第十九話「しずくが一回戦敗退!? ゲーム環境は思わぬ方向に!」
「嘘だよね……しずくさんが一回戦で敗退!?」
「しかも相手は同じデッキタイプだったよねー? 相性じゃなく実力で負けたってことー?」
十一月のとある週末、ショップ大会――もえは速攻デッキで、葉月は瞬殺されて一回戦を終え、しずくの試合を観戦すべくテーブルへと歩み寄った。
すると、しずくが対戦相手に、
「……あ、じゃあ負けだね。ありがとうございました」
――と、言ってる光景があった。
対戦相手は中学生の女の子で、何度かショップで見かける大会の常連。
自分でも信じられないのか手を震わせ、徐々にこみ上げてきた喜びで表情を弛緩させる少女。
今日までにもえも何度か対戦しているが、中学生相応のカード資産も関係してそれほど強いデッキを持っていない彼女。
だが、今日は見事ジャイアントキリングを果たしたのだ。
しずくはテーブルに広げたカードを片付け、相変わらずのポーカーフェイスでもえと葉月に合流した。
「一回戦敗退なんて久しぶりだよ。姉さんがいた頃はたまにあったけど」
「どうしちゃったんですか? しずくさんが一回戦敗退も珍しいですけど……さっきのってミラーマッチですよね?」
ミラーマッチとは同じデッキタイプ同士の対戦を指す言葉である。
「まぁ、そうなんだけどね。今回はちょっと運が味方してくれなかったみたいでさ」
「おやおやー? しずくー、負けた時に私が運のせいにしたら『そういうのはよくない』ってよく咎めてきたよねー?」
揚げ足を取ったとばかりに下世話な笑みを浮かべ、肘でしずくの横っ腹を突く葉月。
表情を変えないしずくは「あっち見てごらんよ」と言って、他の対戦している卓を指差す。
すると――、
「だーっ! なんでこんなに運が悪いのよ! ……あー、私の負けよ。ありがとうございました。……ほんと何なのよ、この環境は!」
手札を盤上に零し、頭をわしゃわしゃと掻いて今にも気が狂いそうなひでりは最低限のマナーを維持しつつも、どこか納得いかなさそうだった。
そんなひでりへと歩み寄る三人。
「え、ひでりちゃんも負けたの!? じゃあ、今日は二位になれないじゃん!」
「その言い方だと私が二位を目的にしてるやつみたいになってんじゃない!」
「いやーしかし、ひでりまで一回戦敗退なんて……これはちょっと普通じゃないねー。昨日発売されたカードパックでゲーム環境がガラリと変わったらしいけど、それが関係してるのかなー?」
「関係してるなんてもんじゃないわ……。ほら、これのせいで今の環境は滅茶苦茶よ」
そう言ってひでりが卓上が指で摘まんでもえと葉月に提示したもの。
それは――サイコロだった。
「サイコロ!? もしかして、カードゲームで使ってるの!?」
「そうよ。こいつの出た目に左右されるからこうして負けてんのよ」
「なるほど……しかし、ひでりちゃんも堕ちたね。それってテストの時に六角鉛筆で作ったサイコロ転がして答案記入するようなもんでしょ? ちゃんと自分で考えなよ」
「そういう意味で使ってるんじゃないわよ! 誰が『六の目出たから左から六番目の手札をプレイするわ!』……とかやんのよ!」
「じゃあ、どんな風に使うの? 正直、今までこのゲームでサイコロなんて使わなかったよね?」
ひでりは肩を落として嘆息し、盤上に置かれたカードの一枚をもえに手渡して確認させる。
そのカードのテキストはサイコロを使用する前提で書かれており、出た目によって能力が変わるギャンブル性の高いデザインになっていた。
「あー、それでしずくさんやひでりちゃんが運に左右されてるんだ!
しかしこのカード、六の目出したらたった一枚で相手の盤面が吹き飛んじゃうじゃん!」
「もう笑っちゃうでしょ? こういったカードが沢山今回のカードパックには収録されてるんだけど、そのどれもが一番悪い目を出しても損はしないようになってるのよ」
引き攣った表情で乾いた笑い声を漏らすひでり。
「つまりハズレを引いても普通のカードパワーはあって、当たりを出せばとんでもない爆発力を発揮するんだ……こんなカードが収録されてたんだね」
「そういえば今回のカードパックにそういうギャンブルカードが収録されるって話題になってたねー。でも、それほど強くないって私達は予測してなかったっけ?」
「不安定だし、強く見えないから仕方ないよ。でも、考えてみれば最低でもポケットティッシュは貰えるガラポンだからサイコロ振り得なんだよね」
「なるほどー。だから、私達は今回も魔の十三弾を箱で購入する羽目になったんだー」
「また新弾パワーカードダービーやったんですか……。多分、日本で一番十三弾が売れてる店ってここですよね……」
ギャンブルカードの流行が読めなかったという理由で賭け事に負けたしずくと葉月……と、おそらくヒカリ。
もえは皮肉を感じて苦笑いした。
「でも、どうしてそんなギャンブルカードが大量に追加されたんですかね?」
「まぁ、色んなカードゲームタイトルで時々行われるんだけど……これって初心者を迎え入れたり、救済するための措置なんだよねー」
「初心者救済……ですか?」
もえはピンと来ず疑問符を浮かべたまま、さっきしずくが対戦していたテーブルを見る。
すると、しずくに勝利した子のところへひでりに勝った少女が歩み寄り、互いの結果を報告し合って弾けるような笑みを浮かべていた。
(なるほど、運だけは上級者でも覆しようがないから、初心者でも勝ち得る方法になるわけかぁ。カードが揃ってない中学生でも全国クラスのしずくさんに勝っちゃうような凄い体験が――できちゃうんだ!)
