16、武装盗賊
「ダンク、昼から個別配達だっけ。
サトミ、付いてったらどう?」
「おう、今日は昼から配達少ないから来いよ。先輩の愛され勇姿を見せてやらあ。
明日は6時集合な、遅れたら先に行く。
泣きながら追いかけろや、まあ、あのロバじゃ無理だろうけど。」
ヒヒヒと笑い、ビンを洗ってコーラ瓶立てに入れる。
「あれ?ここってコーラ売ってんの?」
「いや、近くにバーガー屋があるのさ、そこがコーラ売ってんの。
ここから買いに行く奴多いから、瓶回収に週一で来てくれる。
知らないなら教えてやるよ、その店のヤキトリってバーガー美味いんだぜー。
なんか〜、甘くてしょっぱい鳥焼いて、パンに入れてあるだけだけど。」
「ふうん、バーガーか……ふうん……」
バーガーって、美味そうだったな。
口は悪いが、でもまあ、悪い奴じゃなさそうだ。
ベンに蹴られたら笑ってやろう。
その後、ダンクと個別配送に回り、夕方事務所に戻るとダンクは明日早いからと先に帰ってしまった。
サトミは残り2人のポストアタッカーを待って挨拶を交わす。
挨拶した2人はやっぱり大変だったのか、サトミの加入をひどく喜んでくれて、他局回りから帰ったばかりのリッター・メイルというショットガン使いの金髪碧眼の痩せた青年は、疲れ切った様子でいきなり泣きながらハグしてきて、サトミを慌てさせた。
「ああ、先日見たな。金髪の。町でキャミーを助けに来た。」
「ああ、あの時の……君がカ……タナ?使いって奴か、良かった〜来てくれて。
デリー行きはあれから怖くてさ。
人数増えて、行く数減ると助かるんだ。」
「リッター!ダメダメ駄目よ!」
緊張のたががゆるんで、うっかりリッターがこぼした。
慌ててキャミーが彼の口を後ろから塞ぐ。
サトミがふうんとこぼして、苦笑いの彼女の顔を見る。
「ポストアタッカー狩りっての?強盗だろ?」
「え?知ってンの?」
「まあね、入る前に聞いたのさ。それで2人死んだんだろ?」
大きくため息をついて、キャミーがサトミの前に座る。
「実は……言わなかったのは悪かったわ。でも……」
「別に、聞いても答えは同じだぜ?
で、状況は?」
しくしく泣き始めたメイルの頭をポンと撫で、もう一人の少し年長のポストアタッカー、ガイド・レーンという黒髪のオッサンがヒゲをザリザリ撫でてソファーの肘掛けに座る。
彼が、帰ってこないポストアタッカーの捜索にポリスと一緒に出て、遺体を発見したらしい。
苦々しい顔で、目を閉じた。
「遺体は……デリーとの丁度中間点、小さな岩山と岩棚に挟まれた地点だ。
そりゃあひどい状態だった。
あれじゃあ、防弾装備も役に立たない……‥
最初、残留地雷かと思ったんだ。
でも、そこはいつも誰もが通る道で、すでに安全は確保してある。
何より周辺にベアリングが散乱していた。」
「俺、最近……そこ避けてるんだ。」
「あーだからリッター、最近遅いんだ。」
「だってよお、俺には無理……腰抜けでいいよ、もう。
実際、ぶちまけるとさ、ポストアタッカー辞めてえ……
こっちは生身でやってるのに、機関銃とか避けようもねえよ……誰だよ、あんな物盗賊に売った奴。
軍はゲリラ一掃して、武器管理出来てるってウソだったのかよ。」
ハアッと、大きくため息が渦巻いた。
まあ、サトミにもその気持ちは……実はあまりわからない。
もしかしたら、怖いとかそう言う感情が麻痺しているのかもしれない。
「盗賊どもが武装しているんだ。
元々盗賊は多いから、まだ派手に報道されないがね。
類似犯も懸念される。そのうち、通常便の車も襲われるかもしれない。」
「あれ?車はやられないのか。」
「ああ、今のところ、早馬のポストアタッカーだけだ。
奴らは死んだ奴らから奪った、この稲妻の腕章を岩山の上に掲げている。
岩山は小さなもので、あいつらの腕章だと容易にわかるんだ。
まるで、見せしめのように・・・・、俺たちはそれを見ながらそこを通らなければならない。
うちが1人、デリーの奴が2人やられた。」
「うち、2人死んだんだろ?もう1人は?」
「もう1人はこいつらが出る3ヶ月前に別の盗賊にやられた。
善戦空しく……だな。
相手を5人殺って、生きてるうちに救助出来たんだけど、うちは防弾ジャケットだけなんだ。
首と足撃たれて出血多量でな……意識戻らなくて、3日後に死んだんだ。
いい奴だった……」
ガイドが暗い顔で視線を落とす。
サトミが背もたれに身を任せ、足を組んで天井を見る。でも、ここは空が見えない。
「武装か……終戦時のゴタゴタでどっかから横流しされたんだろうな。
ヤバい奴が一線越えるとろくな使い方を考えない物だ。
荷物は奪われたのか?」
「荷物は手紙類が周囲にまき散らされていたが、ほとんど盗られた。
あんなひどい状態で、荷物も無事に済むわけがないんだがな。
考えているのか無いのか……」
「写真あるか?」
サトミが鋭い視線で真っ直ぐに見る。
ガイドが眉をひそめながら、一度うなずきカメラを取り出そうとして首を振った。
あるけど、見せたくないのだろう。
「子供は見ない方がいい。こう言ってはなんだが……本当にひどいんだ。」
「わかってる、俺は武器と状況を把握したい。年齢は忘れてくれ。」
みんな顔を背けている。
ガイドが重い手つきで、カード型の携帯カメラを腰のバッグから取り出した。
裏には「エクスプレス備品05」のシールが貼ってある。
迷いながら、再生ボタン押して、指をスライドして写真をめくっていく。
険しい顔で続けていると、いくつかの郵便物の写真のあとで、それはいきなり現れた。
怖い物は避けたい、でも行かなきゃならない。
行きたくない、でも行かなきゃ困る人がいる。
これは仕事、死にたくないけど行かねばならない。
だって彼らはポストアタッカーなのです。




