25、ガイドとリッター
「ありがとう、ありがとう、助かるよ。助かった、ありがとう。」
爺さんが、サトミの手を握って握手する。
サトミが困った顔で引きつって笑い返し、サイン貰って頭を下げダンクの元に戻った。
「お疲れ、ヒヒヒ、なんかずいぶんお礼言われてたなー。」
「うん、ビックリした。」
ダンクがサトミの頭ぐりぐり撫でる。
二人笑い合って、次の配達先に急いだ。
「小荷物な、ここ、ここにサイン貰って。
着荷拒否とか、一旦引き取って戻しの時はここな。
荷物のここに自分のサイン、これ領収になるから、戻しの時はこの領収書あるか確認。
無かったらしょうがねえべ、局で送り状再発行するけど、戻しのサイン無いと事務処理うるせえから。」
「あ、こっちじゃ無くてこっちか。俺のサインが荷物か。」
「サインはサトミが配ったとわかればいいんで、Sでオケー。」
「了解」
説明聞きながら、やがて午前中最後の郵便を配達終わり、町中で馬を引いて歩きながら話す。
伝票の使い方、相手の確認の仕方、いろいろ器械の扱い方、覚えることが山ほどあってウンザリする。
ダンクは郵便局の近くに1人で住んでるらしい。
両親は戦争で死んだから、生きてる可能性があるのは羨ましいと言ってくれた。
サトミの家は知ってると話し、みんな、どうかうちに来てくれと切実に願っていたんだと笑った。
リッターの喜びようもわかる。
「まあ、この仕事、喜んで貰えるばかりでも無いんだけどよ。
いい知らせもあれば悪い知らせもあるからな。
一番ガッカリするのが着荷拒否な訳よ。突っ返されるこっちの身になって欲しいわ。
あと、相手ヤバそうと思ったら、住民IDカードと指紋で局のサーバー介して本人か役所に照会出来る。
ただ、衛星通信は使用料高いからあんま使うなって言われてるけど、間違っちゃなんもなんねえから気にすんな。
どうせ軍用衛星の端っこ借りてんだ。
ちなみに俺らの中で一番使ってどやされてんのリッター。ヒヒヒ……」
「あー、なんかわかる。」
だってえ、間違えたらやだもんさああ……
リッターのそんな声が聞こえる気がした。
「でもさ、リッターはあれでもやっぱポストアタッカーじゃ凄いんだ。
これまで一度も盗まれてないの、あいつだけだぜ?
ただ、殺すのどうかしたいって、いろいろ弾試してたけど、でも相手は命知らずのゲリラ戦やってた連中だろ?
駄目なんだよな。
最近馬を若いのに変えて、逃げるに徹するって決めてんだと。
まあ、それでも支給の弾、減ってるから撃ちまくってるんだろうなあ。
見た目ひょろっとして弱そうだろ?盗賊に狙われやすいんだよ。
つか、盗賊もあいつからいつか取ってやるって、意地になってんだよな。」
「まあ、ショットガン使ってたら、当たれば強盗も死ぬよな。」
「そうだな……、賊の致死率高えのもリッターだし…………。
リッターは、だから自分は一番恨み買ってるってわかってるから怖がるのさ。
あいつ、賊たちからファッキンバニー言われて、何で俺がウサギ?って、めっちゃ怒ってやがるの。ハハッ
ひょろっとしてるし、なんか女っぽいもんな〜……って、言っちゃ駄目だぞう。」
うーん、ウサギの心臓は牙剥くと怖い。
「ガイドって、エクスプレスのリーダー?」
いつも、局長に報告行ったりするのは彼のようだ。
責任感があるのか、事件あると必ず残って詳細まとめて局長に報告している。
「ああ、ガイドは一応俺らの班長さ。エクスプレス班の長。
一番長くて、戦中は戦場を突っ走ってポストアタッカーやってた、すげえ人。
一応ってのは、まだ正式じゃ無いんだ。
ほんとの班長は死んだばかりだからね。
キャミーとガイドのどちらを班長にするか、この地雷強盗の件で結論が出てないんだ。
もうさ、俺たち今、誰が死ぬかわかんねえ感じだろ?
リッターもガイドも家族いるし、もう毎日ヒヤヒヤしてる。」
ヒヤヒヤか、それでも俺に前に出るなと言うんだから、わからない。
「なんでやられる前にやらないんだ?
問題があるならクリアーすればいいのに。」
「あのなあ、俺たちは郵便局員なんだよ。
そう言うドンパチは本来ポリスの仕事なんだ。
軍はポリスの依頼受けて出てくる。
俺たちはやられたら応戦する権利は許されてるけど、こっちからやる権利は無いんだよ。
お前ほんと手が早いよなあ。」
「めんどくせえ……」
「面倒くさくないの!これが普通!」
普通の世界は仕分けがはっきりしすぎて理解できない。
誰が殺したって死ぬのは一緒じゃん。
「うーん、なんで軍は出てこないんだろうな。」
「わからねえ、戦後はすぐに処理に来たらしいのに。
うちの局長もポリスに直接何度も行ってるし、凄くデリーの方も抗議入れてるらしい。
あっちは二人死んだし。
これじゃあ、速達業務が破綻しちまうよなあ……
ま、破綻させねえけど。」
みんなギリギリの中で生きている。
そしてそれでもこの仕事に命を賭けている。
サトミはダンクの腕章を見て、自分の腕章も見る。
ダンクがその様子に、ニヤリと笑ってサトミをのぞき込む。
グッと目の前に親指を立てた。
「俺たち、カッコイイっしょ!!」
その自信はどこから来るんだよ。
サトミはプッと吹き出し、親指立ててうんと返事した。




