も渡すようにしてる。

忘れるのが盗られるより百番ショックだ。」


「なるほど、俺もそうする。で、ダンクとガイドのオッサンは盗られたことあるの?」


急にダンクが渋い顔になった。

思い出したくも無いんだろう。


「仕方ねえ……話すか。

ガイドは馬がこけて足折った時、俺は…………ちょっと…………トイレ…………」


「は?聞こえねえ」


「トイレだよ!荒野でウンコして帰ったら荷物無かったんだよおおおおおおお!」


「そんな、でかい声で言わなくても聞こえてるよ。」


サトミの眉がハの字になって同情してくれている。

だが、気がつくと周囲の通行人が、ほぼみんな失笑していた。


ヒヒヒヒン


なぜか、サトミの馬がいななき、ダンクが帽子を取って、顔を隠す。


「くそっ、また、かかなくていい恥かいたっ!」


「でもよう、出してる最中に撃たれるよりマシじゃん?」


ひょおおおおおぉぉぉぉぉ……


ダンクがちょっと引いた。


「お前、なんて怖いこと言うよ。

俺できればウンコはふいて、パンツはいて死にてえ…………」


「まあ、死んだらわかんねえし。」


ざあああああああぁぁぁ


またダンクが引いた。


「お前……そう言うシチュエーションで……殺った事……あるんじゃね?」


怪訝な顔で、そうっと聞いてくる。


お、また喋りすぎた。


「まあ、出す話より食う話しようか。腹減ったし。」


「ちぇっ、話変えるかよ。

じゃあ、昼飯にバーガー買って帰ろうぜ。場所知らないんだろ?」


「そう!それ!俺食った事無いんだ、そのバーガーって奴。

人に聞いた事はあるんだけど、一度食ってみてえ!」


「マジかよお前、いったいどんな生活してんだよ?

軍だって休暇あったろ?外も出なかったのかよ。」


「そうだなあ……

まあ、そう言う奴もいるってことさ。」


自由時間なんて、名前だけで実質無かった。

外に出る時は監視付きだ。

監視殺して逃げてもいいけど、自分の意思で殺しやる事だけはしたくない。

得物が知られるのはまずいと、外出前に刀は没収される。

イヤなことばかりで、外に出なくなった。


だから、作戦で外に出られるのは楽しみだった。

それがたとえ殺しでも…………

ボスはそう言う自由の無い焦燥感も、上手く利用していた。

いや、上手く利用されてしまった…………胸くそ悪い。




ふうんと今度はダンクが同情してる顔をして、何度もうなずく。


「まあさ、エジソンもそんな感じだったよなあ。

バーガーって言葉も知らなかったからな。

あいつコーラを初めて飲んで、ゲップでゲロッたんだぜ?大騒ぎしたな〜。」


「コーラか……コーラは昔飲んだ事あるなあ。

軍の食事は決まったメニューのローテーションだからさ、その中でなんかちょっぴり楽しみ見つけなきゃ、やってられねえ訳よ。

俺は水曜日の不味いポテサラだけが楽しみだった、あれにちょっとソース落として食うんだ。

水曜日、ラッキー水曜日……」


あのポテトサラダだけは、また食いてえ……

町で買ったマヨネーズは、外国製で美味すぎてあの味ができない。

美味すぎって……あれ普通の普通だろ?

……なんだよ、一体何でできてんだよ、この国のクソまずいマヨネーズ…………


「お前……なんか、寂しい食生活だなあ。

うう……サトミようぅぅ…………今日の昼飯おごるぜ。好きなだけ食え。」


「お、おう、サンキュー」


なんか知らないが、ダンクがほろりときてサトミが目を丸くする。


そうか、俺の食生活はやっぱ最悪だったのか。

通りでシロイ亭のメシが高級料理に思えたはずだ。

こんな町で高級料理なんてあるはずもねえ。

つまり、戦時中の食事なんて、軍は大所帯養う金も無くて最悪だったって事だ。

まあ、俺はそんなところで成長期の4年いて、そんなところから退職金に口止め料までもぎ取ったわけだからラストで逆転ホームランという訳か。




2人、馬に乗ってバーガー屋に向かう。

バーガー屋は郵便局のすぐ近くで、局員目当ての気のいい夫婦がやってる小さな屋台だった。

初めて食べると聞いて、旦那さんが何サービスしようかと聞いてくれるので、バンズだけ食べてみたいと言ったら、具じゃなくてパン欲しがる奴は初めてだと笑われた。

切り方失敗したって奴、一個貰って食べてみる。


「あれ?この匂いとほんのり甘いの、俺んちの近所のパン屋の味だ。」


「へえ、ミス・マリーの店知ってるんだ。パンはあの店が一番さ。」


「ああ、しばらく見なかったら、マリーねえちゃんがミセスになってた。

店の名前、詐欺じゃんって言ったらトレーで殴られた。ひでえ」


ドッとみんなで笑う。

サトミはなんだか子供の頃に帰ったようで、とても気持ちが安らいだ。

こう言うのも、いいなぁと思う。


「まあまあ、そう言うな。ほら、出来たぞ、毎度!また来てくれよな。」


「もちろん、これからよろしく。」


コーラとバーガー、ダンクのおごりで買って帰る。

しかし温かいバーガーも、戻って馬の世話と伝票渡しと精算の説明聞いてたらすっかり冷めていた。

まあ、それはダンクも同じだし、これからはもう少し手際が良くなって温かいバーガーも食えるようになるだろう。

パクリと食いつくと、確かに暖かくない。

しかし、それに負けないほど、冷めてもバーガーは怖いほどに美味かった。

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