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7、その頃捜索隊は ②

リアメルの捜索を始め、5日が経った。

この辺りは、多少は魔法も剣も扱える私でも簡単に魔物に食い殺されてしまう場所だ。

魔法も剣も使えない令嬢など、2時間と、もつのだろうか?

だが、他の者達が懸命に捜索に当たったいるのに、当事者である私がもう無意味だから帰還してもいいんじゃ無いのか?など、口に出して言える筈もない。


あれから毎日決まった時間調書を取られる。

魔導師団長から今日聞かれたのは、リアメルはどんな少女だったかだ。

どんな少女だったかだって?

何故あんな少女を自分から強く求めたのだろう?

イヤ違う、リアメルが私とどうしても婚約をしたいと公爵家の力で婚約者の座を勝ち取った?

我儘で王妃教育も真面目に学ばずに私を困らせる存在だとサアラが言っていた。

だから学園で、彼女が話しかけて来ても会話する事も拒み続けた。

追放したのは国の為でもあるのだ!国母という立場の者がそんな人間でいいはずがないだろう。


「そうですか。では、そこまで国の事をお考えの殿下は何故、公務や習い事、更には訓練まで全く受ける事が無くなってしまったのでしょうか?」


「サアラが学園生活は一度きりだし、一緒に過ごさなければ勿体ないと、最近はスチルを見たいからイベントをしなければならないと言っていた。最初の頃は、他国出身だから寂しいと言って、皆んなで孤児院の活動に参加したり、遊びに行ったり、生徒会の運営の補助をこなしていたな。」


公務を何故疎かにしたんだ?あぁ、そうかサアラがレヴィアンとアレックスが優秀だから3人で協力すれば幸せに暮らせる国が作れると、だからサアラとの時間を大切にすれば良いのだと言っていたんだ。


サアラは皆んなのモノだから、私達皆んなで大切にしなければならないんだ。

だが、私は17歳にして王太子継承できないのは、公務や鍛錬を疎かにしているからではないのだろうか?

魔法はレインが守りはブランが、公務はレヴィアンとアレックスが、では私は?一体……


「恐れながら、殿下の学園での勉学、魔法学、武術の成績は全体の平均以下でございます。レインとブランも同じか…それ以下という所でしょう。ちなみにチベーリア公爵令嬢は魔法の実技はある理由から免除されておりますが、魔法学、勉学は学年主席、武術も女性の中ではトップの成績にございます。それも王妃教育と並行して行っておりますからさぞかし、努力されている事でしょう。」


「そんな!リアメルが王妃教育など、真面目に受けてなどいない筈だ!私が何度、言おうと耳を傾けなかったのだぞ!」


「おや?殿下はご入学されてから王宮には帰って来ておりませんし、チベーリア公爵令嬢とは学院で話し掛けられても口を聞かなかったとおっしゃっていらっしゃいましたよね?」


そうだ……私はリアメルにほとほと愛想が尽き学園で話し掛けられても口を聞いてはいない。

ならば説得など出来る筈もない……?

それに、王宮には学園に入学した年から帰っていないのに、何故リアメルの状況が分かるのだ?

彼女とは3年ぶりに学園で会ったその時、「陛下や妃殿下が心配なさっております。一度王宮へお戻り下さいませ。」などと言われ、この娘が私に会いたいだけなのだろうと、何も言葉を返しはしなかった。

その後はどうだった?2、3度、私が1人の時にやって来ては、「御自分の御立場をお考えになった行動をなさって下さいませ。王になるには、視野を広げ、様々な事を学ばねばなりません。」そんな事を言われ、お前になど何も言われたく無いと又、口も聞かずその場を去ったのだが……何故そう思った?

そうだ!サアラが教えてくれたからだ。

彼女は嘘は言わない、よな?


