第十六話「三年生になったひでり! 新しい試みへ!」
四月――ひでりとしずくが三年生となり高校生活最後の一年が始まったこの時期。
ひでりはあろうことか「とある人物」の真似とも言える行動を起こし、それによって募った仲間四人と共にいつもの商店街を歩いていた。
……ちなみにその四人の内の二人は森久保かなでと影山美麗だったりする。
放課後になり下校の途中で彼女らが寄る場所は当然、カードショップ。
桜咲き、冬の凍てついた空気が少しずつ温められていくのを感じるこの季節。ひでりの行動によって生まれたそれは常日頃から悩んできた「カードゲームは一人ではできない」に対する回答とも言えた。
四人を引き連れてカードショップへ入ると、ひでりはプレイスペースにて盛り上がる集団を見つけてニヤリと笑う。
「これはまた大所帯ね。新一年生を迎えて規模が大きくなったようで……結構なことだわ」
腰に手を当て、尊大な態度と口調で語った言葉に反応したのは――カード部の部長として新一年生を連れてきていたもえ。
「ひでりちゃんこそ四人も連れてきてどうしたの? レンタルフレンド?」
「し、失礼ね! 可愛い後輩達であって、借りてないわよ! ……っていうか、この中の二人は顔を知ってるでしょう」
怒ったと思えば呆れた表情を浮かべたりと、忙しく顔を変えるひでり。
かなでと美麗にとっては慣れた光景であるが、ひでりを慕って共に行動している新一年生からすれば驚愕の光景だったりする。
「あの才女、新井山ひでり相手に軽口を!?」という感じ。
まぁ、かなでと美麗も慣れるまではかなり違和感があったようだが……。
「とはいえ、烏合の衆だわ。まぁ、せいぜいこのショップに通うならこの新井山ひでり様に名前を覚えてもらえるように頑張るのね」
腕組みをして見下すような気持ちで――しかし、物理的にはプレイスペースにて腰掛けている各々と同じ目線で偉そうに語った。
だが、そのような態度の裏でひでりは焦りに焦る。
(カードゲームを楽しんでね。困ったことがあったら私に聞きない! ……って言うつもりがどうしてこんな風に!?)
どうやら慣れた相手ならともかく、初対面の人間には素直になれない様子のひでり。
だが、そんな態度に彼女を慕う一年生達は目をキラキラと輝かせる。
「はいはいー新入部員の皆さん、この新井山ひでりという人は悪い人間じゃないんだけど、性格がひねくれてるせいでかなり面倒なので取り扱いには気をつけて下さいね!」
両手をメガホンのようにして五人の新入部員へこのショップの名物「万年二位」の取り扱いを警告するもえ。
「ちょ、ちょっと赤澤もえ! 何を一年生に吹き込んでるのよ!? まったく……しずく、あんたも後輩に好き勝手させてないで、部長としてしっかり注意なさいよ!」
そして、それに怒り散らして文句を言いつつ、しずくにも飛び火させるひでり。
後輩達にルールを教えるべくテーブル上でカードを並べていたしずくはいつものポーカーフェイスでひでりの方を向く。
「やぁ、ひでり、来てたんだ。……で、部長って私に言ってる? カード部の部長はもえなんだけど?」
「え……えぇ!? 何でそうなるのよ!? 三年生ってしずく、あんただけじゃないの!?」
「葉月さんがもえを任命したからね。まぁ、私としても自分の柄じゃないと思うし」
しずくの言葉に軽く頭を抱えて嘆息するひでり。
常日頃からしずくのことを考えているなかなかに病的なひでりは、今年からしずくがカード同好会改めカード部のリーダーとして活動することを信じて疑わなかった。
だからこそ、負けじと彼女も行動したのだが……。
「……まぁ、三年生が必ずしも部長でなければならないってルールはないわよね。当然、かしら……」
「そういうこと。悪いけどひでりちゃん、葉月さんが私を任命した以上、カード部の部長は私であり……そして、注意も指導もされないリーダーっていう立場なわけ。あー、人の上に立つって最高だなぁー」
「緑川葉月は絶対に人選を誤ってるわね……。まぁ、確かにしずくが部長っていうのも心配かもだけど」
納得のいかなさそうな表情で首を傾げながら唸るひでり。
一方、しずくからルールのティーチングを受けていた新入部員――緑川初芽が姉の名前を耳にしたからか「あのー」と挙手しつつ、もえに話しかける。
「もえ先輩、あの新井山ひでりさんという方……先ほどからフルネームで他人を呼んでいるのに、どうしてしずく先輩だけ名前で呼称するのでしょう?」
「あー、それ私もちょっと気になってたんだよね!」
「ですよねっ! さっきから疑問で疑問で……何か特別な関係だったりするんでしょうか?」
疑問を共有し、同じ表情でニヤニヤとしながらひでりの方を見つめるもえと初芽。
この二人、意外と性格的に合う部分があったりするのだが……それはまた別のお話ということになる。
さて、問い詰められてバツの悪そうな表情を浮かべるひでり。
