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10、高所恐怖症

これほど誰かに頼まれるという経験は無い。

だいたい今までは命令だった。

クソみたいな上司に、殺す奴の指示を受けるだけだ。


「ふうん……でも俺さ、殺しちまうぜ。」


ああ!と、キャミーがポンと手を打つ。


「銃の支給やスタン銃とか……大丈夫です!局内にはセキュリティ開発部があります!

責任者は変わった奴ですので、なんか考えます!


とは言え、仕方ない時は殺しても……

まあ、言葉のあやって奴ですが、……そう!とりあえず、読んでみて下さい。

ポストアタッカーに関する政府との合意書です。

毎年改訂されますが、この赤札付いてるのが重要事項です。

あとはまあ一般的な、ごく普通の郵便業務。」


なんだか、辞典並みに分厚い本をサトミに差し出す。

サトミが受け取らないので、キャミーの手がプルプル震える。

ニッコリ満面に笑みを浮かべ、胸にぐいっと押しつけた。


「おーねーがーいーーーーー」


まあ、いいかとサトミがとりあえず受け取る。

パッとキャミーの顔が喜びに花が咲いた。


「ありがとう!ありがとう!とっ、とりあえず読んでみて!体験入局も歓迎!」


「まあ、ちょっと読んでみて、合わねえ時は捨てる。辞書ある?俺、ガキだし難しい言葉読めねえし。

俺もだけど、相棒にも聞かないとな。うるさい奴だし。」


「了解!」


キャミーが辞書を慌てて持ってきて、渡しながらギュッと手を握る。


「捨てる時はポストか郵便受けに!こちらで回収します!

でもどうか、どうか、どうか、どうか、超絶歓迎!よろしくお願いします!

相棒さんにもよろしく!」


キャミーが深々と頭を下げて、ドーナツを入れてきた袋にポンポン放り込み一緒に押しつける。


「私の愛、相棒さんと一緒に食べて!そんでご一考お願いします!」


まあ、相棒は食わねえよなあ、馬だし。


「ま、美味かったし貰っておくさ。じゃあな。」


「よろしく!超よろしく!」


部屋を出ると、窓口は通常に戻って、何も無かったように客も戻っている。

クスッと笑って、郵便局を出てベンの所まで歩く。


さっきいた警備員が、サトミの姿を見て駆け寄ると頭を下げた。


「先ほどは助かりました。」


「まあ、ヒマだったし。どこにでも出るんだなあ、あいつら。」


「ええ……でも、それより……」


警備員が、何か言いたそうな様子ででうつむく。

サトミが合意書をわざと重そうに持ち替えた。

それを見て、警備員が思わず手を握りしめ、パッと顔を上げた。


「それより、ポストエクスプレスが……ポストアタッカー狩りにあってて……

でも、俺たちにはどうすることもできない。」


「ポストアタッカー狩り?」


「ええ、あなたはスカウトされたんですね。

だったら、言うべきか迷うけど……」


キャミーは何も言わなかったが、確かに二人死んだとは言ってたな。

この仕事、手練れがやるなら、そうそう死ぬことも無いだろうに。


「強盗団が、荷物と、ポストアタッカー殺して名を上げてるんです。

うちだけじゃなくて、隣町のもやられてて……

ポストアタッカーは、銃や馬乗りの名手がやる仕事で、強いの有名だから。

俺の友達も死んで……あいつ、強かったのに……なんで…………」


警備員の握りしめた手が震える。

サトミはフフッと笑うと、くるりと踵を返す。


「強い奴だって生きてたんだ。

生きて、死んだ。それだけだ。」


その、ざっくりとした言い方に、警備員の青年は頭に血が上った。


「でも!俺は生きてて欲しかった!」


「そう思ってくれる奴がいるだけで、そいつが生きてた証になる。

それでいいさ。」


馬繋場へ歩くサトミに、何か言い返したい。

でも、警備員の青年には言葉が浮かばなかった。

今は戦後だ、戦場から帰ってきたのだろう人に言うべき言葉じゃなかったのかと思う。

局勤めで戦場に行かなかった自分には、そのギリギリの生死観がわからない。

でも……


「生きてたんだ。死んでいいことなんかあるもんかよ。

まだ、若かった。やりたい事だってあったはずなんだ。

もっと、一緒に酒を飲みたかった……」


サトミを見送りながら、何か苦々しい物が残り郵便局へと戻っていった。




警備員と別れ、ベンの元へ行く。

鞍にあるバッグに合意書って奴を入れて、ドーナツも入れた。

郵便局を眺めながら、ベンを引いて馬繋場を出る。


「ちょっと、冷たかったかな……ああ言う時、どう返せばいいんだろう……」


反省。

死んだら悲しむ人がいる、当たり前のこと……そう言う事、ずいぶん忘れてたなあ。

部隊にいた時はそれが普通の暮らしだったからなあ、芯まで腐ってる。


まあ、戦争だし。


それが戦後も全然変わらなかったから、だから腐りきる前に出ようと決心したんだけど。

出るには出るで、あそこから生きて出るのも面倒くさかった。

その分口止め料プラスでなんかメチャクチャゼロが多い金貰って出た自分は、あの部隊から初めての生きた離脱組だ。

初めてってのも驚いたけど、まあ条件がアレじゃクリアー出来る奴もいないだろう。

おかげで金には困らない。


のんびり歩いてると、ベンがドスンと小突いてきた。


「遅い、乗れ」


ベンがじろりと見る。

サトミが天を仰ぎ、目を合わせた。


「そうか、ベンは走りたいか。そうか、走りたいのか。」


「お前の足が短い」


「はっ、お前に言われたかねえよ。」


「ヒマだ、テレビ見たい。」


「あー、テレビは〜……買わねえな。

俺は外に希望持つなって、テレビと無縁だったからな。」


ベンに乗ると、トコトコ小走りし始める。


「なあ、郵便局に入らないかってさ。

手紙の配達、各家を回って手紙や小包配達して回るんだ。

お前、わかるかなあ……どうよ。」


「知らん、好きにしろ」


「そっか…………なあ、ちょっと遠出しようぜ。」


そう言えば、あのキャミーって子は橋の向こうから走ってきたよなあ。

少し遠出してみようかと町を抜けると橋の向こうにベンを向けた。


が、


ベンの足が止まる。


「なんで、走ってみたいんだろ?向こうの町行ってみようぜ。」


目の前の橋は2車線で、高い主塔にワイヤーロープが美しく並んだ吊り橋だ。

だが、ベンはブルブル鼻を鳴らして後に下がり、くるりと勝手にきびすを返してしまった。


「帰る」


「え、なんで?!確か、仕事は橋の向こうまでだぜ?」


「ヤバいと天から声がする」


「はあ?……まさか、お前、橋が怖いの?」


突然ベンの耳がピンと立ち、町の方へだあっと走り出した。

サトミは揺られながら、全身から脱力する。


ビンゴか〜


まさか、馬の高所恐怖症なんて聞いたことないぞ。

こいつは困った、これじゃポストアタッカーなんて無理だろ。

絶望的状況に、天を仰いで心の中でキャミーにゴメンとつぶやいた。

ベンが高所恐怖症です。

これはどうしようもない案件であります。

果たしてこれを乗り越えられるのか!

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