12、熊さんとお買い物
今日はネッドさんと一緒にお買い物。
昨日、中位精霊さんに「結界の外に出ても、此処まで戻って来れる?」と聞いたら「大丈夫〜任せて」と胸を張っていたので、港町まで連れて行って欲しいとお願いしておいた。
髪と目の色を変えて、一階に降りるとネッドさんの姿は無く、外で待っているようだ。
「ネッドさんお待たせしてすみません。行きましょうか」
「おっ、髪や目の色を変えると印象が変わるな…おわっ!」
どうやら私の「行きましょうか」の声を精霊達が合図と思い私達を運び始めてしまった。
細かく転移を繰り返し、あっという間に港町のギルド裏へと到着したが、ネッドさんはポカンと口を開けたまま固まっている。
「ネッドさん驚かせてごめんなさい。ちゃんと説明する前に街まで運ばれてしまいました。」
「いやー…驚いた。こんな方法で移動するのは初めてだ。それで、ここに来たって事はギルドに用があるのか?」
「うーん、そのつもりは無かったんですけど、せっかくなので寄っても良いですか?」
ネッドさんが了承してくれたので、ギルドへと入り上級依頼を確認していると、久しぶりに鋭い視線を感じた。
ネッドさんが近くに来てくれたおかげで、視線は気にならなくなったけど、トラブルになって迷惑をかけたら申し訳ないし、今日の依頼は控え目にしておこう。
そう言えば、地の精霊さんに貰った根っこ!受付のお姉さんに聞いてみれば何か分かるかな?と思い取り出そうとすると、ガシッと腕を掴まれ、驚いてネッドさんを見上げると「仕舞っておけ」と首を横に振っている。
えっ、コレ何⁈此処で出しちゃいけない物って怖いんだけどぉ!
「リアメル・サラ・チベーリアさんいつも有難うございます。この間の薬草はとても助かりました。今日はこの4件ですね。」
「お役に立てて良かったです。今日も報酬は受け取りでお願いします。」
上級の薬草を卸し、金貨2枚を受け取るとギルドの奥からガン!ガタン!と大きな物音が響く。
視線を向けると少し、年配の男性が、机に腰を打ち付けたのか腰を押さえ唸っていた。
余所見でもしていたのかな?腰骨打つと痛いんだよね〜と思っていると、ネッドさんに手を引かれたので、慌ててお姉さんに頭を下げてギルドを後にした。
「あの方痛そうでしたね。ネッドさんお付き合いありがとうございました。では、港へ行きましょうか。」
「あんな奴の事よりもリアメル、アレはあんなに大勢の人がいる所で出しちゃダメだ!ただでさえ、お前を注意深く観察していた奴らがいるんだ。換金したけりゃギルド本部で引き取ってやるから、いいな約束だぞ。全く…危なっかしくて目が離せないな」
「アレやっぱり高価なものなんですね。アレが何なのかお姉さんに聞いたらわかるかなって思って…冒険者さんって怖い人も多いですよね…前に一度襲われかけてからは、いつも友人にお金を管理して貰ってるんですけど」
「うん……リアメル、今日の薬草の事もだけど、少しづつで良いから、いろいろ覚えていこうな……でないと大変な事に…もうなっているか…それにしても……そうかギルド周辺にも警備が必要だな。報酬は口座支払いにしないのか?」
「普段は口座ですよ。でも自分の目で見て食材を揃えたいじゃないですか!市場や小さなお店はカード支払いの対応はしていないので、現金で受け取ったんですよ。」
膨れる私に「市場で食材って…年頃の女の子に思えねー発言だな。」とネッドさんには苦笑いされてしまった。
まぁー14歳プラス日本の……うん気にしない、私は14歳だもん。
港に着くとおじさん達の姿はなく、留守番のおばさんから後2時間ぐらい後に、もう一度おいでと言われてしまったので、先にお鍋や食器、調味料を買い出しに行く事にした。
港町だけあって、調味料店は品揃え豊富でついつい買い過ぎてしまった。
もちろん念願の唐辛子もゲットしたんだけれども、唐辛子の形がね、ハバネロみたいで少し不安なのだよぉ〜。
お店の人の話では、似た様な物なら薬屋にあるかもという事だったので、そちらに向かうと馴れ親しんだ鷹の爪を発見する事ができた。
喜んで店員さんに声をかけると、この唐辛子は魔物避け専用で、先程買ったハバネロもどきより20倍以上も辛いんだとか…
見た目に騙されちゃいけないって事かぁ…でも待てよ、死の森に捨てられた身としては「この唐辛子、護身用に粉にし持っておくのも良いかも」と漏れ出た言葉にネッドさんはギョッとして何故か急にハンドクリームを熱心に勧めてきた。
仕方がないので、鷹の爪は諦め、ネッドさんオススメのハンドクリームを購入して、そろそろ良い頃だろうと港に向かうと、おじさん達が丁度帰って来た所だったようだ。
「おじさーんこんにちは〜。今日も大漁ですか〜?」
「なんだ嬢ちゃんこの間あんなに沢山買って帰ったのにもう無くなったなんてこたぁ〜ねーよなー。」
「えへへー。殆ど調理しちゃったので、今日も買い付けです!」
「そいつはありがてー。今日も、こんなに沢山どーすんだって皆んなで話してた所よ!今、網を下ろしてるから、ちょっと待ってろよ!」
船から網がドサリと下され、今日も大漁大漁。
あっ、あれは…か、カニだぁ!カニクリームコロッケが食べたい!