「では殿下にお伺い致します。世界で唯一琥珀が獲れる領地は何処でしょうか?」


「琥珀の産地など、子供でも知っている。チベーリア領であろう?だから王家をも上回る資産を持っているのだから、それがどうかしたのか?」


「そうですか、先日カーセル伯爵令嬢の琥珀の装飾品をチベーリア公爵令嬢が盗んで、自分用に加工し直したと、だから我々はソレを奪い返し、カーセル伯爵令嬢に返した。そうおっしゃいましたね。実は公爵閣下が先日、今までで一番大きく良質な琥珀が獲れたと、そう仰っておりました。それが、先日の夜会でチベーリア公爵令嬢が身につけていた物かと…」


「そんなバカな!サアラはあの時「凄く綺麗な琥珀石!お祖母様を思い出して涙が出そう…あの飾りが、私の心の支えだったのに…」そう確かに言った。」


「学園にご入学され、日々さまざまな教育に励んでいるにも関わらず、報われない娘を少しでも元気付けたいと、市場には出さず、王家も利用されている装飾品店で仕上げられた贈り物だそうですよ。原石で持ち込んでおりますし、店の刻印はされておりますから、確認に入っているでしょうね。それに、あれ程の琥珀石は何処の王族の方々でもお持ちでは無い程の品だとか、それほどの物を祖母の形見だと学園に持ち出す事が、カーセル伯爵令嬢に可能でしょうか…殿下、今一度、今日お話しさせて頂いた事をよくお考え下さいませ。ではそろそろ休みましょうか」


「…………あぁ……そうしよう」


この日の夜、懐かしい夢を見た。

冒険者に憧れ、王宮裏の森にどうしても行ってみたくて城を抜け出したら、迷った挙句…

お爺様から頂いた形見の懐中時計を湖に落としてしまい、こんな事なら、傷んだ金具を直ぐに変えておくんだったと後悔し涙していた。

一見こんな物が王族の形見なのか?と思えるような品なのだが、若い頃に変装して城を抜け出し、冒険者として稼いだお金、全てを使って購入したお爺様の思い出の品。

お爺様の話しはどれも楽しく、良く話しを聞きに行ったものだ、夢の中の自分はあの時のように湖のほとりで泣いていた。


「どうしたの?何処か痛いの?」


「違う!お爺様から貰った懐中時計が湖に落ちたんだ。お前に関係……えっ」


顔も上げず、お前に関係無いだろう!と八つ当たりとも言える言葉をぶつけようとした瞬間、バシャンと湖に飛び込む音。

驚き顔を上げ、湖を覗き込むと直ぐに小さな影が水面に上がってきた。

「はい!どうぞ」と満面の笑みで水の中から現れた少女に、私は目を奪われ、時が止まったように感じた。


「あ、ありがとう……大丈……夫……か?」


「何が?」


何のことだかわからないと、ポカンという顔をした少女。

すると私の背後から大きな影がさしかかり、振り向くと珍しい褐色の肌の男が現れ、少女に向かい怒り出したのだ。


「リアメル!目を離した隙に何やってんだ!そんなもん拾いたきゃ俺を呼べばいいだろうが!わざわざ水に飛び込むんじゃない!」


「だって、グレイク自分が出来ることをせず、人にやらせるなんて、良く無いわ。」


「あぁ、もうイイ!とにかく乾かして帰るぞ」


フワリと少女の体が湖から浮かび上がりびしょ濡れのブラウンの髪や服はあっという間に乾き、眩しい笑顔で、「ありがとう。」とお礼を言うと、「お嬢様が、あんな格好で帰ったら皆んな失神するぞ」とブツブツと小言を言われていた。

その後は、森を抜けるまで私と手を繋ぎ、道案内までしてもらったと言う何とも情け無い想い出だ。

まだ5歳にもなっていないような少女に助けられ、私は恥ずかしくも、悔しくも思ったのだが、また彼女に会いたいと、そう思った。


完全に一目惚れだったんだ…だが、お嬢様と呼ばれていたが、王族に嫁げる程では無いだろうと諦めた矢先、建国祭で見かけたのは目や、髪色こそ違うものの、紛れもなくあの少女だった。

