10、熊男さんとのツユの実集めに行きましょう
翌朝、起きて外の燻製器にベーコンを取りに行きながら、精霊達と挨拶を交わす。
グレイクが出掛けてから、心配してくれているのか、洞窟の入り口に沢山の精霊達が居てくれるようになったのがとても心強い。
キッチンに向かい調理開始!トマトスープを煮込んでいる間にベーコンとジャガイモの醤油炒めを作る。
炊き上がったお米の半分にチーズを混ぜ合わせてお櫃に入れ、もう半分はおかかふりかけでおにぎりにして、出来上がったトマトスープと共にアイテムボックスへと仕舞った。
次は、お弁当用のサンドイッチだけど、おにぎりもあるから2種類でいいかな。
1種類目は、バターを塗ったパンに、薄く切った卵焼き、厚切りベーコンと野菜を挟む。
もう1種類は、この間の鰹の切り落としで作ったツナにタマネギとチーズを加え、お醤油とマヨネーズで味付けした特製ツナサンドだ。
朝飯はエビのお吸い物と卵焼きに、ジャガイモの炒め物、ご飯を盛っておかかをたっぷりかけ醤油をひと回し、うん!こんなもんでいいでしょう。
「ネッドさーん起きてますか?」
「んあ?悪い寝すぎたようだな。今起きる」
「おはようございます。洗面所にタオル用意してありますから、顔を洗って朝食にしましょう。」
ネッドさん、昨日トイレやお風呂場を案内したら、驚いてたなぁ。
窓もない石造りの部屋なのに、 お風呂やトイレまで付いて、扉は石でできた自動ドア…
ネッドさんの寝ているリビングも、パーテーションで仕切られいるだけなのに、キッチンからの匂いや音を遮断してあるから、不思議な感じみたい。
2人で食卓につき、私の頂きますを合図に食事を開始すると、ネッドさんは飾り切りした野菜やエビをかなり気に入ってくれたようだ。
「ん!この米、チーズが混ざっているのか、この上に乗っている物と一緒に食べると美味いな。それからこの汁に入っているこれは何だ?初めて食うが、これも美味い!と言うか全部美味い!」
「お口にあって良かったです。ご飯の上に乗っている物は、魚の燻製を薄く削った食材で、昨日のおにぎりにも入っていたんですよ。汁に入っているのはエビです。両方とも先日、港町で購入したものです。お代わりもありますから沢山食べて下さいね。」
グレイクも、私の作った食事は、かなりの量を食べるが、ネッドさんは熊のような体格の通り、本当に気持ちいいぐらいに、ご飯を食べてくれる。
そう言えば、エビの名前ってこの世界でもエビでいいのかな?まぁ間違えたで済むだろうし今度、確認しておかなくちゃ。
「これが魚の燻製?それに、エビ…こんな珍しい食材があったなんて、昨日から驚いてばかりだ。それに美味いだけじゃなくて、この汁は赤いエビに緑の葉野菜や、葉っぱの形の野菜が入っていて見た目も綺麗だな。」
「エビは、この間漁師さん達に処理の仕方を説明したので、これから広まってくれたらいいんですけど、今までは殻が固くて食べられないと思われていたみたいで、こんなに美味しいのに、処分していたなんて、もったいないですよね。」
「何!これが捨てられてた?そこの港も教えてもらえるか?」
「良いですよ。おじさん達も、もう無理な漁は体力的に厳しいって言っていたので、売れれば助かるでしょうし」
そうか、ネッドさんはギルド関係の方だった。
醤油や麺つゆもギルドに下ろさないかって言っていたし、エビがこの世界に広がれば、おじさん達の収入も増えるかもしれない。
あれ?でもグレイクがいないと街に行ったり帰って来たりって、できるのかな?
家に戻れなくなったら大変だし、後で中位精霊さんと会えたら、お出掛けできるの聞いてみよう。
食事を終えると、ネッドさんは鍛錬を行うと言うので、2人で片付けをし、外へ出た。
「なっ、ここは⁈」
「驚きました?ここ私の友人のとっておきの場所なんだそうです。綺麗な景色ですよね。」
2人で眼下に広がる広大な森を眺めていると、樹や泉の辺りから精霊達が集まって来る。
時間もあるし、皆んなと一緒にツユの実を探しながら私は散歩に出かけよう。
朝、煮ておいた鰹を手早く燻製器へと並べ、ネッドさんに散歩に行く事を伝えると、危ないからとネッドさんも一緒に行く事になった…
魔物も出ないし1人でも大丈夫なんだけど、鍛錬は良いのかな?