そんな彼女に代わってしずくがまたもや会話に参加する。
「あれってクリスマスの夜だっけ? ひでりの家に泊まった時、突然私のことを下の名前だけで呼ぶようになったんだよね」
「な、何を言ってるの! しずく、元から私は下の名前で呼んでたわよ!?」
苦しい言い訳を、たどたどしい口調で語るひでり。
「おやおや、仲がいいんだねー二人共。しずくさんを自分の家に連れ込むなんて!」
「そうですよ。ひでりさんとしずく先輩もひょっとするとそういう関係なのかも……?」
「ち、違うわよ! ……っていうか、そこの緑川葉月ワンサイズ上みたいな見た目の子! そのひでりさんとしずく先輩『も』って何よ!?」
指差して咎めるような口調で投げつけられた言葉に、初芽はどこか嬉しそうに表情を緩めて「そうですか?」と答える。
一方、先ほどまで初芽と同じようにひでりをいじっていたもえは、話題に挙がっている「も」に関して心当たりがあるのか、目線を逸らして口笛を吹いていた。
さて、そのような会話も一段落したところで、バイト中の幽子がエプロン姿でプレイスペースの方へとやってくる。
「……あ、ひでりちゃん……いらっしゃい。……って、今日はまた……凄い人数で来たね。……レンタルフレンド?」
「あんたまで何言ってんのよ、黒井幽子! ……でも、まぁいいわ。そのいい質問に免じて聞き流してあげる。そうね、私が引き攣れてきたこの四人について説明させてもらおうかしら」
そう語るとひでりは不敵な笑みを浮かべ、広げた手の平で空を切って後ろにいる四人を差し示す。
それはかなでと美麗がもえとの和解のために戦った日、感じたことをそのまま行動にした結果であり、彼女の抱えていた「カードゲームは一人ではできない」ということへの回答。
「よく聞いてくれたわね! あんた達カード部に対抗するべくここにいる五人によって結成された、カード同好会よ!」
○
――新井山ひでりは一番にならなければ気が済まない人間である。
学業においては三学年においても早速トップの成績でスタート。そして、スポーツでは些か……というか超がつくほど小柄な体躯ではあるが、それを逆に利用した身軽な動きで運動系の部活動からも勧誘の声がかかる。
文武両道、まさに才女なのだが――そんな彼女、ひでりが趣味とするカードゲームでは打って変わって一位が取れない。
カードゲームの大会に毎週、出場しては準優勝の座に甘んじること数年。常に優勝を飾る最強プレイヤー――青山しずくの存在によって、一番でなければ気が済まないひでりは未だに地団太を踏むこととなっている。
だが、だからこそ新井山ひでりを夢中にさせるカードゲームの魅力がそこにあるのだ。
カードゲームをプレイすれば青山しずくがいる。それは新井山ひでりにとってのモチベーションであり、カードゲームに情熱を燃やす理由に他ならない。
一位にならなければ気が済まず、トップにこだわるからこそ、その座を掴めない競技を楽しめるというのは皮肉なもの。だが、一位が取れない競技から逃げるという考えが気に入らないひでりはひたすら、青山しずくを下すべく鍛錬を続ける。
――そんな日々の最中であった。
ひでりは才女であると同時に後輩からも慕われるよき先輩でもある。
彼女は放課後、カード同好会の後輩二人を引き連れてカードショップへ向かうべく歩んでいた。
かなでと美麗はそれぞれの所属する部活と掛け持ちであるため、頻繁には顔を出せないのだ。
さて、ショップへと向かう道を歩きながらひでりは青山しずくのことを考える。
(何とかあのポーカーフェイスを歪ませることはできないものかしら? ……とはいえ、どれだけデッキ構築を見直しても勝利には至らない。プレイに関してはもう少ししずくに相談して精度を高めるしかないわね)
素直な性格をしているわけではないひでりだが、自分のプレイを振り返って欠点を認めることにそのひねくれは作用しない。
そして、ライバルから教えを乞うことも。
勝つことには貪欲なのである。
さて、そんな時――視線の先、歩道を歩む女子高生の一団の中、鮮明に脳内で浮かんでいた友人と合致する顔を見つけたひでり。
(しずくじゃない! ショップに向かうのかしら? ……新入部員の五人もいるし、間違いないわよね)
後輩に「ついてきなさい!」と言って走るひでりは商店街へと至り、ショップの中に入っていくカード同好会の面々にあっとういう間に追いつく。
かつて、ひでりが下校中にカード同好会の面々を見かけ、車を途中で降りる……それが毎日のように存在している光景だった。
だが、今は違う。
新井山ひでり、才女でありお嬢様――そして、超がつくほどのひねくれものなのであり、青山しずくと将来の夢さえも同じくする友人なのだ。
だからこそ――、
「昨日ぶりに会ったわね、しずくーーっ! 今日こそはこのひでり様が勝つんだからっ! さぁ、勝負よ!」