プラチナブロンドの美しい髪に、宝石のような珍しいエメラルドグリーンの目。

あの時のワンピース姿とは違い、着飾った少女はまるで人形のように愛らしく、もうすぐ8歳を迎える私はどうしても彼女を婚約者にしたいと父上にお願いしたのだ。

そうだ…リアメルとの婚約は私が望んだものであった。

なかなか良い返事を貰えないし、会っては貰えなかったのだが、何通も手紙を交し合い、父上や公爵閣下にも頼み込んで半年が経った頃、漸く婚約を承諾して貰ったんだ。


何で忘れていたんだ!婚約を承諾してくれたその日、王宮を訪れていたと言うリアメルに久しぶりに会った時、直接彼女と言葉を交わせる事が本当に嬉しくて、舞い上がっていたじゃないか。

リアメルはお人形の様に愛らしのに、素直で謙虚な性格なのにお転婆で私の大切な婚約者だった……

私は、助けて貰った事が恥ずかしく、彼女が気付いていないなら、あの日の事は話さない、だからその容姿に似合わぬお転婆っぷりもまだ知らないフリをしたけど、もう少し大きくなったら一緒に冒険者をしたいと、彼女を守れるように、魔法の勉強や鍛錬に力を入れ公務の勉強も疎かにせず頑張ったんだ。

その2年後、思い切って、「時々城を抜け出し、一緒に冒険者をしないか?」と言ったら「もう真似事をしているんです。」と顔を赤らめ苦笑いした事には驚いたけれど、その後一緒に行った薬草取りの報酬は今でも私の私室の貯金箱に入っている。

「これを2人で貯めて記念の品を買って王と王妃となった時、その記念の品を見て一緒に冒険した事を思い出すんだ!」と言う私に「それでは、沢山の想い出を頑張って貯めなければなりませんね」と彼女は笑っていた。


11歳になり、来年から離れ離れになってしまうから沢山会おうとする私に、「公務や勉強を疎かにしてはなりません。私も殿下を支える為、勉学や王妃教育を頑張りますから、もっと緑が沢山溢れ、皆が過ごし易い国を作って行きましょう」と幼いながらに立派な彼女に負けじと頑張っていたはずだ。

私は公務を勉学や鍛錬を疎かにし、何になりたかったと言うのだ?

ザワザワと人の気配に意識がはっきりとしてくる。

待ってくれ、まだリアメルと一緒に……


「リアメル……って私は何を……懐かしい……夢だった……」




「殿下、お目覚めですか」


目覚めたままぼんやりと夢を思い出していた。

食事当番に行かなければ、と思ったところで声がかかった。

慌てて支度をし、スープの準備と配膳を行い、自分の食事を手短に済ませ片付けをする。

ここへ来て今日で6日目、こういった作業にもだいぶ慣れてきたように感じる。

午後の捜索を終え、一足先に野営地へと戻り食事の準備をしていた時のことだった。


「皆そのままでよく聞け、王宮からの伝令で、チベーリア公爵令嬢の無事が確認された。詳しい所在地は不明だが、公爵閣下の元へ無事の知らせが届いたそうだ。次に、今日の昼頃ノームル領で突風が発生した。隊を組み直し、救援部隊として明朝出発する者はこの後一刻後に発表する。それでは食事にしよう」


リアメルが生きていた。

その報告を聞き肺の空気が一気に吐き出された。

「良かった……」と自分が呟いていた事に驚いたが、その溢れた想いは、サアラの元へ戻れるからか、リアメルの無事の知らせを受けて感じたものなのか自分では分からなかったが久しぶりによく眠れそうだ。



ーーーーー


殿下達が寝静まった頃、現状報告を行う為に各班の責任者が集まり、報告会


「さてと、皆代わりの見張りは立ててきたな?現状報告、それから明日の救援部隊についてだが、宰相閣下より人員は100名、部隊長そのまま両副団長に任せ、今回は2班に分かれ行動する。まずは3名の状況報告を。」