今日もたくさんの精霊さん達と森を進んで行くと、貢物タイムが発生し始めたので、慌てて今日の目的を伝える。
「みんなありがとう。あのね、知っていたら教えて欲しいのだけれど、ツユの実が採れる場所なんてあるかしら?あっ、もちろん川の手前でお願いしたいんだけど」
教えてくれる?と聞くと綿毛や動物達が先導してくれ、30分程進んだ先に、ツユの木が沢山生えている場所に辿り着いた。
今までツユの木など目にする事は無かったのだが、教えてくれたお礼をして、袋を広げると前回同様、熟した実と分けて、あっと言う間に収穫してくれた。
「こんなに沢山ありがとう。この前よりも……ん?どうしたの?」
袋の紐を閉じていると小熊姿の地の精霊が服の裾を引っ張り、誘導する為、慌てて実を仕舞い、後をゆっくりと追う。
精霊は急に立ち止まると前足を使い、何かを掘り起こし始めたので、覗き込んでみると大きな根っこのような物が2本でてきたけど、これは何だろう?
根っこを口に咥えて手のひらに乗せてくれたので、お礼の魔力と頭を撫で付ける。
なんだか、ここ数日は皆んな擦り寄って来てくれるからすごく嬉しい。
「クスクス、これは なぁに?グレイクが帰って来たら食べられるのか聞いてみるわね。大切なものをありがとう。」
「お、おい……」
「えっ…………あっ!すいません。私ったらいつもの調子で皆んなと……ってあれ?ネッドさんってこの子達の事、見えてます?」
「あぁ、薄っすらとした奴らも多いが粗方な。なんてゆうか……正直驚いてる」
「そうですよね、すみません。あの、この事は内緒でお願いします。」
「あ、ああ、それは大丈夫だが、なんと言うか…ははは」
不味い、最近の生活で精霊達と共に行動することが当たり前の毎日を送っていて、全く気にしていなかったけど、普通の人には下位の精霊達の姿は見えない事忘れてた。
よほど相性のいい人達で中位精霊達の姿が見え、多少の会話が出来たり、感情が伝わる程度。
上位精霊は会話も姿も見せる事は出来るけど、精霊自身の意思だ。
グレイクも家族の前でも姿を現す事は無い、それでも私の家族に何かあればお前が悲しむと守ってくれているから感謝している。
今更だが、グレイクが帰って来たら不用心だって怒られるかな?でも、ネッドさんは家からも追い出されないし、悪い人じゃ無いんと思うから大丈夫かな……
「と、とりあえずツユの実も貰えましたし、一度戻りましょうか?」
「そ、そうだな、それがいい。」
家に戻り、荒節の水分を抜き、再び燻製器へと戻す。
さてと、気を取り直してネッドさんに醤油と麺つゆの作り方を説明しますか!
先ずは、ツユの実の熟成具合について味の違いを説明し、実を大きなタライに出して、水を入れたら風魔法を使って洗濯機の様に洗う。
一度実を浮かせ水を替えたら、もう一度水洗いして、鍋に移す。
次が一番緊張する作業で、ミキサーにかける様に実を切り刻むのだが、前回グレイクと魔法の練習を兼ねて、この作業をやった時に威力が強すぎてお鍋が真っ二つになってしまった。
その後、練習を重ねて、何とかできるようにはなったけど、グレイクがいないから鍋一つ分づつ作るだけにしておこう。
この作業さえ終われば、火加減に注意して煮込むだけなので、工程を簡単に説明し、出来上がったものを濾しながら瓶詰めにして冷やして完成だ。
「とりあえず、今の作業で醤油と麺つゆが出来ました。そろそろ日が高くなりましたし、ここでお昼にしましょうか?」
「あぁ、そうだな。いろいろ整理もしたいし、休憩も必要だな。うん、うん?テーブルをだすのか?」
「はい、天気も良いですし室内に用意しますか?」
「イヤ、ここで良い」との声にサンドイッチのお皿とトマトスープを鍋ごと取り出し、器によそい、エビとイカのフリッターにマヨソースと果実水を出して準備完了。
「ず、随分と便利なアイテムバックだな。」
「ええ。父からのプレゼントで、とっても便利なんです。さぁ食べましょうか。」
「あぁ、」と、どこか遠くを見つめ上の空だったネッドさんは、ツナマヨのサンドイッチを口に運び数口食べ勧めたところで、いつもの勢いに戻った。
卵とベーコンのサンドイッチも美味いと言いながら食べてくれるが、どうやらツナマヨがとっても気に入ったらしい。
私は両方のサンドイッチを一つづつと、フリッターをお皿に取り、食べ進める。
ネッドさんもトマトスープを飲み干し、フリッターへと手を伸ばし、黙々と食べ進めていた。
「これはエビだろう⁈この白いものは一体?
