24、見習い期間
事務所に戻ると、ダンクがガイドのおっさんと相談している。
帰ったと思っていたのに、ガイドはちゃんと残って2人を待っていた。
ちょっとマズイと思う。
2日目なのに、すげえマズい。
昨日なんて言われたっけ。
チラリと見ると、思い切りガイドのおっさんがにらみ付けている。
目をそらすか、にらみ合うか、迷いに迷って目をそらした。
「俺は手を出すなと言ったはずだがね。」
「出さなかったよ、だから誰も死んでないだろ?」
ああ、マズい。言い返してしまった。
「そう言う事じゃなくてだな…………、奴らに鉢合わせても手を出すなと言ったはずだがね。」
「わかってる。だが、俺が出ないと軍の女2人は死んでいた。
俺は……そうだな、彼女たちを見捨てることが出来なかったんだ。」
ウソだけど。
誰が被害者でも構わない、生ぬるい日々に一戦やりたかっただけだ。
ガイドが大げさに手を上げた。お手上げって奴だろう。
「はっ!ウソつくな、やり合いたかっただけだろうが。
まったく話にならないね。
リッターが言ってたぜ、お前はヤバいってな!
ああ、まったく、心配してた通りの奴だ。」
ガイドが大きくため息をついて、肩を上げ首を振る。
「機関銃の弾、一発当たればどうなるかは、お前さんがよく知っているはずだろ?」
「それは、当たればね。」
「怖くないのか?!当たるのが!」
「すまない、俺は怖くない。」
呆れて、ダンクとガイドが顔を合わせる。
ダンクが、ため息をついてがっくりとソファに座った。
「ダンクよ、俺のキャパ超えてる。理解不能だ、どうしたらいい?」
さすがにガイドがギブアップした。
ダンクがサトミの腕を掴み、一緒にガイドの向かいに座る。
部屋には重い空気、と言うより何か言いようのない戸惑いが充満している。
俺を理解するには、きっと時間が必要なのだろうと思う。
「どうしたらいいんだろうなあ…………なあ、サトミよ。
俺たち、普通すぎてお前に追いつかねえわ。
お前さ、機銃の弾切りまくったって?ポリスがビックリしてたってさ…………
んー………………‥
うーん、俺たちには……そう言うの考えも付かないからさ……つまり、戸惑ってるんだ。」
「……普通って…………普通って、なんだ?」
普通って、一体何だろう。
これが俺の普通なんだ。どうして弾を切ったら戸惑うんだ?
ダンクが、顔を覆ってため息をつく。
「そうだなあ……なあ、サトミの能力が高いのはわかるよ。
でも、俺たちはお前が心配だ。
今までは軍がバックに居て不安はなかっただろうけど、今はお前の後ろを守る奴はいないんだ。
俺は、見習い期間終わったらいないんだぜ?一人で対処しなければならない。」
「わかってる、心配するなとは言わない。
でも、心配は無用だ。どう言えばいいのかわからないけど……
こう言うの、信用って言うのかな?なんて言うんだろう。……よく、わからない……」
サトミが渋い顔でうつむく。
わかってる、自分はちょっと普通と違うって言うことも。
刀で戦ってる奴は見たことが無い。
みんな銃だ、俺も別に銃が使えないわけじゃない。
……‥刀は、俺の手の延長だ。
でも、俺が刀で戦うことで、どこか人と考えにズレが出る。
リーチの短い刀でも、これまで普通に戦えて普通に殺してきた。
普通の世界は、いちいち理解されないと生きていけないのだろうか。
でも、どうやって信用させたら説得力があるのかもわからない。
今までは結果を出せば理解して貰えたのに、こういう時、どうすればいいんだろう。
ああ…………駄目だ、
やっぱり、普通の所に勤めるなんて、所詮…………
突然、バンッとダンクが膝を打った。
驚いて、他の2人が顔を上げる。
「よし!俺がしばらく付き合う!
ガイド、いいな、こいつの独り立ちは一週間待ってくれ。
こいつはスキルはあるけど、中身が未熟だ。
閉鎖されたところに長く居たんだから仕方ない、こいつは外の世界を知らなすぎるんだ。
こいつは一人でもやっていけるだろうけど、きっとそれはただ死体を増やすだけだと思う。
でも、ここは郵便局だ、もう軍じゃ無い。
この外の世界に慣れるまで、これはリハビリ期間だ。オッケー?」
「わかった、その方が安心できる。
俺はもう、あんな物見たくないんだ。笑って仕事したい。
リッターも同じだ、いいか?良く聞けよ?
お前の思ってる信用は、俺たちが普通思う信用とは全然違う。
信用は、信頼が先に有る。突っ走って一人でやり合うのは信頼を得るものじゃ無い。
助け合うという言葉をもう一度考えるんだ。いいな。」
「すまない…………よく、わからない。でも、何とかする。」
俺は、俺が比較的信頼していたのは、チームの一人ジンだけだった。
でも、あいつ自身が身の危険を感じると、他は簡単に見捨てられる。
一度撤退が遅れて俺たちが荷物だと感じると、あいつはすぐに銃を向けた。
俺には当たらず結局諦めたけど、そんな関係だ。
他の奴なんて、もっと信用できない。そんなところに普通に暮らしていた。
それは異常なことで、普通じゃ無いんだろう。
うつむいていると、バンッと背を叩かれた。
避けることは出来るけど、ここでは避けないようにしている。
それが、普通なのだろうと思うから。
でも、人に気軽にさわられるのは、本当はとても怖い。
「よし!サトミ、この俺とあと一週間の付き合いだ、イヤとは言わせないぞ、よろしくな。」
ダンクが手を差し出す。
サトミはどうしていいかわからず手を出すと、グッと握られた。
ビックリした。その、力強さが、気持ち良かった。
ダンクの笑い顔に、笑って返せる。
俺は今、きっとダンクに借りが出来た。それはいつか、きっと返せると思う。
「よろしく、先輩。」
「おう、面倒見てヤンよ」
こうして、鉄砲玉のサトミを心配して、結局次の1週間も見習い期間でダンクと同行することになった。
ダンクは気さくな青年で、若いのに涙もろい。
彼とは以外と気が合って、いい友達になって行った。




