23、鰐切 雪雷
トラックが、アジトのバラックに戻って運転席から作業服姿の女が出てくる。
荷台の民族服の女は、荷台に這って歯を食いしばって泣いていた。
「なんで!なんであの時急に!
あんたがあの子を見殺しにしたのよ!
もう生きちゃいないわ!きざまれて野ざらしになってるわよ!」
「だって、あいつらの一人が向かってきたのよ。
銃は当たらないし、あそこでやられたら残りはどうするのよ!
5人よ!あと2人は絶対仕留めるわ!」
「もういやよ!もうイヤ!
あの子を返してよ!返してよおおおお!!」
荷台に突っ伏して泣く女に、年配の女はウンザリした顔でタバコに火を付ける。
煙を吐いて、腕を組んだ。
「どうせ終わったら死ぬって決めたじゃない。
全部売り払ってこれだけ手に入れて、あたしらにはもう、何も残ってやしないんだよ。
あいつらをメチャクチャにして、見る影も無くしてやるわ。
旦那達撃ち殺した事を後悔させてやるのよ!」
「盗賊なんか……・盗賊なんか、足を洗えば良かったのよぉ!」
泣き叫ぶ女にウンザリした顔で灰を落とす。
「あーあ、あーあ!
あんた駄目だ。戦後ってのはこんなに甘ちゃん増えるのかしら。
あんたねえ、賊の女やる覚悟が足りないんだよ!」
何か言い返そうと、顔を上げた荷台の女を銃で殴る。
頭を押さえてひっくり返った身体を、足で何度も蹴った。
悲鳴を上げていた女が、身体を丸く、どんどん小さくなって行く。
「助けて、やめてよ、お願い、お願い、なんで!なんで!!」
女は蹴られながら、必死になって荷台から転がり落ちる。
蹴っていた女は、ため息交じりに煙を吐き荷台の縁に座った。
「地雷はあと一つか・・下手くそ、バンバン撃つから弾もあと2帯しか無いじゃない。
武器商人に弾と地雷、売って貰わないと。
2,3人雇って・・・・もっと使える、ものわかりいい奴。
そうね、軍上がりのぶらついてる奴っていないかしら。
ああ悔しい。
あの時間、いつもならあいつら通り過ぎたあとなのに、軍のいい車盗り損ねたわ。
ねえ見た?邪魔したあの長い剣持った奴、今どき銃も持ってないなんて、いい標的じゃない?
あたし武器調達してくるわ、あんた町に出て誰か雇ってくるのよ。
いいわね、使えそうな奴連れてきて。あたしが雇うかは決めるわ。地雷の事なんか言うんじゃ無いわよ。」
「わかった。」
「あんた、残りの金持って逃げるんじゃ無いわよ。見つけたらこの機銃でバラバラにしてやるんだから。」
「わかってる、わかってるわよ。怖い事言わないで。」
「まったく、頭はなんであんたみたいな女が良かったのか、さっぱりだわ。
じゃ、ね。」
女はそう言い捨てて、車を出してどこかへ消えた。
サトミ達はあのあとデリーに急ぎ、無事に帰って午後は3局まで走った。
土曜なので局は午後から休みで当番しか残っていない。
朝っぱらから色んな事がありすぎて、気が重いダンクはなんだか通常の3倍くらい疲れて事務所に戻り、エジソンはデリーから帰ったらすぐに自分の部屋に戻って行く。
エジソンが、柄を見たいというので、無人になった荷受所の広い台の上で、刀を分解して見せた。
色々サイズを測って、柄の装飾を写真に撮る。
「どれも美しい……、その、鞘って、大きいんだね。」
刀の鞘は大きめで長く、下に留め具があるので何か仕掛けがあるように見える。
持ってみたいと言ったら、ダメと言われた。
「下に物入れあるんだ。秘密のね。」
クスッと笑って見せてくれない。
もう少し、サトミと仲良くなる必要があるようだ。
無理強いはしない。
やがて計測が終わると、器用に素早く組み立て、鞘に戻してまた背負った。
「ありがとう、刀のこと、少しわかった気がするよ。
僕は軽率だった、謝罪するよ。
今日はこの子が人を傷つけることは無かったけど、これは武器なんだ。
それじゃ、今日はお世話になりました。」
ぺこりとサトミに頭を下げて自分の部屋に行きかけ、そして走って戻ってきた。
「サトミ、聞いていいかな?
日本刀には名前が付いてるんだろう?
君の刀、名前はなんていうの?
俺さ、…………ダンクには言わないでくれる?
俺……君の刀さばきは美しい。僕、……僕は、ファンになったよ。」
サトミが苦笑する。
ファンになったなんて、はじめて言われた。
「こいつの名、鰐切の雪雷って言うんだよ。
ワニキリが作るおっさんの銘、セツライがこの刀の名前。
Cut the crocodileが銘で、Snow thunderが名前。」
ヒュウッ!エジソンが、粋な口笛を吹いてパンと手を叩く。
「いい!いいね!僕はそのセツライを美しいまま改良することを誓うよ。じゃ!」
手を上げて戻って行く。その背中を見ながら複雑だった。
「美しいだろ?でもさ、これは人を殺すんだ。でも……
こう言うこともあっていいさ。なあ、雪。」