大興奮の私は思わず、おじさんにカニはいくらかと聞くと、またもやこれは硬くて食えないと…ねぇ、もう少し知恵を出そう?中身は美味しいんだよ?
と言う事で、カニ、イカ、タコ、エビ、鰹など不要な魚は全てお買い上げする事にしたのだが、おじさんに「嬢ちゃん本当に変わってんなー」と言われてしまった。
だから〜私にしてみたら、高級食材なの!
ちなみに、名前確認しましたよ、そしたらね鰹は餌、他の物は「お嬢ちゃんゴミに名前なんてある訳ねーだろう」だって…うん、じゃあ…タコ、イカ、エビ、カニで……
今日は前回より倍以上のすごい量なのに、料金は前回と同じ大銀貨6枚と言うおじさん…納得できない私は、渋るおじさんに金貨一枚大銀貨2枚を押し付けた。
その後、ネッドさんはリーダーっぽいおじさんと何やら交渉があると話し込み始めたので、私は作業場の一角をお借りして、カニの処理と一夜干し用のイカの処理の方法を披露。
完成した、いかの開きにおばちゃん達からは拍手を頂いた。
今日は1/3程度一夜干し用でお願いして、海老の殻剥きは頭だけ別容器に取り置いてもらう。
さてさて、蒸し器に蟹をずらりと並べて蒸している間に皆さんに振る舞うお昼の確認をしちゃいましょう。
タコ飯とおかかのおにぎり、パンがいい人の為にツナサンドとベーコンサンドもいるよね。
おかずは鳥の唐揚げにイカと海老のフリッター、葉野菜のお浸しに卵焼きと海老団子のお吸い物でいいかな。
確認が終えるとおばちゃん達が先にエビの頭を届けてくれたので、早速調理を開始する。
まず、しっかりとエビの頭を炒め白ワインを入れたら、頭を潰しながら暫く煮込む 。
それを濾してトマト、タマネギ、ニンジンもどき達やキノコを入れ、海老のトマトスープにする。
スープが出来上がりそろそろお腹もすいてきたからお昼の準備を始めよう。
テーブルを並べ、おにぎり、サンドイッチ、おかずにスープや、取り皿やスープボール、フォークやスープンをガチャガチャと出してっと!この人数ならバイキング形式が良いわよね。
「皆さんごはんがっ⁈ あの〜どうかしましたか?……ご飯ですよ?」
くるりと振り返るとおじさん、おばさん達が口をポカーンと開けて皆んな動きが止まっていた。
あれー?私、何かやらかした?でもこの前もマジックバック風に大量の魚を鞄に全部仕舞ったし……えっ!なに?
「こりゃたまげた嬢ちゃんだこと……嬢ちゃんは魔法使い様だったのかい!」
同じく固まっていたはずのネッドさんが「リーアーメールー⁈」と満面の笑みで動き出したので、「とりあえず暖かいうちに皆んなでご飯!ご飯を食べましょう?」と笑顔でごまかしてみた。
皆んなでワイワイとタコだイカだこれが餌(鰹)か!と、とっても賑やかで楽しい食事となったが、おばちゃん達はネッドさんの食べる量に口をあんぐり。
驚くよね……私も最初驚いたから…でもね、残さず平らげてくれるのはとても嬉しいんですよ。
後片付けは食器に浄化魔法をかけ、軽く洗ったら乾かして収納っと!