「では、私から。殿下のご様子ですが、少しずつではありますが、精神への関与が薄れ、自我を取り戻しつつあるように伺えます。今日の捜索は熱心に行っていた様ですし、チベーリア公爵令嬢の発見報告を聞き、心底安堵していたようなご様子だったと隊員達が申しておりました。昨夜、公爵令嬢についてのお話しをさせて頂いた事で、心境の変化があったのかもしれません。」


「では次は私から、ブレン殿についてですが、未だ呪印を人に見られる事に抵抗があるようですが、その……師団長の指導のおかげで、最近では魔導の練習にも真剣に取り込む時間が増えてきたかと思われます。ですが、あの…師団長の……雷は素晴らしい威力の為、周りの兵士も巻き込まれておりまして…雷魔法の使用は少し控えて頂けますと、助かります。」


「おや、これは失礼を致しました。ですが愚息の調……指導と隊員の咄嗟の攻撃対処の訓練にもなりますからね。私が不在で皆様さぞかし気が緩んでおいでかと思いまして、それに、万が一何かあっても、私がおりますのでお任せ下さい。」


その場にいた師団長以外のメンバーの顔色はかなり良くない。

そうだ、この男、最近では魔導師団の統括長も任される事が決まり、長い事現場を離れていたが、現場に出ていた頃は、抜き打ちで魔法をぶっ放し、突如訓練を開始する鬼の師団長として恐れられていたんだった。

と、とりあえず、ここは話題を変えるか……


「まぁまぁ、日頃の訓練は大切だが、皆自主練も頑張ってるぞ!うん。

それで私からは、レインについてだが、未だにカーセル伯爵令嬢に取り憑かれているかのようで、呪印はその部分だけタオルで押さえ、見せようともしない。公爵令嬢の捜査や剣の訓練も余り乗り気じゃ無くて困っている。いっそ殿下と交代させて師団長に調教して貰うか?」


「あ、あの…俺個人の見解ですが、恐らくカーセル伯爵令嬢以上の存在が関係していませんか?殿下が学院に入られる前、魔法の稽古をしたのは俺で、かなりチベーリア公爵令嬢の事を大切にされていましたから…公爵令嬢が魔法が使えないから、自分がその分上手になるんだって、2人の思い出の品を作るんだって頑張っていたんですよね。それに……ブラン君はカーセル伯爵令嬢よりも恐怖が勝ったんじゃないかなぁ。なんて……俺も第2の団長就任前は師団長の元で扱かれましたからね。みんな多少なりともトラウマ…………何でもない、です、はい、続けましょう。」


「それ以上の存在か…確かにレインには無いな。俺に扱かれ慣れているから、今更恐怖など感じないし、初めて興味を持ったのがカーセル伯爵令嬢だ。はぁー 元々性格も一直線な奴だからなぁ。コイツはウチのが一番厄介かもしれねーな。」


「それでは、殿下とブランは騎士団長にお任せして、レインは私が預かり……」


「い、イヤ、さっきのは冗談だ。それに殿下の状態の回復が一番重要だろ?ブランと一緒に居れば雷も一緒に食らうだろうし、さすがに殿下に雷は…」


待て待て、いくら陛下から罪人扱いして構わないと言われても王族。

殿下に雷を食らわすつもりかよ、ブランと居ればレインも自ずと調教されるだろうし、とりあえずは様子をみよう。


「今回、は呪印の件がありますからね。捜索隊50名残して王宮から50名補充、王宮に戻った者は3日休暇の後、今回残った50名と交代という形を取りましょうか?災害が1度で終わるとは限りませんからね。16年前のように」


「その頃の体制を取るのが一番だろう。さてと、気合いを入れ直してくれ、陛下からはあの3人で救援部隊を回せるように仕込めとのご指示だからな。ビシビシ行くぞ!では第1陣は各班10名づつ第2陣は20名減らす。

バランスを考えてくれよ。」


そして、レインは救援部隊入りに駄々を捏ねた事で師団長の逆鱗に触れ、トラウマを抱える事となる。

これでうちの息子も自我が芽生えてくれるといいの……だろうか?





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