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11、橋とニンジンの攻防

何も話すこと無く、家に帰ってベンを馬屋に入れて、ココア入れて合意書を読む。

ベンはあれから無言で、鞍を降ろす間も、話しかけても何も言わない。

弱点知られて、どうもばつが悪いらしい。


ゴトン、ゴトン、ゴトン……バンバン


「また馬屋からこっちに来やがった」


ベンが廊下を抜けて、居間のドアを鼻先でバンバン叩く。

まったく、中で続きにしたのは失敗だった。

間のドアを簡単に開けてきやがる。

馬のくせに頭が良すぎるのは面倒くさい。


居間のドアを開けると、ヌウッと入ってきてテーブルの上のドーナッツをクンクン嗅ぐ。


「鼻付けんなよ、俺が食うんだから。」


「ふん」


そして、ベン専用に作った大きなクッションにボスンと横になった。


作った…………俺が。


そう、俺はミシンが断然上手くなった。

ベンはもの凄く文句言うので、敷物に馬着まで欲しがって、いちいち買ってたら、いくら金があっても足りない。

喋る馬というのは文句も言う。欲しい物をねだる。


くそ、


まったく、こいつは自分の大きさを理解してない。


と、大きくため息をつく。

居間は馬が寝るスペースで、サトミは端っこに追いやられる。

何のための馬屋かわかったもんじゃ無い。



ベンがしばらくボーッとして、サトミをちらっと見る。

あさってを向いて、ようやくつぶやいた。


「アレだ、アレは駄目だ」


「ああ、橋か。なんで駄目なんだよ。」


「怖い」


「でもなあ、渡れないと仕事はできねえぞ。管轄はほら、やっぱり向こうまでだ。」


「おりた、好きにしろ。」


「はあ?おりるかよ。マジ?」


「うーん……じゃあ、馬は郵便局で借りるかなあ……」


チラリと見ても、ベンは目をそらす。

何か言って欲しいのか、イライラしてサトミの椅子の脚を横から蹴ってきた。

でも、サトミは無視して合意書を読んでいる。


ガンガンガン!


椅子を蹴ると、衝撃でサトミが遠くなって行く。

いつかこの椅子の足も折れると思う。

一脚はすでに折れた。


やがて、足が届かなくなった。

ふんっと鼻で息はいて立ち上がり、また馬屋へと、居間を出る。


「あーあ、強盗とやり合うのに、ベンじゃないと困るんだけどなあ……

ベンはおりるか〜、そうか〜、怖いなら仕方ねえなー」


鎌かけるとベンが廊下で立ち止まる。

向きが変えられないのでバックしてきた。


じいっと見て、ため息はいて、もう一度考える。

またクッションにドスンと座って目を閉じて、また考え始めた。


「お前、怖いのある?」


珍しく、ベンが質問する。


「俺か……俺が怖い物か、そうだな……まあ、ほんとは言いたくなかったけど、仕方ない。

死ぬほど嫌いなモノはあるな。」


ぐったりしていたベンが、ピンと耳を立ててむっくりこちらを向く。


「にんじんだ」


かくっとベンの口が開いた。


ブヒヒヒヒヒン、ヒヒヒン、ヒヒヒン


寝っ転がり、足をバタバタさせて、異様に喜んでいる。

今度はサトミが大きなため息をついた。


やっちまったなあ……

裏かいて好きなの言えば良かった。


「よし、引き分けだ。

お前、明日から5日、にんじん食え。」


「ちょ、ちょ!待て!5日あああああああ!!!!」


「今ヒマ、5日」


「お前なあ、死ぬほどって言ったろ? 2日にしろ」


「5日、食ったら、渡る。一日10本食え」


誰だ!こいつに数を教えた奴!殺す!!首飛ばす!!


「2本だ!お前と身体のサイズが違うだろ!」

「高い怖い!お前も嫌い、がまん!7本!」


くっ!

それを言われると折れるしかない。


「4本だ、4本。それ以上は無理だ。ほんとは1本だって無理なんだ。」


ベンがおもむろに立ち上がり、ふんっと鼻息を吐く。

お互いヨシとはまだ絶対言えない。

ベンも橋を渡るのは死ぬほど嫌だ。


「5本、もう駄目。お前、1日5本食ったら、橋、渡る。」


サトミが頭を抱え、ガシガシ髪をかきむしると立ち上がった。

ベンが頭を下げて上目遣いでサトミとにらみ合う。


何故か、目の据わったサトミの手がすうっと背中に行った。

ギョッとベンがたてがみを逆立て頭を上げる。

ハッと我に返ったが、もう遅い。


「あ、しまった、条件反射だ、気にするな。お前があまり俺を追い詰めるからだろ。」


「お前、そんな奴だった、忘れてた、怖い奴。お前、お前、怖い!怖い!」


部屋の中でバタバタ蹄をならして床が抜けそうだ。

墓穴を掘ったのはサトミの方だ、もう、折れるしか道は無かった。


「わかった!俺が悪い。1日5本、5日だ。全部で25本、約束する!」


「約束、ズル無し。」


「わかってるよ、お前が馬だからってズルしねえ。

俺は今、お前の信用失ったけど、回復に全力出す。」


ニイッと馬のくせに笑って、またクッションに座る。

サトミが脱力して、椅子に座りドーナツを一つ食べた。


「はああ……ドーナツうめえなあ…………」


明日からを思うと、今夜はごちそう食いだめしようと心に決めた。


馬ですが、ビッグベンは喋ります。

喋ると言うことは、子供と同じです。

駄々もこねるし、欲しい物ねだってきます。

普通の人間にもニンジン25本食うのは無理っぽい。

さあ、どうするんだろう

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