もえは無邪気に勝ちを喜ぶ少女達を見つめ、微笑みを浮かべる。
「ただ、ちょっとギャンブルに左右されすぎてサイコロ大会になってる感じはあるんだよね」
「青山しずくの言うとおりね。プレイで介入する余地がなさすぎるというか……。しかも、ギャンブル効果を持ったカードが軒並み低レアリティだから誰でも組めちゃうのよね」
「とはいえ、運で得られるリターンが大きいからしずくさんやひでりちゃんも使わないわけにはいかないんですね」
理詰めで全てをコントロールできないゲーム性に不満があるのか、ギャンブルカードにあまり良いことを言わないしずくとひでり。
もえとしても、彼女らの気持ちは分からなくなかった。
(……まぁ、確かにサイコロ一つで積み上げた全部が引っくり返されたら堪らないよね。でも、メーカーは基本的には経験豊富な上級者のものになりがちなカードゲームをそういう風に壊したりするんだ)
ゲーム性を損なっているという意見もある運要素を、もえは「粋」だと感じていた。
なので――、
「まぁ、たまにはいいんじゃないですか? ずっと考えてばかりじゃつまらないですし、頭空っぽにしてサイコロ振るのも。あの子達の勝利に――泥を塗っちゃ駄目ですよ?」
もえは諭すように言い、しずくとひでりは揃ってきょとんとした表情を浮かべる。
そして、逆転劇を熱く語る中学生の少女達を見つめ――二人は穏やかに笑む。
「確かにそうかもね。運も実力の内っていうし」
「きちんと負けを認めるのも強者の振る舞いよね。……うん、私達の完敗だったわ」
しずくとひでりの納得に真の実力者としての風格を見て、もえは嬉しくなり――そして、葉月は二人を諭した後輩に未来を感じていた。
さて、そんな感じで綺麗に締めくくりとなるはずだったのだが――、
「でも、そっちはいいよねー。しずくさんに勝ったんでしょ? 私は万年二位のあの人だからちょっとランク落ちちゃうよね」
という、中学生達の会話が聞こえてしまい、
「――あ、こら! 万年二位に勝ったことの何が不満なのよ! マナーを一から叩き込んであげる。あんた、もう一回勝負しなさいよ!」
プツンと一瞬でキレてしまったひでりはずんずんと歩み寄り、中学生に再戦を申し込んだ。
しかし、勝ちが安定しないゲーム環境が影響し、ひでりはまたも敗北することになった。
○
――ちなみに。
「……どうしたんですか……ヒカリさん。そんな、浮かない……表情で。……一回戦は、勝ったはず……ですよ、ね?」
「そうなんですけど……堅実さが求められるコントロールデッキに運要素って相性が悪くて、私はデッキに入れてないんですよ。あの光景から蚊帳の外だなって……まぁ、それが良くもあるんですが」
嘆息し、もえ達のやり取りを見つめるヒカリ。
「……最後の一言、だけ……意味が分かりません、けど……ヒカリさん的には、どうなんですか……今の、環境は?」
「運要素のせいで何が起こるか読めないですね。でも、一回戦の相手はサイコロ運に恵まれていなかったので、ギャンブルカードがあまり強く感じなかったんですよね……」
この日――ヒカリはことごとく対戦相手の目が悪い状況に出くわし、あっさりと優勝してしまう。
これもまたギャンブルカードが持つ一面だった。
その後――ギャンブルデッキは運が良ければとてつもない力を発揮するが悪ければつまらない対戦になってしまい、人間はどうしても後者のイメージを強く抱くようで段々と飽きもあって使用者が減っていった。
――さて、この運が力に直結するデッキ。
運量がハンパではないもえや葉月が使うとどうなるのかという疑問があるが――想像するだけで恐ろしかったのか誰も提案せず、そして残念なことに本人達も気付かなかった。
各カードゲームの運要素というと、
・時の魔○師
・○チンコジャッジ
・アルティ○ットトリガー
・ゲット! クリティ○ルトリガー!
・我は父……あま○くの神!(特大守護、超回復、走らず!)
とかでしょうか?
あとはキーカードに依存するデッキにおいて、引けるか引けないかも運要素ですね。
……お前のことだぞ、エ○ラ! ヴァ○ディ! マ○ナ!
というわけて久しぶりの更新でした。
第七章を年内開始と予告してましたね。
何とか間に合うように書いてます!




