6、その頃ヒロインさんは
バタンと閉まる扉をただ見つめる。
はぁー 、ここに連れて来られて6日が経ったけど、未だベルク様が戻ったと伝えられない。
と言うよりも、誰も私の問いかけには答えてくれないし、この寝室から出られるのは入浴の時だけ、紙とペンしか置いてないこの部屋に監禁されて息がつまりそう。
それに隣の部屋に出れても、メイドは少なくとも3人、入り口には女性騎士が2人立っているし、私どうなっちゃうんだろう?
まさか王様が悪役令嬢の味方をしてるなんて思わなかった。
第2王子のレヴィアン様と公爵子息のアレックス様が留学中で、てっきりゲームスタートの4年生になれば、学園に戻ってくると思ってたのに、あれもリアメルの仕業だったなんて、悪役令嬢も転生者なんてやられたなぁ。
はぁー 、王様の言ってた処罰って何だろう?でも、リアメルさえ無事に見つかれば、重くて自国に強制送還されて、この国への入国が禁止される事ぐらいよね?私は貴重魔法の使い手だし、他国の伯爵令嬢だもの、そこまで下手なことはできないはず。
でも、ベルク様達、学園では私の言う事を疑う事なんて無かったのに、夜会の日からなんだか様子がおかしいのよね?レインはいつもと変わらない気がするけど、エンディング迎えた瞬間に夢から覚める何て事にならないわよね?
でも、ベルク様とリアメルの婚約破棄の決定打が欲しかったからって、嫌がらせの自作自演はやっぱり不味かったかな?
せっかく乙女ゲームのヒロインに生まれ変わったのに、神官長子息と婚約させられそうになるし、パパママに頼み込んでやっと掴んだこのチャンス、逃すわけにはいかないじゃない。
でも、推しと幸せハッピーエンドの筈が、今の状態は非常にまずい…けど、もうすぐ第2部が始まるわ、この国は天災に見舞われ、これから大変な事になって行く筈。
ストーリー通りに国の窮地を救えば、今回の件のお咎めが無くなるかもしれないし、ベルク様との婚約も認めて貰えるかもしれない。
大丈夫!まだチャンスはあるわ!
ーーー王国sideーーーー
「以上、カーセル伯爵令嬢の近状報告です。元より独り言の多いご令嬢でしたが、外部との接触を絶つと、かなり独り言が増えたようで、記録用魔道具の存在には気がついておられないのでしょうね。呪印に関しましてはご報告の通りですが、最近はこの国の災害について口にしている事が気になります。私からのご報告は以上ですが、このままもう暫く様子見という事で宜しいでしょうか?」
「そうだなまだ、此方は下手に動く事ができんからな。次の者報告を」
「はっ、では私から、伯爵令嬢本人や王子始め学園に通う多くの者から、母国では両親達から呪印が確認されております。先程の映像にもありましたが、恐らく留学の際に両親へ禁術を使用したと思われます。
帝国へ赴いた事は一度もなく、12歳という幼さで我が国の学院寮に入寮していた為、術式の入手経路については両親や神殿に帝国の調査隊が入るという事が決定致しました。
恐らく、我が国にも帝国の調査団が入るかと思われます。」
「はぁー 、現段階で呪印が確認されたのは30名か。後は国の状況についての報告を」
「はっ!では私から、チーベリア公爵令嬢の無事が確認された為、捜索隊はそのまま昨日の突風被害の救援部隊として、今朝方全員、被災地へと出発致しました。件の3名には被害状況からして数ヶ月程、現地で救助や再建補助を学んでいただき、その後王都へ帰還となります。」
「そうか……その3名は今後、救援部隊の最前線を指揮、自ら先立って活動するよう、厳しく育て上げろ、長らく我が国も平和な時を過ごせていたが、もともと我が国は突風や竜巻が発生しやすい、17年程前を元に本年度の予算の見直しを始めるよう手配を、それではこれにて解散」
執務室に戻って来るなり、陛下が何か聞きたそうにこちらをチラチラと伺っているようだが、内容は分かりきっている。
リアメルの事だろう。だが、会いたいのはこちらも同じ、此方からの伝達魔法はやはり弾かれてしまう為、何処に居るのか心配で仕方がない。
貴族としての政務など、関係無く一度元気な顔を見せに帰って来いと伝えたいのに、それさえも叶わない。
この国に帰りたくないのであれば、アレックスを頼ってくれれば良いのだが、アレックスが卒業までは後1年か、あんなに静まり返った邸は婚姻前だろうなどと考えていた。
「サイオス、リアメルの事だが…その、国に帰って来るとかそう言った事は何か書いてあったのか?」
「いえ、残念ながらこちらの状況を伝える手段がない為、このような事態になっている事は分からないでしょうな。手紙には生活の準備の為に連絡が遅くなり申し訳無かった事、落ち着いたら、改めて連絡をする事と後は……家族に迷惑かける形で国を追われた事を詫びる言葉だけでしたな。」
「そ、そうだよな。契約精霊様の機嫌を損ねるわけにもいかないが、昨日の突風の件、我が国の加護が無くなったのは、間違いないようだ。となると、国を守る者としての相談だが、冗談では無く、レヴィアンとの婚約を考えては貰えないだろうか?頼む、この通りだ。」
「頭を上げて下さい。一国の王がそのような振る舞いなどなさる者ではありません。この部屋に私だけで無ければ、おおごとになりまずぞ。陛下の仰ることはわかりますが、あの契約は精霊様もご存知です。下手に縛りつけようとすれば更なる災害を引き起こすやもしれませんぞ。」
「いや、そ、そうだよな。すまん、つい、都合の良いことばかり……リアメルがいつ戻っても良いように、此方は少しでも誠意を見せよう。だが、チャンスだけでもくれないか?約束の件もある、無理にとは言わないし、レヴィアンの事を受け入れられればでいいんだ。こんなにも早く災害が起きようとは…もっと、しっかりと対策を取らなければならなかった。」
「ですが、学院側にもご丁寧に、除籍するよう連絡がいっているみたいですし、学園も通わないまま王妃の座にはなれませんからなぁ。
陛下に私どもはベルク殿下の行動について再三お願いをしてきたつもりですがね。
はぁー 、そんな事よりも今は執務に集中致しましょう。」
国の事を思えば、リアメルをこの国へと繋ぎ止める事が一番ではあるのだが、それではあまりにもあの子は…
親として、支える立場でありながら、それも満足に出来なかった。
王子に裏切られ、誰にも助けて貰えず、 あの子はどこかで泣いているかもしれないと、言ってやりたいが、頼られない責任は勿論私にもあるのだろう。
リアメル、精霊様とどうか無事に暮らしていておくれ、私はお前に頼って貰える父になれるように頑張る。
だから、その時は顔を見せに来て欲しい。