22、軽装甲車
サトミが捕らえた少年を後ろに乗せて、ベンを今回の地雷被害者の元へ走らせる。
ずいぶん離れてしまったが、岩場の間の道に出ると、真ん中で装甲車が爆風で横向きになって止まっていた。
装甲車のドアには、見慣れた師団のマークと2の数字が見える。
「あれ?これ第2師団の軽装甲車じゃね?
お前ら今度は軍に手ぇ出すつもりだったわけ?命知らずだなー。
もしかして運転手殺して装甲車手に入れようとしたか。
トラックボロだったからなあ。
なあ、なんで強盗から殺しに目的がすり替わったわけ?
強盗なら殺すか殺されるか、奪うか失敗するかだけだ。
強盗で反撃されて殺された復讐なら、お前ら覚悟が足りねえよ。
復讐するほど惜しい命なら、強盗なんかせず働け。
クソ野郎どもにはわからねえだろうが、強盗は仕事じゃねえ、犯罪だ。
ポストアタッカーが、なんでこんな危険な目に遭ってもいまだ変わらず郵便運んでるのか、お前ら虫の沸いた頭には考えもつかねえんだろうさ。
仲間がミンチにされて帰ってきたのを見ても、その恋人がショックで自殺したのを聞いても、奴らは復讐を考えてないんだ。
甘い腰抜けだと思うだろ?俺も思うさ。
でも、だからってあいつら弱いわけじゃねえ。
これが、あいつらの『志』なんだ。
人が人に殺されるの見たくない。それが戦後の世界で普通なんだ。
お前達はそんな普通の普通に生活して働いてる人間を、殺して荷物奪って血だらけの腕章掲げて喜んでる。
お前達は、いったい何だ?」
「ううう、ううっ、うっ、ひっく、うっ…………」
「泣くくらいなら、馬鹿な母ちゃん死んでも止めろ。バーカ。
あんな機関銃持ち出されたら、止めるには殺すしかねえじゃないか。」
エジソンとダンクが、装甲車から少し離れた場所で馬から下りて立ち尽くしている。
「ダ、ダンク……サトミ、生きてるよ。生きてる!」
震えた声で、エジソンが叫ぶ。
「1人確保した、車はどうだ?」
捕まえた奴地面に落として聞いたが、ダンクは無言だ。
後ろ向きのダンクに、エジソンが弱々しい声で返してきた。
「ごめん……怖くて、車を覗けないんだ……」
「わかった。」
震えているエジソンに、手を上げて車に行く。
死んでるかもしれない、ベンから降りて車を覗く。
すると女性が2人、座席で銃を握り、ヘルメット押さえて伏せたまま凍り付いている。
「ちわ、ポストアタッカー見習いだけど、無事?」
ガラスが無くなった窓から少し離れて声をかける。
パニック起こして撃ちまくると面倒だ。
女性達はガタガタ震える手で銃を握っている。
軽装甲車は重い防弾ガラスじゃない。
普通の車に、毛が生えたほど装甲強化してあるだけだ。
ガラスが吹き飛び、彼女たちは粒状ガラスを浴びている。
助手席の女性の背には赤十字。
医療関係者か。
サトミが腕の腕章指差しながら両手を挙げると、弾が貫通した手の平から血を流して血だらけの銃を下ろし、ポロボロ涙を流して泣き出した。
中で結構ベアリングが跳んだのか、2人とも防弾装備はしていたらしくジャケットの背中に結構穴が開いている。
ヘル押さえていた手には穴は開いたけど、元気そうだ。
「あんたら運が良かったなー、装甲車じゃ無ければ今ごろ穴だらけだぜ?」
右の運転席側のドアはボッコボコにへこんでいる。
まあ、一応でも装甲は有効だったと言うことか。
地面に接地してあったので、角度的に中の人間に当たらなかったのだろう。
タイヤは強化タイヤなので、多少弾が入っても走行出来る。
車載無線で軍とポリス両方に連絡して、捕まえた少年を車に放り込んだ。
「こいつの聴取は任せるよ、軍かポリスかしらねえけど。
吐いた情報提供よろしく。
情報共有ゼロとかふざけたことしやがったら、その首……あ、そうか。俺一般人だった。」
どうも忘れる。
「あの、言っておきます。
ありがとうございました。第2の救護業務班の者です。
ロンドの病院に用があって……地雷強盗がいるから装甲車で行けって言われてたけど、機関銃出てきたときはもう駄目かと……助かりました。」
ため息交じりで涙をふきながら弱気で喋る救護班の女性兵士は、ギクシャクと車から出ると足が震えている。
まあ、地雷のあと機関銃突きつけられたら死を覚悟するだろう。
「このくらいで腰抜かすなよ、訓練足りねえよ。」
「すいません、戦後入隊でこんな目に遭うの初めてで……」
「ヒヨコか〜、こんなの1人で出すなよなー。
興奮状態じゃ気がついてないケガもあるから、ちゃんと身体見ろよ。」
「は、はい!ありがとうございます!
あの、お前は?」
「あー、ポストアタッカー見習いで。俺のこと上に詳しく言うな。」
「ハイ!失礼しました!」
サッと敬礼で返し、あれ?なんで一般人の年下に命令されてるんだろうと、ふと思い出す。
トラックを追っていったときにチラリと見た彼の長い剣が、変わった剣だなと印象に残った。
「よう先輩、とりあえず処理完了。あと任せて先行こうぜ。」
無言で後ろにいるダンクは、うなだれて立ち尽くしている。
通常は机に張り付いているエジソンは、何度も何度も深呼吸繰り返し、落ち着きを取り戻そうとしていた。
サトミが2人の元に行くと、ダンクは目を真っ赤にしてサトミの胸にドンと拳を当てる。
エジソンがビクッとサトミの顔を見た。
「……なんでっ!……なんで向かっていくんだ!
サトミ、俺は、言ったはずだ!…………ろ?」
「悪い、機銃が向こう向いてたからな、いっそ前から突っ込んだが安全と思ったんだよ。
俺が突っ込まなきゃ、あの2人は死んでた。
ダンクよ、お前が言ったじゃないか、もう死ぬのは見たくないってさ。
俺はそう言うの、もう麻痺してんだ。
俺は人のために泣けるあんたが羨ましいよ。」
「お前なあ、まだガキのくせに、なんでそんなこと言うよ〜。
だから……だからさあ、少年兵なんてクソ食らえなんだよ。
軍なんか、大っ嫌いなんだ!」
ああ……そうか、もう一人の少年兵ってのはダンクだったのか。
「なあ、もっとよう、命大事にしてくれよ、サトミ。
俺たち、もっと違う生き方見つける入り口に立ってんだよお。」
「僕……、僕も……なんか、もっと考えるから。」
「ごめんな、二人ともごめん。」
ダンクとエジソンの肩を叩き、空を見上げる。
岩山の上に、話しに聞いていた黒いシミだらけの赤いポストアタッカーの腕章が3つ、棒に結ばれ風に揺れていた。




