21、強盗犯は素人
出発して悶々としながら先を急ぐ。
時間が遅れ気味だが、デリーを早めに出て調節するらしい。
もうすぐ例のポイントだ。
ダンクがこちらを振り返り、目が合うと首を振ってうなずく。
止まるな、と言う合図だろう。
サトミは諦めて、片手を上げて返した。
バーーーーンッ
その時、突然、爆発音が響いた。
何度も音が反響してあとの音が聞こえない。
岩棚の向こうに白煙が見える。
ダンクが身を起こし、愕然と馬の速度を落とした。
「なんで?!」
まさか・・・!襲われるのは荷物の多い帰りじゃ無かったか?
朝はこっちからで、デリーからは無い。一般の輸送もまだ時間じゃない。
やられたのはポストアタッカーじゃ無いはずだ。
一般人か?まさか、一般人をやりはじめたのか??!!
「ベン!」
サトミが一気にスピードを上げて、呆然と先を見つめるダンクを追い越し岩場に向かう。
「駄目だ、新入り!駄目だ!!サトミ!止まれ!サトミ!!行くなーーーー!!」
ダンクの声が、ベンの駆ける音にかき消された。
小型のトラックが、隠れていた岩山の陰からこちらへ走ってくる。
道に出ると、被害者に機関銃を向けるはずだ。
まだこちらに気がついていない。
荷台には小柄の若い男と3,40くらいのどこかの民族衣装に頭に女物のスカーフをかぶった女。
民族衣装の女はまだ機銃に慣れてないのか、一挺の重機関銃を構えてトラックが弾んだ瞬間、岩壁に向けて数発撃ち、あらためて被害者に狙いを定めていた。
撃たせるな
心でそう、何かが叫んだ。
あの、被害者の写真が心に浮かぶ。
運転席の、目つきの鋭い年の行った女が、こちらに気がつき窓から銃を出して撃ってくる。
ベンを左に流し、背の刀を抜いて、銃の弾を切って捨て、避ける。
荷台の女が重機関銃をこちらへ向けようとするが、運転席が邪魔で狙えない。
サトミがどんどん車に近づく。
1発も弾が当たらない事に焦ったのか、サトミの目前で女はトラックを急加速してUターンし、小柄の男を振り落として逃げ出した。
荷台でひっくり返った女は、その振り落とされた男に必死で手を伸ばす。
落ちた男にどんどんサトミが近づき、焦った女が荷台の機関銃をサトミに向けた。
タタタタタンン
それは空からサトミにと、無駄に撃ちながら次第に銃口を合わせてくる。
男は子供か、当たるのを恐れているのだろう。
背後にエジソン達の気配を感じる。
自分が避けたら当たるかもしれない。
切って落とす。
瞬時に判断して、反射的にベンを左に流し、サトミが刀を返して下段から左上へと振り上げた。
カカキンキンキッキン
見えない早さで切っ先が弧を描き、そのまま右へ振り下ろす。
ギッキキンッ!キンッ!
それは単調なリズムで、刀にことごとく切られて数メートル先に落ちる。
連続した金属音があたりに響き、男が地面で寝そべったまま呆然と見上げる。
やがて、弾が切れたのか、空撃ちの音が響き始めて消えた。
下手の上に焦っているから無駄撃ちが多い。
一帯数十秒で終わるような物だ。
軍人なら弾帯を瞬時に交換できるが、恐らく数が限られた弾に1オペ1帯と決めてるのだろう。
間髪入れず、後ろから銃の音がする。
振り向くまでもなく、すでに追い越した男が背後から援護しているのだ。
それでも、この先に逃げるトラックに当たるのが怖いらしく、空へ向けて何発も撃ちまくっていた。
「チッ、まったく素人が好き勝手撃ちやがって、あれの射程どれだけあると思ってやがる。
ダンクは知らねえが、エジソンに避けるスキルはねえよ。」
トラックはそのままどんどん小さく、荒野を走り去っていく。
「追うか?」
速度を落とし、ベンが言う。
「いや、さっき落ちた奴捕まえる」
「よし」
ベンが速度を落として向きを変える。
銃を片手に走って逃げる小柄の男に追いつくと、刀を直しスライム銃を握った。
「おーい、止まれ〜」
声をかけたが、止まるわけない。
左手でポケットからアメ玉を一個取りだし、男の後頭部に指で撃ち込んだ。
「ぎゃっ」
よほど痛かったのか、一瞬足が止まる。
ドンドンドンドン!!
撃ったスライム弾が男の尻に命中し、尻でカプセルが破裂して股に流れて固まり、足をもつれさせて転んだ。
「くっくそっ!」
慌てて立ち上がろうとしても、すでに両足がくっついて離れない。
目の前に来た馬の足に、絶望した顔で見上げた。
「よう、クソ野郎。ご機嫌いかが?」
サトミがスライム銃を肩に乗せて、暗い顔でニイッと笑いながら見下ろす。
「ひいっ!」
男はまだサトミと同じ年頃だ。
恐怖に耐えかね、銃を目鞍滅法発砲する。
が、サトミはベンを引き左右に避けただけでかすりもしない。
「諦めなよ、それじゃ当たらねえ。」
息を飲み、諦めて銃を地面に置き、ガタガタ震えながら手を頭の後ろに組みじっと地面に伏せた。
「へえ、物わかりいいじゃん、お前の状況判断は正しい。」
ベンから降りて、一旦銃を蹴って離し、拾って腰に差して、男を膝立ちさせた。
ボディチェックしてシャツをズボンから引き抜き、半分脱がせ、頭を抜いて後ろ手で引き裂き縛る。
スライム銃のスライムは、驚くほどよく固まっている。
水に溶けやすいらしいけど、顔に当たったら窒息するかもしれない。
男のズボンのベルトを外して引き抜いて足を縛り、下着をナイフで破って脱がせ、口に猿ぐつわを噛ませた。
舌噛まれると自供が遅れる。
何か情報は欲しい。
足首に仕込みは無いか確認し、かかとを抜いて靴を脱がせ裸足にした。
「うーん、普通こう言うのどうするんだろう。
普通ってのは拷問とか自白剤とか、普通は、普通しないんだよなあ。
手っ取り早いのに。」
「むぐーーーっ!ヒイヒイ!」
男がジタバタする。
無駄に怖がらせてしまった。
「あー、悪い。いやいや、俺は一般人だし。
うん、俺は一般の普通人だし。
大丈夫だ、人権って奴?生ぬるいけど、まあ、ポリスに預けかな?
さて、お前らがミンチにしようとした奴のとこに行こうぜ。
蜂の巣かもしれんけど、てめえらでやったこと良く見るんだな。」
とりあえず男のズボン掴んで、軽々と掴み上げる。
ベンに乗せて、自分も乗って地雷の被害者のところに走った。




