13、出勤初日
中途採用、月初め1日金曜初出勤。
必要かどうかわからないが、久しぶりにナイフベルト付けて家を出る。
サトミの武器は刃物ばかりだ。
腰のナイフベルトには両脇に4本ずつショートの投げナイフ、ケツにサバイバルナイフ1本。
昔作戦に出る時は手足にも付けてたけど、必要かはあとで決めよう。
持ってる投げナイフ用のスローイングナイフも少なくなった、買える場所を聞かなくてはならない。
郵便局に着くと、ゲートでキャミーが待っていてくれた。
パスを貰い、ベンを馬繋場に入れて、事務所のドア認証に登録する。
とりあえず局長に挨拶。
サトミは軍にしかいたことないので多少緊張する。かと思ったが……
まあ、こんな普通の人間の集団に入るというのも新鮮だなーと眺めていた。
局長はずいぶんケバいおばさんだと思ったら、男性らしい。
初めて外の世界を見たら、色んな人種が増えていた。
「期待の新人さん、お願いね!まあ!思った以上にカッコいいわ。」
にっこり愛想いいけど、握手する手をなかなか離してくれなかった。
朝礼っていつもは無いらしいが、新入りって事でフロアの中央に集まって貰う。
町には爺さん婆さん多いのに、これだけ若い奴らどっから沸いたんだろうな。
と、見回してボンヤリ考える。
キャミーに引っ張られ、前に出ると紹介された。
「えー、こちらポストアタッカーの新入り、サトミ・ブラッドリーさんでーーーす!
15歳なので、まだ賭け事、アルコールは誘わないで下さーい。
軍出てすぐなので、世の中良くわかりませーん!よろしくう〜。」
「ちわ、どうも。」
うっかり敬礼してしまった。クセだ。
普通、こう言う場面で何を言うのかわからない……
「え、15って?ダンクより若いじゃん。」
「ふうん……お子様だ〜……」
ヒソヒソ聞こえる。
まあ、そうだろう。俺だって家に帰れないなんて思わなかった。
仕分け担当の女の子が、ハイと手を上げる。
「ねえねえ、その……背中の棒は?なんですの?」
「あ?、ああ、気にしないで、俺のシッポとでも思ってください。」
「シッポ……はあ……しっぽかあ……‥」
「ナイフいっぱい……何に使うの?」
「え?これ?」
なんとなく、ナイフに手が行く。キャミーがその手をバンッと叩いた。
思ったより反応早い。
「投げちゃ駄目よ!局内無駄な発砲!ナイフ投げ禁止!
はい!お開き!本日もがんばって働こーーーー!!」
「おーー」
一同、モヤッとした顔で、みんな自分の部署に戻る。
「と、まあ、この部署、みんな変な奴しか入らないって思ってるから気にしないで。
それじゃ一回りしよっか。」
と、キャミーが局内を案内してくれることになった。
サトミが入るポストエキスプレスは、午前中指定が多いので朝はメチャクチャ忙しいらしい。
紹介は昼からとなった。
局は意外と広いが、何度か爆弾積んだ車が特攻してきたことがあるので、所々に避難用の盾にできる鉄板が壁に仕込んである。
廊下はシャッターで閉鎖出来るし、内務の奥にコントロールルームがあって、そこが緊急時の避難所となっている上に、カメラで全館監視でシャッターコントロール出来ると言うので、安全に鼻息荒い。
「ここまで安全管理してる所って、この辺の郵便局じゃロンド以外じゃあまり見ないんですよ。
凄いでしょ?」
凄いって言わせたいのだろうが、サトミの表情は渋い。
「ふうん……まあ、真っ先にコントロールとられたら終わりって事だな。」
「そ、それはぁ!うーん、でもここって郵便局ですよう?
これ以上やるってなると〜」
「そうだな、俺に言わせるとコントロール集中させるのは余計な事って話さ。
取られると落とすのにめんどくせえ事になる。
だいたいそのコントロールルームってとこは、窓あっても強化ガラスで難攻不落だろ?
考えるだけで面倒くせえ。」
その面倒くさい目に遭った記憶が蘇って胸くそ悪い。
視界が赤い血の色に染まって、思わず目つきが鋭くなって唇をかみしめる。
ふと、
その表情をキャミーに見られて、彼女が立ち止まる。
心でしまったと舌打った。
これがイヤだから来たくなかったと言うのが実は正解だ。
まあ、軍上がりなら誰でも思い出すのもイヤな目に遭っている。
ここが受け入れないなら、やめるだけだと思う。
「あ、悪い。俺はどうしても攻める方から考えちまうんでね、気にしないでくれ。」
だが、彼女が捉えたのはそんなことじゃない。
もっと、なにか心の奥深くに触れたのだ。
「うん、そっか…………君は、どう見ても少年兵だもんね。
まあ、この国の正規軍に少年兵いたって事もショックだけどさ。
うちにも一人、元少年兵いるの。
でも、あいつはすぐ脱走したらしいから、うち来た時はほんとビクビクしててさ……。」
ああ、やっぱここにもいるのか。
ジンはどうしてるんだろう。
軍に残った仲間に思いをはせる。
一緒に出ようと言ったけど、あいつは帰るところが無いと残る事に決めた。
「うん、あたしにもちょっとわかる。
ポストアタッカーになる奴ってそんな奴多いから、あたしなんとなくわかるようになっちゃったのよ。
ね、君まだ20年生きてないんだし、もっと明るいとこ知るのも大事だと思うの。
この仕事、やって損は無いって、きっと思うようになるわ。断言出来る。
だから……これからこの国を背負う若人よ、来てくれてほんとありがとう。」
なぜか、キュッと締まった顔で、笑ってバンと肩を叩かれた。
今度はサトミがビックリする。
あ、ああ……そうか……俺がいたのは、確かに暗いところだったかもしれない。
…………うん……きっと、そうなんだろうな。
普通の、一般人の中に入っていけるか心配だったけど、うん、少しがんばってみよう。
「よろしく、先輩」
廊下の真ん中で立ち止まり、2人握手を交わす。
2人の両脇を、郵便物入れた麻袋を代車に載せて忙しそうに人が行き交う。
「新人!邪魔!!」
つなぎの女の子にドスンとケツで押され、2人で笑って先を進んだ。
就職出勤初日というのはキンチョーの連続です。
1日が24時間いつもと同じハズなのに、なんだか3倍くらい長く感じます。
さて、サトミはどうでしょう