凄く美味いのに、これもまた食った事のない食材だ。」
「イカです。これも朝、話した港で手に入れた物ですし、このサンドイッチはそこの燻製器の中に入れた魚をオイル煮にした物をソースで味付けした物ですよ。」
「昨日見せて貰ったが、この魚が、燻製するだけであんなにも硬くなるのか?」
「後でまたお見せしますけど、燻製しながら魚の水分を抜いているんです。あんなにカチカチになるなんて、驚きますよね。明日は今日作った醤油と麺つゆを使って一緒に料理をしましょう。使用量が分かった方がいいですよね。調味料の作り方はネッドさんに伝えましたし、これで誰でも作れますね。」
「あぁ、価格を設定するにはそれらが分かると助かるが、まさかこんな貴重なレシピを誰かに教えて作らせるつもりか⁈」
「えっ、だって私はネッドさんのお話をお受けできるか分かりませんし、作り方や使い方さえ分かれば、量産も出来るし、ネッドさんもいつでも食べられますよね?」
「イヤ、それはそうだが、そう言う問題じゃ、ねーんだよなぁ。」
?よく分からないと言う私にネッドさんは「そうだよなぁ。まだ幼いし、その割には商売の事も分かってるんだがなぁ」とブツブツ独り言を呟き、頭をガシガシとかく、結局友人が帰って来るまで俺もいろいろ方法を考えてみるという事で落ち着いた。
のんびりと食事を取り、午後はネッドさんの本来のお仕事である森の見回りに行くと言う事で、夕方6時までにここに戻らない様なら湖まで迎えに行く事を約束したのだが、全く心配いらなかった。
戻って来たネッドさんの手には大きな卵と引き摺られる巨大な鳥が、その光景に思わず顔が引き攣ってしまった。
いつも使っている大きな卵の生みの親だよね……羽の色は濃い茶色で、トサカはないし、足は長く爪がかなり鋭い。
羽は短く、その姿はまるで、脚の長い巨大なチャボ?
お世話になっているお礼だとそのまま捌いてくれるそうなので、遠慮なくその鳥を使って今日の夕食は葉野菜のお浸しに、吸い物と、それから鳥と卵と言えばそう!親子丼!親子丼にしましょう。
はぁー出汁と醤油のある幸せな生活、なんていいんだろう。
沢山作って…そうだ!鳥といえば、あれも!
ふふふ…下味の準備も同時にしておきましょう。
この大きな卵全部は使いきれないから、先に白身と黄身に分けて半分を防御膜で包んで茹でれば黄身と白身が別々のゆで卵の完成!
これは後日、活躍してもらいましょうっと、防御膜を解除したところでネッドさんが肉を運んで来てくれた。
「リアメルの魔法の使い方は独創的と言うか、なんと言うか不思議な使い方だな。」
「あっ、お肉ありがとうございます。私あまり魔法の制御が得意じゃなくて、お恥ずかしい話、簡単な事しか出来ないんです。お風呂沸いてますから宜しければ、ご飯の前にどうぞ。」
「魔力が多すぎるんだろう。自然と放出させる事が身につけば落ち着くと思うぞ。じゃあ先に風呂頂くよ。ありがとうな」
さて、山盛りのお肉達を切り分けて、下味をつけて冷蔵庫に入れるもの、今日使うもの、保管するものに分けて冷蔵庫とアイテムボックスに収納した。
大きく浅いお鍋でたっぷりの玉ねぎもどきと鶏肉を煮て、卵でとじれば完成!
最近保存食が物凄い量になってきたから、また鍋を買い足さないとなぁ。
お風呂上がりのネッドさんはシャツに黒いパンツのシンプルな格好だった。
そう言えば、ネッドさんって浄化魔法も使えるのかな?10日以上、彷徨っていた割に綺麗だったし、今もズボンや靴が綺麗になっている。
私は光属性が使えると分かった時、浄化魔法を一生懸命覚えたんだよね。
だって、汚れた服や体が一瞬にして綺麗になるし、何と言っても歯磨きの代わりになるんだもの。
ネッドさんの食べる量は大量なので、顔ほどもあるサラダボールに盛ったのに、お代わりを続け、5杯の親子丼をペロリと平らげた…恐るべし熊男さん!