この野営コンロはシンクの下にスライムさん達がいるから、魔法で水さえ出せれば、洗い物もできる優れもの!
ネッドさんは引き続き交渉を続けるようだから、私は蟹の処理の続きを頑張ろう。
蟹の足をポキ、ポキ、ツーっと、抜けない身は風魔法でポンと押し出してをひたすら繰り返し、1時間もかからずに全ての蟹を剥き終え収納した。
次は塩水に漬けておいた一夜干し用のイカが丸まらないよう鉄串を刺して日向に吊るしていく、今日は天気も良いしちょうど良かった。
さぁーて、干している間に鰹も3つの巨大蒸し器を利用して茹でながら、ツナの下準備も同時に済ませましょう。
鰹に塩を振って1時間ほど放置した後はオイル煮にするんだけど、ツナはネッドさんもお気に入りだし、今回は少し身崩れしている身もツナにしちゃおう。
あぁ〜今日の夕飯は何にしよう……
保存食は殆ど食べちゃったからなぁー。ポテトサラダと、トンカツ⁈…うーむ…エビもあるから串カツにしようかな。
コンロが埋まっているので、調理台にタマネギ、ナス、かぼちゃもどき、キノコにエビ、豚肉とイカも、後は白身魚に鰹も良いかも。
食材を次々に串に刺し、バッター液、パン粉の順につけてお皿にズラリと並べる。
はっ!それぞれ下味はつけてあるけど…つけてあるけど、……ソースがなーい!やってしまった。
うーん、この際いろんなタレを作って食べ比べますか。
エビや白身はタルタルソースが美味しいし、後はタマネギの摩り下ろし和風ダレと青じそポン酢とバジルソース…後は一味マヨネーズ、今作れるのはこんな感じかな?
せっせと夕食の準備をしていると、予定よりも早く買い付ける魚が捌き終えたようなので、今日お世話になったお礼にイカの一夜干しと一味マヨネーズを置いて港を後にした。
「はぁー楽しかった〜。あっ、浄化魔法かけますね。」
「あぁ、ありがとう。港のオヤジと長く話し込んじまって悪かったと思ったんだが、楽しそうで何よりだ。リアメル今日は疲れただろう?せっかくめかし込んでるし、何処かで夕食済まして行くか?」
「えぇーダメですよー。串カツの準備一生懸命したんですから、あっ、でもせっかく街に来たし、甘い物買って帰っても良いですか?」
「おっ、やっと年頃の女の子らしい事を言ったな。いいぞ、ケーキでもチョコレートでも沢山買って帰ろう。」
帰りも妖精さん達にお願いして家に戻り、串カツを揚げていたら、お風呂から上がったネッドさんが揚げ物の匂いにつられ、我慢できずに隣でつまみ食い。
でも、分かる!揚げたてサクサクの串カツは格別に美味しいのよね。
ここではこんなお行儀の悪い行動をしても、誰も咎めないし、私もつまみ食いしちゃおう。
夕飯はネッドさんも私もこっちにはこのタレが合うなどと言い合いながら串カツをたらふく食べ、大満足だった。
でも、今日は特別なデザートタイムですよ!と食後のティータイムを張り切ったら、なんとネッドさん……甘いものが食べられないなんて……これも買おうとあれもこれも買い漁ったのに、まさかの食べられない宣言……この量を私一人で食べろとおっしゃってますか?
「リアメルはあんなに大量に入るアイテムバックがあるんだから大丈夫だろ?今日、港に連れて行って貰ったお礼だ。友達が外出している時だと一人じゃ危なくて街にも行けないだろ?食いたい時に食えよ。俺は燻製と一夜干しがいい。」
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて、頂いちゃいますよ?」
ネッドさんには一夜干しと燻製、今日はお休みという事でお酒をちょっぴり、私はカフェオレとチョコレートケーキにナッツタルトを一切れづつ食べながら読書をしたりとゆったりとした時間を過ごした。